『普通』の家族なんて
優しさとか暖かさとは縁遠いものだと思っている。
人の心に他人を思いやる優しい心なんて存在しなくて、みんな自分のことばかりで自分さえ幸せでいれば問題ないって思っている。
だから私は他人に期待なんてしない、一人で生きるんだって決めたんだ。
実際私は一人でも大丈夫。お母さんが病院で入院しているときも、すべて一人でがんばってきた。お母さんの病気の治療費や私の生活費は私がすべてバイトをして稼いでいるし、家事だってすべて私がしている。
だからお母さんが病気で死んでも大丈夫なんだ。まだ高校生だけど十分一人で生きることはできるし、これからは一人で生きていこう、そう思った。
そうなのにお母さんの死後、私は保護者がいないというつまらない理由で別の家庭で暮らすことになった。
要するに里子で、十八歳になるまでほかの里親のもとで他の里子と一緒に生活しなきゃいけないことになった。
「仁科鞠乃です。よろしくお願いします」
私は渡されたメモに従って里親の家につき、しぶしぶ里親とあいさつをする。
「小島百合です。これからよろしくね。今お父さんは会社に行っていて、子供たちも学校に行っているの
まりちゃんは通信制高校に通っているんだよね」
「はい、二年生です」
なれなれしく話しかけられたので、私は少し警戒して声が固くなる。私はなれなれしい人が苦手だから、こうやってなれなれしく接しされるとめちゃくちゃ困るのだ。
「楽にしていていいよ。まりちゃんの部屋は二階だから、あっ荷物貸して持っていくから」
「あっ結構です。自分で持っていくので」
学校で使うボストンバックと生活用品の入ったリュックだけだし、他人に持ってもらう必要はない。私はしっかりと断って、それらの荷物を持って百合さんに続いて二階にあがる。
二階は三部屋あって、どうやらこの三部屋が里子の部屋らしい。
「ここがまりちゃんの部屋よ。ひよちゃんと一緒だけどいいかしら?
ひよちゃんは今中二で、えっとこの手前の机とベッドの二階を使っているから、空いているところを使ってね。
それじゃあまた夕ご飯の時に会おうね」
「ありがとうございます」
私は百合さんがいなくなった後、リュックサックを机の下に置き、ボストンバックの中身を机の上にある本棚に移す。
「はー疲れたな」
そういえば新しいバイト先を探さなきゃ。以前まで働いていたバイト、朝昼のほうはやめる必要があったから、これから探さないといけない。
「それにしても二人部屋かー。気詰まりだな」
そもそも私は誰かと同じ部屋で生活するなんて経験したことがない。ずっと一人で暮らしてきたから、誰かにあわせて生活するなんて無理だと思う。
「はーそれなのになんでこんなところで生活をしなきゃいけないんだろうか?」
一人でも生活していく自信ならあるのに、本当に困ったな。なんで子供は一人で生活したらいけないと決まっているんだろうか、国の法律を呪った。
夕方この家に住むほかの里子達が帰ってくる。最初に金髪の小一らしき双子と茶髪の小学五年生らしき子が帰ってきて、隣の部屋で遊び始める。そして夕食前に私と同じ部屋の日和と中学生の男子が帰ってきた。
「それじゃあ新しい子が来たよ。高校二年生で名前は鞠乃。みんな仲良くしてね」
「よろしく」
やけに豪華で食品がいっぱいある夕食の時、百合さんが私をみんなに案内してくれる。
「紫です。中三です。よろしくおねがいします」
「日和です。中二です。よろしくお願いします」
「卵です。小一です。よろしくお願いします」
「錦です。小五です。よろしくお願いします」
「一郎です。これからもよろしく」
私と同じく里子と百合さんの夫が自己紹介をしてくれる。それぞれタイプは違うけど、みんなこの家になじんでいる感がする。偽善的だ、そう思う。
私はそんな風景にいまいちなじめないながら、少しだけ食事をする。どうせこの後のバイトでまかないが出るから、たくさん食べると太っちゃうしね。
私にとって疲れるだけの夕食が終わり、後片付けを手伝った後に私は里親宅から出る。
「夜のバイトは危ないからやめたほうがいいんじゃないの?」
出かけるとき、百合さんは心配そうな顔をしてそんな甘ったるいことを言い出した。
「大丈夫ですよ。普通のお店なんで」
夜のバイトは給料がいいからやめたくない、今は朝昼とバイトしていないからなおさらやめたくないっていう理由もあるけど。それに里親宅からも近いから、安全だし。
私は少し歩きバイト先につくとお店はまだ開店前なので、バックヤードに行き制服に着替える。
「おはよう。今日も早いね」
「おはようございます」
先輩バイトさんもどんどんやってきて、私の周りで着替え始める。
今日のバイトは四人らしい。
他のバイトが着替え終わったら全員で開店準備をする。とはいってもバーなのであまり時間はかからない。
開店準備が終わると店長がやってきて、長くてたるい話をただ聞く。そして堪忍袋の緒が切れそうになったときに話は終わり、開店する。
開店すると同時にお客さんが数人入ってくる。同時なんだから開店するまでお店の前で待っていたんだろうな。なんかちょっと嫌なお客さんだ。
「仁科さーん。日本酒とお菓子の盛り合わせ」
そんなちょっと嫌なお客の中でもっとも嫌なお客さまが私に声をかける。
彼はサラリーマンで、いつも必ず私に注文する。ここはキャバクラじゃないから、店員指名制度なんてなくて、たまには他の店員に頼めばいいのに。
「はい、日本酒とお菓子です。夜にお菓子ばっかり食べると太りますよ」
私は日本酒をコップにそそいで羊羹とせんべいと嫌味をともにお出しする。いつもこの人は日本酒とお菓子ばっかりだから、少し心配になるのは仕方ない。
「いいじゃん、早死するわけじゃないし」
その人はにっこり笑ってお酒をぐいぐい飲む。
「鞠乃、りんごむいてりんご」
そのお客さんの隣に座っている従兄の雪路兄さんが私に声をかけてくる。
「雪路兄さんはなんでいつも手がかかるメニューばかり注文するの?」
「仕方ないよ、ここはそういうお店なんだし。普通のお店じゃあコスプレ店員が接客なんてしないよ」
「仕方ないでしょ、ここだけが未成年を雇ってくれたんだから」
ここはコスプレバーで、コスプレイヤーさんと比べるのもおこがましい低いレベルのコスプレの店員が接客している。
私はセーラー服だけど、ほかの店員はナースや警官やメイドの格好をしている。性サービスとかないから未成年でも働くことができて、おまけに給料がいいからいいバイト先なんだ。
そういう怪しいお店だから、メニューにも店員がお客様の目の前で調理する系がある。でも私は苦手で、あまりこういうことはしたくない。
「ところで帰りはどうするの? 送っていくよ」
「別にいいって……。それに今は里親宅に住んでいるから」
「ああ、でも鞠乃に集団生活は無理だろ。それに百合さんならこういうとこで生活するのに反対するんじゃない?」
雪路兄さんは私が剥いた不格好な林檎を食べながら意地悪く笑う。
そういえば雪路兄さんも元里子で、私と同じように百合さんが里親だった。それで百合さんのことなら私よりも、雪路兄さんのほうが詳しい。
そんな雪路兄さんがいうなら、そうかもしれない。それはそれで困るなと思う。
「それは困ります。仁科さんがいるからお店に来ているのに」
サラリーマンさんが困惑したように言う。
「いやなんといわれても辞めませんから、大丈夫ですよ」
お前のためじゃないけどと心で思いつつ、笑顔で答える。大人になればもっと稼げる商売があるかもしれないけど、今はこんな仕事以外無理だから、なにがあっても頑張るよ。
「まあいざとなったらおれが何とかしてあげるから心配しないで」
「そう? 雪路兄さんって頼んないよ」
今回だって雪路兄さんが私のことを引き取ってくれたら問題なかったのに。
雪路兄さんが私のことを連れていってくれなかったから今こうなっているんだよ。
バイトから戻ってくると、十一時になっていた。結局いつも通り雪路兄さんに送ってもらい、里親宅前で別れる。
「失礼しまーす」
「遅いね。いつもこんな時間まで働いているの?」
リビングには百合さんがまるで私だけを待っていたかのようにいる。別に待たなくてよかったのに。
「法律的には大丈夫ですよ」
深夜十時くらいまでしか働いていないし、帰りは雪路兄さんに送ってもらったから成人と同伴していて、未成年だけで出歩いたことにはならないし。
「法律的には問題ないけど、常識的に考えると問題ありでしょ。
夜遅くにしかも女の子が出歩くなんて危ないよ」
「大丈夫ですって、おやすみなさい」
私は話を打ち切って二階に行く。そして私は私の荷物がある部屋にこっそり入る。
日和は早寝なのかもうすでに寝ていて、日和を起こさないように着替えて寝る。あーあーこういうときは人と暮らすって大変だなって思う。一人暮らしならこういう苦労しなくていいのに。
どうしたら一人暮らしに戻れるかな? 私はこのときはじめてまだ十七歳であることに絶望した。
「りりりりーん」
朝七時に起こされる。どうやらここでは朝七時に起きることが普通らしく、日和はその時間帯に目覚ましが鳴るようにセットしていたらしい。
目覚まし時計の音を聞くのは久しぶりかもしれない、私はこんなに朝早く起きることは中学卒業以来なかったことだから。
それで私も日和同様に起きて一階に向かう。一階では百合さんが朝食の準備をしていた。
「あー準備お願い」
そういわれたので、私は百合さんを手伝う。一応一人暮らしだったから、料理とかはばっちり。だからお手伝いなんて簡単って思っていたけど、周りにたくさんいるからマイペースでできず、思ったよりも疲れる作業だった。
朝食を食べ終わり、私と百合さん以外は家を出ていく。私は部屋に行き、バイト情報誌をめくる。
早くバイトを決めなきゃダメだな。どんなバイトがいいかなー、できるだけ時給が高いところがいいなー。夜のバイトと勉強、二つを両立できるとこを探さなきゃいけないから、実は結構探すのが大変なんだ。
「トントン」
部屋から控えめなノックの音が聞こえ、私はしぶしぶドアを開ける。ほらノック無視したとかでいちゃもんつけられるのが嫌だし。
「まりちゃんは通信制高校に通っているの?」
「はい一応通っています。スクーリングの日はバイトを休んで高校に通っています」
一応高校は卒業しないとこのままフリーターになっちゃうから、なんとかしてでも卒業しようと決めていた。働く必要があったから、通信制以外は無理だったけどね。
「まりちゃんは普通の高校に行きたいって思ったことはない?」
「普通って全日制高校ですか? ないですね、だってバイトで忙しいですし」
そんなことに時間を費やしている暇があったらバイトしているほうが有意義だし、大体昔から学校生活にあまり興味はないし、今の生活で十分なんだ。
「ここにいる間は生活費はいらないからそこまでバイトをする必要はないと思う。
だからバイトをしなくて、代わりに他のことをしたら」
「いいんです。バイトだけで、そんな普通の生活なんていらないです」
「そう。でも考えておいてね」
そういって百合さんは部屋から立ち去った。納得はたぶんしていないだろう。またこの話を持ち出す可能性はある。
きっと百合さんは普通の生活が好きなんだろうな。だから私にもそれを押し付けようとする。
でも私は普通の生活を望んでいないんだ。ほっといてよ。私を幸せにしてくれるのは無干渉だけで、押し付けの善意なんていらない。
そんなことを考えながらバイト情報誌を見ていると、お昼ご飯を作った百合さんが呼びに来た。
今日のお昼ご飯はカレーライスらしく、私と百合さんはもくもくと食べる。まあ話すことなんてないから当たり前かもしれないけど。
「まりちゃんにとって楽しいことは何?」
「お金がたまった通帳を見ることです」
これだけ働いたんだって通帳を見ると思うから、よく見ちゃうんだ。うん、これが唯一楽しいことかもしれない。
「そう、それ以外の楽しみはないの?」
「特にないですね。大体人生に楽しみなんていりませんから」
そう張り切って答えると百合さんはため息をついた。なんでため息を百合さんがついたのかは、私には理解できなかった。
だって人生には楽しいことなんてないのが普通だ。楽しそうにしている人は楽しそうにふるまっているだけのように思える。だから私は楽しくなくていいと思う。
「そっかまりちゃんはそう考えるんだ……。かわいそうに」
そう言って百合さんはほほえみ、カレーの皿を流しに運んだ。
「あれっ鞠乃、今日はやけにイライラしているなー。どうしたの?」
「色々あったんですよ」
夕方バイト先で雪路兄さんに野菜ジュースを渡すと、雪路兄さんは不思議そうな顔をして私を見る。
「そうですか? いつも通りですけど」
「さっきからしょっちゅうカウンターにぶつかっているから何かあったのかなって思って。
ほらいつもはめったにぶつからないから」
「そうだよ。仁科さんはさっきからなんかイライラしているよ」
常連さんも雪路兄さんに同意する。やっぱり百合さんに可愛そうと言われたのが響いているのかなって思う。
私は可愛そうといわれることが嫌いだ、だって可愛そうと思う人は自分がそうじゃなくて良かったと思っているから。要するに可愛そうだと思っている相手を自分よりも劣っているとみなしているわけだ。
だから私は絶対に可愛そうと言われたくない、なのに百合さんに言われたからこんなにもいらだっているのかな? それでいつもよりぶつかっていて、いつもと違うのかな?
「そうですか? 私は気づきませんでした」
「里親と何かあった?」
「何も無いです。元から仲良くする気ないですから」
私はごまかして、マシュマロヨーグルトを盛りつけた物を常連さんに渡す。
「これは新メニュー?」
「そうです。マシュマロヨーグルトらしいです」
「あっ美味しい」
常連さんはマシュマロヨーグルトをやや必死に食べ始める。それにしてもこの人は甘い物が好きなんだな、いつ見ても甘い物を食べているし。
「里親と上手くやっているわけ無いわなー。あの人達は俺の里親でもあったけど、健全すぎてちょっと合わない」
私と常連さんの話をぼんやりと聞いていた雪路兄さんがいきなりそんなことを言い出した。
「健全だからね,確かに合わない」
百合さん達はなんだか私とは無縁の普通を愛している。その普通とは家族仲良く生活して、子供は働くことよりも学業や遊ぶことを優先することだ。
でもそんな普通は私にはそぐわない。私は一人でも大丈夫だし、学業や遊びよりも働くことの方が大事だ。だから絶対合わない。
「そうだろー。俺よく数年耐えたなと我ながら思う。
でも鞠乃の保護者は一応祖父で、祖父は百合さんを信頼しているから、絶対に無理だよ」
「そうだよね。世間的には百合さんの方が正しいし」
きっとこうなったら私達の方が間違っているんだろうなと思う。
人の繋がりとかぬくさなんていらない。私はほっといて欲しいんだ。誰も私のことなんか気にしないで欲しい、誰も私に干渉しないで欲しい。
そう考えたら何で駄目なんだろうかね? 人と人は関わりあって、助け合うことが最上の幸せという考えじゃ無いと駄目なんだろうか?
私は十八歳未満だけどフリーターとして十分生活することができる。なのになんで子供扱いなんだろうか? 他の人と一緒に子供らしく働くことよりも他のことを優先することを強要されなきゃいけないのだろうか?
本当にイライラする。社会制度の理不尽さと百合さんの健全さに私は嫌気がしてたまらない。
「あんさ鞠乃が良かったらうちに来る? 一応俺は成人しているし、鞠乃が望めば保護者を変えることくらいならできるかもしれない。
祖父が拒否しそうだから無理そうだけど、頑張れば上手くいくかもしれない」
「うん、そうする」
私はうなずいた。正直言ってもうあの家で暮らすのは限界だった。
あの健全すぎる空間に、もう一秒たりともいたくなかった。
「深夜に抜け出すって意外に大変だね」
「うん」
帰宅後待ち構えていた百合さんを軽くあしらい百合さんが眠ると同時に里親宅を出る。
そして鍵を使ってドアを閉め、その鍵は封筒に入れてポストにしまった。
もうこれでこの家とはお別れだ。解放感で心がいっぱいになり、私は雪路兄さんとともに雪路兄さんの家へと向かう。
「雪路兄さんの家って狭いよね」
「悪かったね。1LDKなんだ。でもアニメじゃ1DKで四人暮らしていたから二人くらい大丈夫だよ」
アニメはフィクションだから信用できないんだけどな、でも物があまりないから大丈夫かもしれない。
「で布団はあるの?」
「いや布団はないなー、代わりに毛布ならあるけど。ほら二枚ある」
いやいや床の上なんて毛布があっても眠れるわけないじゃん、仕方ない今日は毛布で我慢するけど、明日は布団を買いに行くとするか。たぶん他にも必要なものありそうだし、買い物には行かなきゃね。
「知り合いからもらった未使用の枕もあるからどうぞ」
「これ明らかに女物ですやん。色ピンクでかわいい」
どうやら雪路さんにはこんなかわいいものをプレゼントしてくれる女性の知り合いがいるらしい。雪路兄さんはやっぱり大人なんだなと改めて思う。
「朝起きて私がいなかったら百合さんはどんな反応をするかな?」
「怒ったり心配したりといった普通の反応じゃない?
だって百合さんは普通だし」
「そうだよね」
私は以前一人で暮らしていて、普通なら当たり前に与えられるはずの家庭の暖かさとは無縁だった。
その関係で家庭の暖かさに拒否反応をしめすようになったかもしれない。
そこらへんは仕方ないことで、家庭の暖かさを私にも提供してくれようとする百合さんには悪いけど、私にはいらないんだ、そんなもん。そして恐らく雪路さんもそうだったんだろう。私の家と雪路さんの家、よく似ていたから。
「結局僕は百合さんのことをお母さんとか呼んだことなかったしね。ほかの里子はまるで本当の親みたいに接していたけど、僕はいつまでも児童養護施設の職員さんに対する接し方だった」
「ふーんそうなんだ。たぶん私もそうだよ。
だって私にとってお母さんは一人しかいないしもう死んじゃったから、私にお母さんはいないの。
それでいいじゃないと思う」
今更他の場所で家族ごっこなんてしたくない。
今家族がいなくてさびしくて可哀そうだと思われていても、かつて家族はいたんだからそこらへんは問題ない。
でもそんなことは決して世間では認めてもらえないかもしれない。
「まあ何とかなるって。第一本人の幸せのためとか言いつつ、本人の意思を確認しなかった、祖父や大人たちが悪いんだ。
もうすぐ十八歳なんだし一人暮らしや寮生活をしている人だっている。だから金銭的支援だけして、たまに様子を見るっていうのが正しかったと思うよ。
だからこれから正しい方向に修正できたらいいなと思う」
「そうだよね。それに今まで一人暮らしを放置してきたのに、母親が死んでなんでそうなっちゃうのかわからないし。
もし私のことを気にかけているなら母親が存命中の時から気をかけてほしかった」
母親の治療費や生活費のために全日制高校進学をあきらめたときとか、いっぱい私を普通にするチャンスはあったはずだ。なのになんで今から祖父はかかわろうとしたんだろうか?
「まあ祖父は世間体が大事だからな。親がいない子供を放置していると世間体が悪いからじゃないか?
だからあの人の子供は誰一人としてまともな家庭をきづけていなくて、子供はみんな百合さんのお世話になっている。結局全部あいつが悪いんだろうな」
「そうだね」
結局家族愛なんてこの世に存在しない。みんなみせかけで、たぶん百合さんの愛も世間体を気にしたものだから嘘なんだろうな。
絶対あの家には行かない、そう決心して毛布にくるまり眠りについた。