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エスクード王国物語  作者: 葵大和
第四幕 明雲と暗雲編
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47話 「暗雲をもたらす者」

「今頃間者がハルメント議長閣下に伝令を届けた頃でしょうかね」

「……」


 ヴァンガード協定連合幹部、キュイス・ホーリーウッドは草木に覆われた細い道を歩きながら言った。

 その隣、半歩ほど遅れた位置を刀使いの青年、ヨハンが歩いている。


「それにしても、マーレ君の魔術は本当に便利ですねぇ」

「……」

「ちょっと、少しは反応してくれませんか? ヨハン」

「黙れ、面倒だ」

「つれないですねぇ」


 二日前までマズールにいた二人は、今、『ヴェールとナレリアの間』にいた。

 おそらく百人に訊けば百人が現状を『ありえない』と言っただろう。

 高速で空でも飛べないかぎり、物理的に二日でマズールからこの位置に来るのは不可能だからだ。


「とはいえ、マーレ君の魔術にもリスクはあるようで。多用させることをハルメント様はよしとしませんね」

「当然だ。やつの魔術は世界の摂理を破壊してしまっている。その反動が術者にかかるのは当然として、反動の大きさは言うに及ばない」

「お、喋るようになりましたね」

「喋れと言ったのはお前だ、キュイス」

「いつもは『僕に指図するな』って言うのにぃ」


 ヨハンは少しの期待感を持っていた。

 期待感と言うにはいささか不謹慎かもしれない。

 自分はヴァンガードの首脳陣の一人に『飼われて』いて、『彼』とは敵対しなければならない状況だから。


「軽口を叩くのもそろそろやめろ。やつらがいるとしたらこのあたりだ」


 ヨハンは紫の瞳にひときわ鋭い光を灯してキュイスに言った。


「はいはい」


 ヨハンの期待感は、あのエスクードの末裔に関わるものだった。


 ――マズール王はダメだった。


 ヨハンは今の自分に新たな価値観を与え、さらに言えばこれからの自分の道行きの参考になる存在を求めている。

 理由はさまざまあるが、ヨハンにとってこの大陸で起こる出来事はすべからく他人事だった。

 だからこそ、至極客観的に物事を見極められる。


 ――より強い、抵抗者の方策を。


 ヨハンは空を仰いだ。

 ゆったりと流れる雲。

 目を凝らしてみれば何かを象っているように見えなくもない。


 ――僕に見せろ。


 ヨハンは誰にも言えない秘密を、また胸の中に押し込めた。


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