史書 『レザール戦争の軌跡』
第三次レザール戦争。
独立王国『エスクード』と、商業王国『マズール』の鉱山資源を賭けた争い。
レザール鉱山はちょうど二国の国境線上に頂を貫かせており、かねてから所有権をめぐって争いが起こっていたが、第三次レザール戦争はその中でも最も熾烈だった。
事実、三度に及ぶ戦争はそこで終結し、多量の人命を犠牲にしてマズールが勝利する。
第一次、第二次までは両軍の力は拮抗していたものの、第三次戦争に臨むにあたりマズール王国は『とある協定連合』への加入に踏み切った。
加入国の相互交流円滑化を理念とし、無条件国境踏破案、相互関税の廃止、その他およそ国の相違をあやふやにする規定を暗黙の了解とする協定連合群――『ヴァンガード』。
貴重な鉱山の奪取とあらば、協定連合は無条件に軍力を貸し、結果、マズールは虐殺に近い形でエスクードを下した。
一方のエスクードは政治的に諸国から独立した王政国である。
他国との貿易はするものの、根本では他国を拒絶し、中立を維持していた。
しかし、そのエスクードの生き様は、この時代においては限界だったのかもしれない。
エスクードの土地は鉱山や天然資源に溢れており、他国から見れば貴重な資源を独占しているように見える。
交易でその資源を平等に取引してはいたが、独立性を貫いているという事実が裏で他国を刺激していた。
滅亡は目に見えていた。
いかにエスクード人が『戦神に愛された民族』であるとは言っても、ヴァンガード協定連合の力を借りたマズールには勝てない。
そしてエスクード王国は滅びた。
現在に語られるところの亡国エスクードの誕生である。
――同種族間の戦争は悲しいものだ。
人間はどこまで愚かなのだろうか。
『レザール戦争の軌跡』
著:イース・マグナ