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隠者の国の果樹農家

前々話と前話がちょっと長かったですが、元の一話当たりの長さに戻ってます。

モネグリアの農場で捕まえた人は帝国人ではなかった。帝国の捕虜になって、そこから逃げ出した人たちで、セルは騙されていた。セルを収容所で見かけて、キツネ獣人の能力がお金に困らないと思い、騙して連れ出したのだと言う。


あのブローチを盗んだのは、単に城の宝物庫で一番厳重に保管されている物が一番高いだろうと思って、盗みだしたのだという。ところが、誰も本物を見たことがない王家の宝を信じる人などおらず、売れなかったのでつけていたそうだ。


あの帝国人たち、アタシたちより馬鹿な奴らだったのか。



「わたくしは、今しばらくこちらでお世話になりながら、セリーヌさんから踊りを学んで、神の試練を乗り越えられるよう努めます」


あの騒動の後、ストラが里に帰ろうと言い出したので、アタシ達は一年半ぶりに西の山脈を越える。

ザナラはまだ使者としての役割があるのでモネグリアに滞在しなきゃいけないんだけど、それが無くてもきっと残ったと思う。あの港町のカフェで踊っていたセリーヌさんに弟子入りをして、新しい踊りを習得するのだそうだ。


アタシ達の仲間に新たに加わったのは、キツネ獣人のセルと黒豚が十頭。黒豚達は賢いし屈強なので、戦力としてカラジョ義賊団に加わることを許した。


本当は旅をするならもう少し涼しくなってからが良かったのだけど、ストラが煩く急かすから、秋になる前にアタシ達は旅立った。

秋の始まる少し前に、谷底に着いたら、すっかりと景色が変わっていた。革製のテントばかりだった集落には、木製のガッシリした家がいくつか建っている。


「おや?カラジョ義賊団の皆じゃないか?」


「オババ様!皆は無事ですか?」


集落の様子の変化に何か有ったのかと思ったけれど、オババ様がニコニコしている所を見ると悪い事は起きていないのだろう。それでも咄嗟に出てしまったアタシの一言に、オババ様はパチパチと瞬きを二回して首を傾げた。


「ん?あぁ!木の建物があるから驚いたんだね?無事も何も、オプレーザが結婚したことと、天候が安定して移動せずに暮らせるようになった事くらいしか変わりないよ」


オババ様はカラカラと笑いながら言ったけど、皆驚いたらしく、ポカンと口を開けて固まった。


「お姉ちゃん、結婚したんですか?誰と?」


「家畜の世話が上手い彼でしょう?」


ターバックの言葉に、アタシが答えたら、オババ様以外の皆がまた驚いた。皆気付いてなかったのか?いやあの宴会中、それぞれの興味の対象に夢中だったから仕方ないか。


「なんで、カラジョが知ってるの?」


「宴会の時、一部始終を見てたからね」


オババ様はアタシ達の家は残してあると案内してくれた。途中でステファンさんや、毛織物の作業所で仲良くしてくれたお姉さん達にも会えた。会う人会う人にセルを紹介して、皆がセルののんびりした喋り方に目元を緩めていた。



テントに着くなりストラは、新しいボールを持って牧草地近くの遊び場に飛び出して行ったし、ザスティは香草の採集に飛び出して行った。その様子を見てたジェサ、ジビザ、ターバックは毛織物の作業場に向かうと言って、シャナもそちらについて行った。

今日の所はアタシが留守番して、テントの中を整えておこう。料理はできないけど。


十日ほど経った頃、ストラがオババ様を呼んで皆を集合させた。

ストラが突拍子もない事を言い出す気がして、シャナとチャーガ以外の皆は顔を引き攣らせている。


「オババ様、密林のさらに南に人はいますか?」


「密林の向こうか?そうさな、小さな国があったよ。今はどうなっているか知らないけどね。」


「その国にもサッカーを広めに行きたいんですけど、どうやったらいけますか?」


「あんた達なら密林の中も歩けるんじゃないのかい?それ以外の行き方となると、川で繋がっているから船でも行けると思うけど、あんた達船を漕いだことはあるのかい?」


秋から冬の間をアタシ達は穏やかに里で過ごした。船を作ったり、船の動かし方の練習をしながら。



牧草地に白い小さな花が揺れ始めた頃、精霊様の棲み家の前の川に船を浮かべて、アタシ達は知らない国へと向かった。黒豚も三頭は一緒に連れていく。サルジ曰くどうしても留守番に納得してくれなかったらしい。


川をすすんでいき、半日程で密林に入った。里や山とは違う種類の木が生えて、大きな葉が天然の屋根を作っていて、川でさえも日差しを遮られて薄暗くなった。日差しは遮られているのに、ちょっと暑くて肌がベタつく。


密林を三日ほど進むと、突然に視界が明るくなって、草原に出た。男の人と女の人が草原の岩に座って、こちらに手を振っている。アタシ達は一応船を岸に寄せてみた。


「ほら言ったであろう?そなたの予見も大したことないの。待っていたぞ精霊の友人たち。そこで船から降りて、船はあの洞窟にでも置いて、付いて参れ」


光に当たると銀にも見える白髪に紫の瞳の女性が、アタシ達と同じ色合いで薄いピンクの髪に青い瞳の男性を杖で突きながらニコニコとしている。皆に目で問えば、頷き返してくれたから、船から降りて付いて行く事にした。


草原には見たことない背の高い植物が何種類か生えていて、見付けるたびにザスティが食べられるかどうかの確認をする。


「お前たちの中にも、食に目のない者が居るんじゃな」


白髪の女性は紫の瞳を細めて、楽しそうに美味しい植物を教えてくれる。


「ここは、賢者様と代々の王様の異様な食への執着によって、農業が発展したのです。同じように見えても、ほかの土地で食べるのとは比べ物にならないほど美味しい物がたべられますよ」


男性はニコニコしているがどことなく草臥れた印象が拭えない。ストラに振り回されるミリテや総首長の相手をするニェゴーシュと似たような雰囲気だ。


「ここはサークリティという国さ。他のどこもここに国がある事を知らぬが、これでも三百年の歴史がある。まぁ、過去のことなどどうでも良い。せっかく来たのじゃ、今のこの国をよく見て、旨いものを沢山食べて行くが良いさ。ころで、其方、そのスカーフはどこで手に入れた?」


賢者様と言われた白髪の女性が、サルジに話しかけた。


「母の形見です」


アタシ達とは何とか話せるようになったけれど、それでも無口なサルジが絞り出すような声で答えた。白髪の女性がサルジの瞳をじぃっと覗き込む。


「其方、魔物を従える力があるな?そこの三頭の黒豚は、其方の……友達か」


「精霊様は、僕の魔力に怯えているだけだと仰っていました」


「はんっ、あのヒヨッコ精霊め。魔力とギフトの区別もつかないとは嘆かわしい。其方は、この国の一族の末裔よ。かなり縁戚だが、ここの女王と同じ血筋じゃ。その力は動物達の尊敬を集めているのさ、誇って良いものよ」


色々な事に驚きつつ歩いていると、集落や農地が見えてきた。出会う人たちは、里の人たちと同じように、好意的な言葉で挨拶してくれた。


「シェネン様、その方たちが予見されていた、新しい風を呼び込む者ですか?」


「私たちも今会ったばかりだから、どんな新しい風が吹くか分からないけど、その青年は食べ物の知識が豊富な様だから、しっかり交流をすると良い」


国の中はアタシ達と同じ色合いの人と、獣人が何種族かが住んでいるという。

アタシ達を出迎えてくれた男性は、予見と言って未来が見える特殊能力を持ったシェネンさんと言い、法務官と宰相を足したような僧侶という役職をしているそうだ。

女性はナーラさんという名前の賢者様で、もう一人オビリシュという名前の番人という役職の人が女王様と一緒に国を纏めているそうだ。


アタシ達は女王様が住んでいるという、集落の中で一番立派な建物に案内された。


「この方達が新しい風を呼び込む者ですか。ようこそ誰も知らない国サークリティへ。私たちは新しい風を歓迎します。さて、皆さんが寝泊りするところはどうしましょうか?」


「予見をしてから支度をしております。西の農場の手前、川と川の間の屋敷を使ってください」


アタシ達はオビリシュさんに案内されて、用意してもらった屋敷に向かった。


「ふむ。チャーガ君。今度私と一緒に狩りに出ないかい?君の身のこなしは僕にとっての新しい風だと思う」


翌日から沢山の人がアタシ達に会いに来た。

ストラは迷わず子供を引き連れてサッカーに行ったし、ザスティは農家の家を巡るようになった。ターバックとジビザはここで育てられている家畜の毛がサラサラな事に興味津々で、女性たちと新しい糸や布を作っている。

当然のごとく、サルジは同じ特殊能力を持っている女王様の所へ通い、チャーガは初日にお誘いされた通りオビリシュさんと、体術の訓練や、狩りに出かけたりなんかしてすごしている。悪戯好きのスロボはその悪戯の仕掛けが狩りに応用できそうだとオビリシュさんに言われて狩人さんの中に放り込まれた。


特別な知識や技能がないアタシとジェサ、ミリテ、シャナ、セルは、家の中の事をしたり、誰かに付いて行ったりなんて事をして日々を過ごした。


「カラジョ、アタシ達って悪い奴を懲らしめながら旅をする義賊団だったよね?」


「ジェサはこの暮らしが不満?」


「そんな事ないけど、ザスティとセルのあの様子を見ると、『アタシ達は商人だったかな?』って不安になるの。商人になったら、頭の悪いアタシは追い出されそうで」


ジェサとアタシの視線の先では、ザスティとセルが、「この国の野菜は他の国に高く売れる」と農家の人たちに演説をしている。「美味しい食材は全人類の宝だ」とザスティは常に言っている。確かにこの国の食べ物は美味しいとアタシも思うけど、売って回りたいとまでは思っていない。


「あいつらが野菜を売って回りたいなら、出ていくのはあいつらなんだけど、アタシはあっちの方が心配だよ」


ザスティの演説そっちのけで、グミという実を食べながら喋っているストラと果樹園の息子の姿が見える。果樹園の息子はリス獣人でラダックという名前だったと思う。足が速い上に、ボールを五十歩以上も先に蹴り飛ばせる。


ストラはラダックの家で作っているグミを殊更に気に入っている。プニっというか、グニっというか言い表せない、柔らかいのに噛み切れないあの食感が好きだという。甘味はあるけどほんのりとした甘さだから、ジェサやターバックは他のもっと甘い果樹の方が好きだと言っていた。


この国に来てから日常となった光景を眺めていたら、シェネンさんが慌てた様子で走ってきた。


「カラジョさん、緊急事態です。急ぎ、元居た所に帰ってください。申し訳ないが我らは騒乱の風は受け入れられないので」


「どういう事です?」


シェネンさんの姿を見た皆がアタシの周りにざわざわと集まり始める。『騒乱の風』という言葉が聞こえた人達が不安そうに眉を寄せて、一部の人の雰囲気が尖ったのを感じた。


「派手な衣装を着た、身分の高そうな男性が皆さんを探している様子が見えたのです」


シェネンさんが予見で見たのはきっと総首長の事だろう。あの人が動くのは、北の大陸か帝国が攻めてくるって事だろうか。いや、あの総首長が来るだけでも騒乱かもしれない。


「分かりました。支度をして、明日にでも出発します」


「待ってください!」


アタシの決断に、多くの人がホッとした空気を漂わせるなか、ザクザクと草を踏みしめ、人を掻き分けラダックが目の前に来た。


「僕も!僕も皆さんと一緒に連れて行って下さい!ストラさんと一緒に、サッカーとグミを広めたいんです!」


人ごみの後ろでストラとザスティがニコニコしている。なんで、当事者なのに、そんな所に居るんだか。でもまぁ予測の範囲の事だ。


「明日の出発までに、親父さんの了解をもらっておいで!」



「ご迷惑かけると思いますけど、連れて行ってやってください」


翌朝ラダックの親父さんは、十本のグミの木の苗をアタシ達に持たせてくれた。他の人たちも沢山の食料や、ここでジビザとターバックが生み出したフワフワの布なんかを交流を持っていた相手に手渡してくれた。


「姿を隠したくなったら、いつでも帰っておいで」


「サッカーまたやろうねー」


多くの人に見送られて、アタシ達の船は川を遡っていく。流れに逆らって漕ぐのが、思ったほど大変じゃない事を不思議に思って五日後、精霊様の棲み家の前にたどり着いた。


精霊様の棲み家の葉が秋色に揺れる前で、オババ様と総首長が待ち構えていた。岸に近づけると、総首長が乗り込んできた。


「カラジョ、急いでモネグリアに行くよ」


「オババ様も行くの?山道険しいけど」


「山道を歩く必要なんてないわ。私が運んでやる」


オババ様大きな竜に姿を変えて、アタシ達の船を掴んでフワリと飛び立った。


新キャラ

ラダック;果樹農家の三男。ロングパスの正確さにストラが惚れ込んでいる

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