同郷の孤児達
あれから、一月が経って真夏の日差しが街を焦がしている。アタシ達は商人が手配してくれた、石造りの宿で寝泊まりしている。商人は安宿って言ってたけれど、アタシ達が居た村のどの建物よりも立派だ。壁に触ったら冷たくて、壁のおかげか部屋の中も涼しい。これから秋に向かって寒い季節になるから、少し不安もあるけど。
毎日、朝と夕にパンも食べられて、あの商人がどうしてそこまで善くしてくれるのか、アタシには分からない。
商人の店は主に家の中に飾る芸術品を扱っていて、ついでに日用品も売っている。
アタシとザスティの仕事は、商人が仕入れに行くときの荷物持ちや、安い日用品を扱う商店からの仕入れのおつかい。こうやって仕事をさせてもらえるのは、村に居た頃にストラがアタシ達に計算を教えてくれていたからだ。町に来た日にストラが言った義賊団はまだ組めていないけれど、不満のない日を過ごしている。
「カラジョ、ザスティ、明日はちょっと気を遣う仕入れに着いてきて荷物運びをしてくれ。ストラの力も借りたいけど、あちらも大事な仕事だからな」
今日はお遣いに出ていて、店に戻ってきた所で呼び止められた。店を構えていて、商品も並べているけれど、アタシはこの店のお客を見たことがない。仕入れはするけど、売っているのを見たことがない。けれどお金がなくなる事もない。不思議な商会だと思う。
それに商人は大事な仕事って言うけれど、ストラはシャナを連れて遊びに出かけているだけだ。街の外れで同じくらいの年の子を集めて毎日サッカーばかりしている。子供達と遊ぶことは街の治安に役立っているって商人が言ってたけど、アタシにはよく分からない。
「一緒に行くのは、自分達だけですか?」
「そうだ。ザスティ頼りにしているよ」
高級な物を仕入れる時には、商人がこの町で雇った人間も一緒に行くのが常だが、明日は違うらしい。さっきの言葉でザスティはどうしてそれに気付いたのだろう?勘なのか、それともアタシが理解できていない何かなのか。
いつの間にか、ザスティは商人から頼られる様になっていた。
村に居た頃、近くの森に行くときに案内役をしてくれていたザスティは、道や景色を覚えるのが得意だったらしい。外の景色だけじゃなくて、『物』を覚えるのが上手い。別の場所で見たものが、不自然に取引きされている事に気付いて、盗品を掴まされるのを何度も防いでいた。
アタシも何か役に立てるようになりたいと思う。
次の日買い付けに行くと言うのに、荷車も背負子も持たずにアタシ達は出掛けた。つまり、商人の見立てでは、この取引は怪しい物が出てくると思っているって事だ。
着いた場所は、街と村々を隔てる壁の近くにある、小さな商会だった。
ちょっと低めの扉を潜ると、三段下って空間が広がっている。湿った冷たい空気に薄暗さもあって、少し不気味な感じがする。壁際に並んだ黒い棚は空きが目立つし、棚の並びも何となく不自然な気がする。
どこがどうおかしいという説明は出来ないけれど。
黒く塗られた棚が置いてあるって事は帝国の商会の支店か、帝国人に媚びているかのどちらかだろう。全くお客の居ない店を抜けて、奥の商談部屋へと通された。この町の商店はお客がいないのが普通なんだろうか。
通された部屋で商人はソファに座り、アタシとザスティはその後ろに立った。商人の正面には金髪に茶色い瞳、黒い服を着た、恰幅の良い、あからさまな帝国人が座った。この人が今日の取引相手か。
「噂の御仁に会えて嬉しく思いますよ」
「噂ですか?」
爽やかとは程遠い笑顔で帝国人が話しかけた。アタシから商人の顔は見えないけど、きっと初めて会った時の様な笑顔なのだろう。
あの時は優しそうで、話しやすい印象だったけど、今は何考えているのか読めない笑顔だと思う。どんな会話をしても崩れない笑顔。その顔で商談した後の悪態を何度も聞いたから、表情に騙されちゃいけないって事を知った。
相手の帝国人も、きっとあれで考えを隠す笑顔なんだろう。胡散臭くしか見えないけど。
「多くの身寄りのない子供達に、慈悲の手を差し伸べているそうじゃないですか。皇帝陛下もお慶びになるでしょうね」
「ははっ。噂とは尾鰭がつくものです。私が差し伸べた手などたったの二本です。それで、皇帝陛下の忠実な臣民たるネガロ商会さんから、わざわざお声掛け頂いたのはどのような商談でしょう?」
「西方は芸術を好まれる方が多いと聞きましたのでね」
商人が珍しく、雑談もせずに本題を切り出した。帝国人も特に雑談を長引かせる事もなく、使用人に商品を運ぶよう合図をした。運ばれてきたのは、大きな壺や彫刻、絵画、小さいものでは派手な装飾の食器類。特に珍しいものという印象はない。
「ほう、これはなかなかな品々ですな。ふむ、ザスティ、カラジョ、どれくらい運べそうかな?」
言葉の真意は分からないけれど、商人は一応買って帰るつもりでいるらしい。
振り向いてザスティに問いかけつつ、何か目くばせもしている。アタシには全く理解できないけど、ザスティは理解したみたいで、考える振りをしながら、並んだ品物を順に見つめた。
「そちらの大きな壺は日を改めて頂きたく。食器類の方は、自分一人でも運べそうです」
「ザスティが食器を運ぶなら、アタシは絵画ですね。絵画は軽いのでここにある五枚は運べると思います」
さっき問いかけられたとき、アタシの名前も呼ばれたから、アタシに出来ることを答えたのに、商人とザスティの二人から睨まれた。
「二人とも荷運びでは困るよ。まだ街の治安が良いとは言い切れないんだから。今日はこの食器類を買う事にしよう。カラジョ帰りは護衛を頼むよ」
カラカラと笑いながらアタシに注意した商人は、あっさりと十程の食器を言い値で買って商談を終わらせた。沢山買ったときは値切る物だとアタシに教えていたのはなんだったんだろう?
護衛を言いつけられたから、いつでも火魔法を投げれるように構えながら、商人とザスティの前を歩いていく。街の中のこんな明るい道で物取りなんてないと思うけど。
店に戻ったアタシ達をストラとシャナと、なぜか白いふわふわの耳がついた獣人の子供が待っていた。
「カラジョ!義賊団の団員にどう?」
どうって言われたって、獣人なんて初めて見たし、まだ義賊団を組んでもいない。獣人の頭の上の耳は丸っこくてふわふわしている。シャナと同じくらいの身長でアタシを見上げる目がウルウルしている。とても義賊って感じには見えない。来ている服は随分とボロボロでどう見ても弱い。
「んんっ?白くま獣人?北の大陸の北の果てに住んでるんじゃないの?」
なんて答えていいか困っている間に、商人が目を丸くしながら、大きな声で問いかけだした。商人はこの獣人の種族を知っているのか。その驚き具合からすると相当に珍しい種族なのかな。
「帝国の犠牲者だよ。無理やり兵士として連れてこられて、暑さで動けなくなったら捨てられたんだって」
商人の勢いに気圧された様にストラの背中に獣人が隠れてしまったので、ストラが代わりに答える。やっぱりめやくちゃ弱そうで、義賊の仲間には向いていない気がする。暑さで動けなくなる種族ってのも困るだろうし。
「今、平気そうな顔をしているのは?」
「シャナが氷魔法をかけてあげたの」
商人の問いかけに、シャナが胸を張って答えた。これは、シャナが気に入ってしまったから、一緒に過ごす口実で義賊団の仲間なんて言い出したな。シャナに甘いストラらしい。
「チャーガはね、すごいのよ。お兄ちゃんよりもすごいの。だからシャナが助けてあげるの」
シャナの言葉に、ストラが頬を膨らませた。商人はじぃっと獣人の少年から目を離さない。
「ストラより凄いってどういう事?」
「チャーガが、ビューンって走って、お兄ちゃんの足元からボール取っちゃうの。そしたらお兄ちゃんはもう追いつけないのよ。それに、真っ暗な所でもチャーガは平気なの。お兄ちゃんは動けなくなるのに!」
シャナの説明は、分かるような、分からないような。大体真っ暗な所で動けたって、いったいどんな場所で遊んでいたんだろう。誰かアタシに分かるように通訳してくれないかなと思って、ザスティを見たら首を振られたし、ストラにはソッポを向かれたままだ。
「カラジョ、本当に義賊になるかい?なるなら、彼は仲間にしたほうが良い。決めてくれれば、早速頼みたい仕事があるんだけど」
ジイッと獣人の少年を見ていた商人が急にアタシの方を見たと思ったら、もっと訳の分からない事を言い出した。
「こんなに弱そうなのに義賊に向いてるの?しかも仕事って?荷物持ちじゃなくて、義賊として?」
「そう。白くま獣人なら寒さに強いから真冬の夜でも動ける。シャナちゃんが言ってた様に暗がりでも見える種族は、夜に動く義賊には必要だろう?それから、義賊としての仕事はちょっと急ぎで頼みたいんだ。だからできれば彼を仲間にして、今すぐにでも義賊団を組んでほしい」
「ザスティはどう思う?」
「良いと思う。多分、あの子から学ぶことは多いから」
アタシだけが、この少年の事を理解してないらしい。役に立てないし、分からない事が多いしで情けなくなってくる。けど、どんなに情けない気持ちでも顔に出して弱味を見せない様にしなきゃ。
「アタシはカラジョ。よろしくね」
ストラの後ろで小さくなってる獣人の少年の所に歩いていって、握手の為の右手を差し出した。アタシは商人みたいに上手く綺麗に笑えてるかな。
獣人の少年チャーガは、ソロリと手を出してアタシの手を握り返してから、ニッと笑った。獣人と言えば八重歯のイメージがあったけど、チャーガは綺麗に並んだ歯を見せて人懐っこく笑った。
「それで、義賊としての仕事って?」
商人へと向き直って尋ねれば、今仕入れてきた商品の荷ほどきを初めて、台に並べだした。どれもこれも派手だけど特別高そうな物にはやっぱり見えない。
「ザスティ、今日の取引き現場に有ったのは壺だけが盗品だったのかい?」
「いえ、この食器も盗品ですよ。どうするかは旦那の判断に任せるけど、これは最初に食事をした店の物ですよ」
「そうか。あの店なら信頼関係もできてるし、どうやってネガロ商会に物が渡ったのか聞きだせるな」
商人はアタシ達に、今日仕入れた物を持って奥の倉庫へ行くようにと指示した。倉庫は初めて入る。なぜか、ストラは場所を知っているらしくて、先頭を歩いていった。品物の殆どはチャーガが持ってくれた。見かけによらず力持ちだとアタシに見せたいからと。
店の奥の奥。商談室の奥の階段の後ろが倉庫だった。倉庫と言うには、置かれているのは低いテーブルとソファと、空っぽの棚で使っている様には見えない。
「密談用の部屋だよ」
ストラがヘラっと笑う。あの笑い方は嘘をついているか、隠し事をしているのだろう。何だか悔しくてジロリと睨んだ所で、着替えた商人が入ってきた。商人が一人掛のソファに座り商人の右側のソファにアタシとザスティ、左側のソファにストラ、シャナ、チャーガが座った。
「実はな他の商会から、ネガロ商会から仕入れたものを売ってたら窃盗の容疑を掛けられたという相談が有ってね。それで様子を見るために色々仕掛けてたんだ。上手いこと仕掛けに引っかかってくれて今日の取引さ。大当たりだったわけだね」
商人の詳しい説明によると、「戦争で貧しくなった者が居るのに、華美な物を持つのは平等ではない。神の教えに背いている」等と言って帝国の駐留兵が略奪行為を繰り返しているらしい。
しかも、略奪された品をネガロ商会が、元々この町で商売をしていた人たちに「商品が無くてお困りではないか?商人も平等でなければいけないから、うちの商品を分けてあげよう」等と押し売りをする。
その押し付けられた商品を店頭に並べると衛兵がやってきて、「盗品を売るのは犯罪だ」と捕縛していくらしい。
「商品の経路が略奪や搾取によるものなら、それらを取り返すのは、義賊の仕事だろう?しかもこの仕事、ひとつの品物で救われるのは、奪われた人と売り付けらる人の両方だ」
「やるしかないね」
カラジョ義賊団が生まれた瞬間だった。
話を聞いてからザスティは商人と一緒にいくつかの商会へ行き、略奪行為に会った人たちから話を聞いた。
アタシはお使いと称して街のなかを歩き回って、人目につきにくい場所や路地、衛兵の警ら順路を覚えていった。
ストラ達は、商人以外に搾取された人がいないか、子供達と遊びながら情報を集めた。
そしてまだ街のどの商会にも押し付けられていない物が、いくつかある事を確認してきた。
今日は、カラジョ義賊団の初仕事だ。
人々が寝静まり、町中の明かりも消えた時間、壁に近い小さな店の裏口の前にいる。シャナが細い棒を扉の鍵穴に突っ込んで、あっという間に鍵を開けた。裏口を入ると土の床で、小さな竈のある部屋だった。
この前商談をした部屋を通り過ぎ、商品棚が並ぶ店舗部分へと向かう。ここ数日、チャーガに歩き方を教わったお陰で、誰も足跡を立てずに来れた。この前商談に着いて来た時に壁に不自然な所が有ったと、ザスティが指し示す所を見ると、確かに壁の色が微妙に違う。アタシが違和感を感じていた棚はカモフラージュだった。
「帝国式の隠し扉ですね」
チャーガが床や壁をコンコンと数回ずつ叩くと、壁が横にズレていく。隠し扉の向こうは真っ暗。これはアタシの出番かな。夜目の効くチャーガに壁に備え付けのランプまで連れていってもらって火魔法で灯りをつけた。
ぼんやりと明るくなって部屋を見回せばその部屋の棚にほとんど隙間はなく、統一感のない物が色々と置かれていた。あの日見た大きな壺や絵画は無造作に床に置かれている。
「うわぁ、随分色々巻き上げたもんだなぁ。ストラ、上の棚の物を落とせるか?」
「ん?あの箱?」
アタシとチャーガが商人から言われた通りの物を探してるってのに、ザスティとストラは違うものを物色し始めた。アタシ達は義賊なんだ。只の物取りじゃないんだよ。
仕事を先にする様に言おうとしたら、ストラが例の魔物の甲羅を床に置いてポーンと高く蹴りあげた。魔物の甲羅は棚の角に強く当たって棚を揺らした。棚が揺れると同時に箱が落ちてきて、棚の下に居たシャナの手にすっぽりと収まった。
落ちてきた箱の中には、花を金属で象ったブローチが入っていた。宝石なんて付いてないただの金属の縁だけの花。箱を開けた瞬間アタシ以外の皆が頷きあった。またアタシだけ知らない何かだ。嫌になる。
商人に言われた物と、ザスティがいくつかの小物を回収して、来たときと同じように裏口から出ていく。ご丁寧にシャナが鍵をかけ直していた。
初仕事の翌日、皆に言われて、ストラが子供達と毎日遊んでる路地に来た。来た途端にストラは四人の子に囲まれた。男の子が三人と女の子が一人。一人だけアタシ達と同じくらいの男の子で、他はシャナと年が近い感じ。
「ストラ、サッカーしよー!」
「今日は負けないよ、壁当てしよ!」
「えー!今日はストラ退治じゃないの?」
キャイキャイとはしゃぐ四人を連れて、路地のもっと奥、三方向を建物に囲まれた所にストラは歩いていく。アタシは荷物を持って後ろからついていく。
路地の突き当たりの壁にはいくつかの白い印が書かれていた。
壁の手前に例の魔物の甲羅を置いてそのすぐ手前で一番背の高い子が構えた。左足を後ろに軽く引いて、親指側の側面で甲羅を蹴った。ポンっていう軽い音がして、動作から予想したよりも高く飛んでいく。壁の右上に書かれた印に命中した。
「ミリテすごい!」
キャイキャイと皆が騒ぐ中、シャナくらいの背の男の子が甲羅を回収して、壁の手前に置いた。その子は甲羅からすこし離れた所で構えた。勢いよく走っていって大きく後ろに振り上げた足は、甲羅よりかなり上を通過した。
「スロボ、できないくせにカッコつけようとしちゃダメだって!」
濃いピンクの髪があちこち跳ねた女の子がゲラゲラ指差しながら笑う。皆つられた様に笑いだした。ストラも笑ってる。
村にいた頃、甲羅を蹴って遊ぶことはあったけど、ストラがこんなに笑ってた事ってあったかな。アタシ達よりこの子達との方が仲良くなった?こんな短い間に?アタシは……役に立つ事もなく、知らない事だらけで、友達も作れない?
「カラジョ!」
焦るような気持ちでぼんやりとしていたら、ストラに呼ばれた。見るとさっきまでは居なかった女の子がストラの横で泣いている。
「ストラ、何して泣かせたの?」
「……ちがっ……兵隊さんが、お母さんの、首飾り、持っていっちゃった」
ヒック、ヒック、と泣きながら女の子は一生懸命に説明してくれる。青い石のついた革ひもの首飾り。青い石は雫型で、青は、濃い青。昼の空じゃなくて夜の空の色の青。革ひもは木の幹のような茶色。
「お姉さんの仲間になれば、取り戻してくれるって、ストラが、言ったの。おねがい。私も仲間にして!」
言われた特徴の首飾りを見たことがある。というか今アタシが持ってる袋の中に入っている。こんなに泣くほど大切な物なんだろう、返さないなんて考えられない。
「大切な首飾りなんだね?」
小さく頷く女の子の手をとって、その手の中に首飾りを握らせる。女の子が手のひらの中を確認して、ピタリと泣き止んだ。
「お姉さん!アタシも仲間になったら、おばあちゃんの指輪取り返してくれる?」
「僕の父さんのブローチも!何でもするから!」
さっきゲラゲラ笑ってた女の子が真剣な顔で言い出して、的に命中させた男の子は必死な顔でアタシの手を掴んだ。
どんな物か聞けば、どちらもまた袋の中に入っている。ストラの作戦かと思って、ストラの方を見たけど、アタシの視線に気付かない振りでさっきまで泣いてた女の子と話している。
「指輪と、ブローチ。この細工箱は誰の宝物だったの?」
袋に入ってた物を全部だしたら、さっき盛大に空振りした男の子も走ってきた。細工箱をそうっと持ち上げて抱き締める顔は、さっきまでのふざけていた時とは全然違う。
「お姉さん、ありがとう。僕も!僕もお姉さんの仲間になるよ!」
スロボという少年はひとしきり箱を抱き締めてから、確認するように箱を開けた。そうして箱を開けた瞬間に目を丸くして固まった。
「サルジ!」
スロボの大きな声は、壁に囲まれたこの場所で響いた。呼ばれた男の子はソロソロと近寄ってきて静かに箱の敷き布を手に取ると、そおっと頬擦りをした。箱の中の敷き布だと思っていた艶々の布はその子の宝物だったらしい。嬉しそうにニッコリ笑ってあたしの手を握った。
「サルジ、こういう時くらいちゃんとお礼言いなよ」
「ありがとう」
その場に居た五人も一緒に店に行くと、商人がニコニコしながら待っていた。
「ストラ、上手くいったんだね。さぁ、お尋ね者になる前に街を出よう」
秋の始まり、アタシ達はポシェタの王都だった街を出て、西へと旅をはじめた。
一気にキャラが増えたので軽くだけ紹介しておきます
チャーガ;シロクマ獣人、夜目が効く。足音を立てずに動ける。足が早い。
ミリテ;十四才男子 冷静 常に周囲の観察と分析をしている。ストラの動きをよく見ていたので壁当て成功
ジビザ;泣き虫な女の子 首飾りを取り返してもらった
サルジ;寡黙な十二才男子 特殊能力持ち。スカーフは遠い国から嫁いできた母の故郷で作られたもの
スロボ;お調子者でいたずら好きの十歳男子。細工箱は父親の手作り
ジェサ;陽気な十二才女子 ゲラゲラ笑う かなりの癖っ毛