48話 「明暗の出会い」
ユーリたちはエスクードへの帰還を決断したその日のうちに宿を出た。
ヴァンガード協定連合の動きが活発化したことを知る術もなく、ユーリたちは王国への道を進む。
◆◆◆
馬の蹄鉄が地面を踏みならす。
帰りの道中、アガサの乗る黒馬『フィオレ』は久々の疾走を心底楽しんでいるようだった。
「元気だな、フィオレは」
ユーリがときおり高く跳ねるフィオレを見て困ったように言う。
「鬱憤が溜まっていたのさ。こいつはひたすらに速く走ることが趣味だからな。ほかの馬となかなか相容れないわけだ。上手い餌にも雌にもまだ興味がないんだから」
上に乗るアガサがフィオレの首を撫でてやりながら苦笑して言った。
フィオレもアガサの声に応えるようにいななき、さらに走る速度を速める。
「まあ、このままの調子で王国まで突っ切れればいいんだけどな」
ユーリは再び前を向いて小さくこぼした。
珍しくユーリの口から漠然とした不安が出たものだと、そのときイシュメルだけは不審に思った。
あるいはこのとき、ユーリ本人かイシュメルが、その『警笛』にも近い無意識的な言葉になんらかの意味を見出していれば、状況はそこまで悪くならなかったかもしれない。
「早くエスクードに帰りたいなぁ」
リリアーヌがぼそりと言う。
「帰れるさ。来るときよりずっと早くな」
「――うん、そうだね」
そう、帰れる。
何事もなく、無事に。
そんなふうに思っていたし、願っていた。
◆◆◆
この先に待ち構えている障害のことなど知らず。
不穏な闇に目をくれることもなく。
でも殊のほか世界は残酷で。
気を抜く暇などないのだと思い知らされた。
きっと自分で誓った生涯を全うするまでは、心の底から安堵することなど不可能なのだと、そのとき思った。
◆◆◆
そしてユーリたちは彼らに出会う。