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異国の商人

昼ご飯を食べ終わった時、突然村に大きな馬車がやってきて、やたら偉そうな人たちに馬車に乗るように命令された。連れてこられたのは、村の大人達から近付いてはいけないと言われていた、石の壁の前。アタシが壁だと思っていたそれに扉が付いている事を始めて知った。


アタシ達の村は土と木で建物を作っているけれど、壁の向こうは石で出来ているらしい。人混みの隙間からだし物凄く遠いけれど、何となく灰色っぽい景色が見える。

灰色の壁の上に何人かの人が、並んでいる。丁度真ん中に立っている人の真っ黒なマントがはためいているのが見える。回りの人より頭が高いところにあるその人はこちらに背を向けている。


「遂に帝国は魔法にも手を伸ばしたか」


聞こえてきた呟きに振り向いたら、アタシ達とは明らかに身分が違いそうな、身なりの良い男の人が居た。壁のこっち側なんてアタシ達みたいな村人しか居ないと思ってたのに、この人はどうしてここにいるんだろう?


「テイコク?」


やけに高いところから、高い声が聞こえて振り向くと幼馴染みのストラの肩の上に、彼の妹のシャナが乗っていた。前が見えないと怒る後ろのオジサンを、アタシの後ろに居る幼馴染のザスティが宥めてる。


「ん?あぁ、お嬢さん前の様子がよく見えるかい?私に壁の周りの様子を教えてくれたら、帝国の事を教えてあげよう」


立派そうな男の人はアタシの頭越しにシャナへ話しかけた。シャナは兄であるストラの肩の上で、前をよく見ようと、身を乗り出した。いつもの事なのでストラは微動だにしない。シャナが落ちないように足を支える腕にぐっと力を入れたみたいだけど。


「壁の周り?壁の上も前にも、怖そうな黒い服を着た人が並んでるよ。壁の向こうを始めて見たけれど、お兄ちゃんから聞いてるお伽の国みたいね。灰色の建物ばかり建っているみたい。あの壁の向こうがテイコクなの?」


シャナが自由に喋るのをストラが注意しないって事は、この身なりの良い人は無害なんだろう。ストラはアタシと同い年なのに、色んな事を知っていて大人みたいで、シャナに対して過保護だ。村に宿を借りに来た旅人にシャナが近付いただけで「村の外に人と話をしてはいけない」と大騒ぎをしていたくらいに。


アタシはあの旅人さんからいくつも面白い話を聞いて良い人だと思ったんだけど。特に、弱い人の為に悪者を成敗する義賊って人たちは素敵だと思った。アタシもいつかは村を出て義賊の仲間になるんだ。

ストラは今、何を考えているのかわからない顔で真っ直ぐに壁の上を見ている。


「いや、あの壁の向こうもお嬢さんの村を治めている王さまの国だったよ。帝国は海の向こうの国さ。僕は帝国から少し離れた国から来たんだけどね」


「海があるんですか?」


ハハッと笑うおじさんに返事をしたのはストラだった。ストラにも知らない事があるのか。ストラは嵐が来る前や、怪しい商人が村に来た時、何故かすぐに気付いて、そういう時だけ大人の話し合いに口を挟んだりしていた。ストラの発言で村は何度も危機を乗り越えてきた。


「この国の北にいくつかの国が有って、そのもっと北に海がある。それから海の向こうにも沢山の国がある。帝国は、というか皇帝は全ての国を手に入れたいらしくて、ずっと戦争をしていて、海の向こうの殆どの国は帝国に飲み込まれた」


「この国の戦争は二年前に始まったんですが、そのもっと前から海の向こうは戦争をしていたんですね」


ストラはアタシと同い年で、家が隣同士だったから兄弟みたいに育ったけど、不思議な奴だ。誰も知らない遊びを皆に教えてくれたり、行ったこともない場所の事を話す事もあった。大人の手伝いも進んでしてたし、妹や年下の子達の面倒見も良いから、多少不思議な事を話していたって、村の誰も問題にはしてなかったけど。


「所で、君たちお父さんや、お母さんは?」


「居ないよ。ずっと帰って来ないの」


シャナのカラリとした返事に身なりの良い男は目を丸くしている。普通、十才くらいならもっと親を恋しがるだろう。アタシだって、十才で母さんが死んだ時にはもっとメソメソしてた。

シャナがこんな風に過ごせるのは、ストラの努力だと思う。昼間はいつだってシャナの側にいて、シャナが眠ってから出かけて木の実や食べれる葉っぱ、時には鳥を狩って帰ってきたりしていた。シャナが寂しい思いをしないように、不自由をさせないように、ストラだってアタシと同い年でまだ十四歳の子供なのに、大人ぶって保護者が顔をしていた。


「母は六年前に急に家を出て行きました。父は昨年出征して、字が書けないのでそれっきり何の知らせも届かないんです。お兄さんは帝国の商人さんなのですか?」


「いや、僕は辛うじて帝国に飲み込まれていない、北の大陸の小さな国からやってきたのだ。君たちは四人兄弟?」


商人はシャナとストラ、アタシと後ろにいるザスティの顔を順に見た。


「ちがうよ。カラジョはお隣で、ザスティは畑の向こうのお家!」


「俺とカラジョの所も同じような身の上だ。気が付いたら母親が居なくなって、父親は戦争に行ったきり帰ってこない。似た者同士助け合って暮らしている」


シャナの返事をザスティが補足する。商人はもう一度アタシ達をぐるりと見回す、顔じゃなくて頭を見て。そしてストラで視線を止めた。


「君は村長の親族かなにかい?随分としっかりした教育を受けている様に見えるけれど」


「いえ。母が元は街の人間だったらしくて、それなりに躾られました。母が家を出ていったときシャナは小さかったので、勉強をする前でした。だから、僕だけ教育を受けたように見えるのでしょうね」


ストラがヘラっと笑いながらサラリと嘘を吐いた。ストラの所も、ザスティの所もうちも母親が村の外の人間だったのは確からしい。父親はみな村で生まれ育った、昔からの友達だったと聞いた。親同士が仲良かったからアタシたちも自然と仲良くなったんだ。


ストラは母親が居なくなってから、あらゆる事を「母の教育」で済ませる癖がある。だけどストラが小さい頃、ストラの母親さえ言動に困惑していた様子をアタシは見ていた。

小さいころに、ストラに何でも知っているのかを聞いたことが有って、その時ストラは『一度大人になって生まれ変わった』なんて訳の分からない事を言っていた。ストラもそんな空想をするのかと、安心してそれから一層仲良くなった。



昼御飯を食べて村を出て、馬車でここまで連れて来られたけれど、もうそろそろ夜が近付いているのではないかと思う。曇っているから日の高さはわからないけど、風向きが変わって砂が舞い始めた。

宙を舞う砂の動きを見ていたら、壁の上の黒いマントの大男がこちらに振り向いた。

金色の髪にほっそりとした面立ち。遠めにも瞳の色が分かるほどの大きな目。村に居る大人だけじゃなく、旅人でもあんな人は見たことがない。右から左へと顔を向けると場が静まり返っていった。


『善良なる神の子らよ。この地を納めていたプロシェスト王は長らく誤った道を歩んできた。皆も心当たりが有るのではないか?

過去に縛られたプロシェスト王の政策により強いられた不自由や理不尽に。

我々は神の名の下に、世界を発展させ民に等しい幸福を与えるべく導く者である。

本日よりこの地はツェペシューヌ皇帝が治め、諸君らは帝国民となった。慈愛の心を持ち、互いに分け合い、貧しき隣人を救うために働く事が神の示される正しき道であり、帝国民の義務である。

帝国民は平等を何より重んじている。生まれや職業で住む場所を決められるなど、神の望みではない。本日より諸君らも、望む者は町で暮らす事を許そう』


壁の上に立っている黒いマントの人の声が広場に広がっていく。アタシには何を言いたいのか分からなかったけど、あとからきっとストラが教えてくれる。あんな遠くの人の声がこんなにはっきり聞こえる不思議もストラが知っているかな。


「商人さん、帝国の言う神っていうのはどんな神なの?あと、帝国の習慣みたいな物も知ってたら教えてくれないかな?」


「対価は?そのお嬢さんでも差し出すかい?」


ヒョイっと眉を持ち上げた商人さんをストラがニヤリと見つめ返した。なんでアタシを挟んで会話をするのかなぁ。思わず一歩後ろに下がる。そうは言っても周りを大勢に囲まれていて、ストラと商人の間に挟まれたままだ。


「んー、時間がかかるけど大儲けできる事業の話でどう?」


「やっぱり君達だったか。よし、せっかく街も開かれたことだし、街の中にでも行かないかい?その儲け話をゆっくり聞かせてもらおう」


商人はストラとシャナだけじゃなく、アタシ達も街に連れていってご飯を食べさせてくれると言う。周りの大人達は連れて来られた馬車に戻るなかアタシ達は、壁の方へと歩き出す。ストラは勝手にシャナをザスティの肩に乗せて商人の隣を歩いていく。


いつも通り、魔物の甲羅を蹴りながら歩いてる。大人と話すときの態度じゃないと思うんだけど、商人は気を悪くするどころか興味津々な様子だ。


「それは森の沼に住んでいる魔物の甲羅だよね?それも、君が退治したのかい?」


「これは、僕の武器みたいなもんですね。こいつを退治したのは僕の父さん。もう五年も蹴ってるから、そろそろ変え時なんですよね」


ポントットットッ、ポントットットッ。

甲羅を蹴ったときの、少し間抜けに聞こえるポン、そのあとストラの足音が三つ。

何ともない顔をして常に一定のリズムでそれも真っ直ぐに進んでいるけど、あれはメチャクチャ難しい。アタシ達も一緒にやろうとした事が有ったけどできなかった。あんなゴツゴツした物を真っ直ぐ蹴れるのはストラだけだ。

ストラは甲羅を武器だって言ったけど、本当はストラの足が武器なんだと思う。


「精霊様のお友達は魔物を操るって噂は本当だったか」


いつの間にそんな事をしてたのか知らないけれど、ストラは村の近くを通りかかる商人がはぐれて森から出てきた魔物に教われてるのを助けたり、盗賊の邪魔をしたりしていたらしい。

商人の間でストラは精霊様のお友達と呼ばれて噂になっていると教えてくれた。


「魔物も操ってないし、精霊様に会ったことなんてないけどなぁ」


カラカラと笑う商人に、ストラは微妙な顔をした。シャナの「なんで?なんで?」に答えれなくなった時と同じ表情って事はかなり困ってるのかな?


「じゃぁ帝国の商人が呼んでた『神の隠し子』って呼び名が正解かい?」


「ますます分からないなぁ」


「お兄ちゃんはシャナのお兄ちゃんなの。神様の子じゃないよー!」


ザスティの頭の上からシャナが叫んで、ストラが振り返る。親指と人差し指を合わせて口の前で右から左に動かして、「黙ってなさい」の合図をした。シャナは右手の指先を揃えておでこにくっつける「了解」の合図で返す。

これ以外にも色々あるけど、ストラがアタシ達に教えてくれた秘密の合図だ。


「ははっ、こんなに可愛い妹ちゃんの前では『神』も霞むね。あぁ、でも街に入ったら神に関する発言は気を付けた方がいいよ。帝国の神への信仰は僕らじゃ考え付かない事をするから」


「僕はそんな大事な神の縁者呼ばわりなの?」


「帝国では、黒が重要な色なんだ。僕の国は帝国とは違う神を信じているから、詳しくは知らないけれど、神への信仰が熱心で善行を積んでいる事の標として黒いものを身に付ける。生まれ持った黒は既に神に認められているって言われている。君は黒を持っている上に街道で見ず知らずの商人を助けるという善行を積んでいるからね」


ストラが不思議なのは、その容姿もだ。ストラの両親はアタシ達と変わらない容姿で白っぽい薄いピンクの髪に青い瞳だ。国の西の砂漠が夕陽に染まる色と国の南の川の色を精霊様が与えたと言われている色合い。

けれど、ストラはカラスの様な黒い髪と黒い瞳だ。シャナも両親やアタシ達と同じ色合いだから、兄妹に見えない。



いよいよ壁が近付いてきて、その高さがアタシの身長の二倍以上はありそうなくらいに高い事に驚いた。開いた扉の前には黒いマントを付けた、体格の大きな大人の人が立っている。その人達が通る人にイチイチ話しかけているせいで、すぐそこなのに進まない。


「神の隠し子をお連れとは!」


「親を亡くした子を世話するのを神は許されないと?」


商人が話しかけてきた人に何かを手渡して、あっさりとそこを通過した。

そうして見えたのは、アタシ達の村とは全く違う景色だった。見渡す限り灰色の、石積の建物が並んでいる。道も石が敷き詰められていて灰色だ。


「本当にプロシェスト王はとんでもなかったな」


「どういう事?」


商人とストラの会話を黙って聞きながら後ろを歩いていく。ザスティに抱えられているシャナはそろそろ眠くなってきている様で、頭がカクカクしている。


「君たちの村も、この町もポシェタという国だったんだが、君たちは国の名前を知っていたかい?」


ストラが首を振って答えたら、商人はアタシ達の方に振り返った。アタシ達も首を振って答える。シャナは遂に眠ってしまっていて無反応だ。


「うん。ポシェタというのはね、ずっと昔、三百年前にこの大陸に有った大国の名前さ。プロシェスト王はその時の王の様に、周辺を纏めて大国を築かんとして、国の名前を変え、民の暮らしを三百年前に引き戻したんだよ。この石積みの建物も、農村と街を隔てるあの壁もその政策の遺産だね。あぁ、着いた。晩御飯にしよう。君たちの宿もちゃんと手配するから、帰りの心配はしなくて良い」


連れてこられたのは、アタシには立派に見える石積の建物で、看板も何も出ていない所だった。


「いらっしゃい……あら?お久しぶりね」


「今日は連れが居るんだよ。あぁ、宿の手配、この子達の分も頼めるかな?」


「あら、可愛らしいお客さんね。その子達は同じ宿に案内する訳にはいかないのね?」


「うん。僕とは別の宿が良いと思う。部屋はとりあえず四人一緒がいいかな。料理も多めに頼むよ」


「はいはい」


お店の中には、中肉中背、これといった特徴のない、だけど愛想の良い女の人が居た。アタシ達と同じ薄いピンクの髪に青い瞳で、さっきの黒いマントの人達とは違う。


店なのか?と思うほどお客さんが居なくて、それでも商人は人目を避けるように、奥の席を選んだ。丸いテーブルを囲むように並んだ椅子に座っていく。商人さんの隣にストラ、シャナ、その横がアタシでアタシと商人さんの間にザスティが座った。


「ストラ君の話を聞く前に確認したいのだけど、君たちの中に、魔法が使える子はいるかい?」


席に着くと同時にさっきの女の人が飲み物を持ってきてくれた。お代わり用の水差しも置いて行ってくれた。シャナとストラはさっとコップに入った飲み物を飲み干すと、即座にお代わりを注いだ。飲み物に夢中なストラの代わりにアタシが返事をする。


「魔法?アタシとシャナは使えるよ」


「シャナちゃんは使えるのに兄のストラ君は使えない?」


「やっぱり、変ですか?でも、僕とシャナは間違いなく兄妹なんですよ。父と母だけじゃなく、村中の大人が言ってましたから。見た目もこんなに違いますけど」


あっという間に飲み物を二杯飲んだストラが、三杯目をコップに注ぎながら返事をした。シャナがストラの腕をぎゅっと掴んだ。ストラの過保護も呆れるけど、シャナのストラ大好きっぷりもなかなかだ。シャナはストラと兄妹である事を疑われると、過剰なまでに警戒する。


「ふむ。君たちが兄弟であることを疑うつもりはないよ。魔法について聞いていた話と違う事もあるものだと思ったのでね。国に帰ってからでも調べてみるさ。ところでザスティ君は何か特技はあるのかい?」


「特技……村の中でなら、計算が、出来る事が特技、と言えましたが……街では、そんなこともない、のでしょうか?」


急に話しかけられたザスティはかなり驚いた様子で、言葉を選びながらゆっくりと返事をした。アタシより二つ年上で十六歳のザスティは大人としての対応をしようと、最近ストラに話し方を習っていた。


「いや、街でも計算が出来るのは特技と言っていいよ。そうかそうか。ねぇ、君たち、暫く僕の商会で働かない?衣食住の保証はするし、大人並みの給金も出そう」


「なんで?」


とても驚いたのだろう。ストラが思わずといった風に、丁寧さを忘れた言葉で呟いた。商人の表情は笑顔のまま変わりない。


「さっき、帝国兵に出任せを言っちゃったからね。事実にしないと僕の身が危険になる」


「なるほどなぁ。僕は商人さんの誘いに乗って街の中で暮らすのも良いと思う。ザスティはどう?カラジョが言ってた義賊ってやつにもなれそうだし」


「ん?アタシ達がこの商人さんに雇われるって話じゃないの?義賊団に入るの?」


「僕らは知らない事だらけだから。商人さんの所で働かせて貰いながら、街や国の事を勉強していくんだよ。ちゃんと一人前になったら、カラジョが義賊団を作れば良い。独立する前に修行するのは普通の事だろう?」


「あぁ、そういう風に利用してくれて構わないよ。頼んだ仕事さえしっかりやってくれれば。さぁ、お腹が空いただろう?一先ず食事にしよう」


商人が食事にしようと言うと同時に、さっきの女の人が料理を運んできた。大きくて立派な模様の入った皿に、山盛りの芋と野菜が積まれている。


「食べ慣れている物が良いでしょう?それとも街の気取った食べ物が食べたかった?」


「わぁ!大きいお芋!これ、全部食べても良いの?シャナ、お芋大好きなの!」


「全部は食べれないだろう?それにみんなで食べるんだ。独り占めはダメだ」


そうは言いながら、真っ先にシャナの分を、芋を多めに取り分けている当たりがストラらしい。

それにしても、アタシたちがいつも食べてる芋のクタクタ煮とは随分様子が違う。見た目がどことなく上品で、芋を口に入れてもモサモサしない。どことなく甘い気もするし、塩気も感じる。


「これは、芋、が違う?味付け、に異国の物、を使って、いるのでしょうか?」


ザスティが芋、野菜、野菜、芋、と口に運んでから商人に問いかけた。あれで、ザスティは好き嫌いが激しい。普段は芋はあまり好きじゃないからと、豆ばかり食べている様な奴だ。二個目の芋を口に運ぶ姿を見たアタシとストラはびっくりして動きが止まった。


「ザスティ君は、色々と繊細なのかな?異国の味付けなど食べたこともないだろうに、気づくなんて」


「食べたことがなかったので、異国の物と思いました」


シャナはザスティの様子にお構いなしに食べて、ストラにお代わりを要求した。アタシ達は生まれて初めて、「もう食べれない」という言葉を述べて食事を終わり、店の女性と商人に笑われた。


「さて、ストラ君の儲け話を聞きたいんだが、もう眠たいかね?」


「大丈夫です。シャナはどのみち抱えて連れて行きますから」


アタシは、満腹になって自然に眠ってしまったシャナを抱っこしている。ザスティは、店の女性に頼んで、あの芋料理を教えて貰うために調理場へと行ってしまった。


「それで、時間がかかるけど大儲けできる事業ってのは?」


「ワールドカップを開きませんか?四~五年後くらいに」


「なんだいそれ?それに時期の見当までつけてあるのかい?」


「サッカーの世界大会ですよ。僕は、必ず世界中にサッカーを広めます。できるだけ早く世界に広めたいとも思っていますが、僕はまだ子供なので、大人になるくらいまでの時間をもらいたいです。できれば商人さんにその後援をしてもらって、で、広まったら、商人さんが大会を主催するんです」


「サッカーって?」


「ここに来るまで僕がしていた様に足でボールを蹴る運動です。ボールを蹴りながら相手の陣地に攻めこんでゴールを決める。時間内に多くゴールをした方が勝ちっていう、スポーツ……ゲーム?です。」


ストラと商人は真面目な顔で話し合ってるけど、あれはストラが好きな遊びをしたいだけなんじゃないのか。「サッカーを世界中に広めたい」ってのは、子供のころからずっと聞かされていた話だ。そしてアタシ達もサッカーという遊びにいつも付き合わされていた。


「どうしてそれで、僕が儲かるのかな?」


「十一人一組でする物です。誰が味方か区別をする為にまずはユニフォーム、揃いの衣装が必要になるので、服飾方面で儲かります。それから、今は魔物の甲羅なんかで、やってますけどいずれはちゃんとしたボールでする様に広めるので、新たな産業もできるかもしれません。このゲームは、今なら魔物の甲羅ひとつあれば最大二十二人が一緒に遊べるので、始める時にはお金がかかりません。『親を亡くした子の世話をする』んでしょう?」


「ハハッ参ったな。だが、今の話ではまだ大儲けできる様には聞こえない」


商人さん、笑ってないで叱ってやってくれないかな。ストラのその話を真面目に聞かないでほしい。


「大会を開くんです。運動が苦手な人も見て、応援して、興奮できますから観客が大勢集まります。なんなら、試合の結果を予想して賭けをするのも良いでしょう。大会をするための会場を作って、大会の無いときは使いたい人に貸したりする事もできます」


「必ず成功すると?」


「えぇ、僕が広めますから。必ず皆サッカーの虜になりますよ」


ストラの自信満々な表情のせいか、商人さんは五年以内にサッカーの大会を開こうと、言ってストラと握手をしてしまった。数少ないアタシの知識にある。商人の握手は約束の証なんだよな。

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