時計の針が消えた世界で
ピピピ、ピピピとアラームが鳴る音で目が覚めた。
スマホから生まれたこの音は、二度寝しようとする僕を許してはくれないみたいだ。
眠い目を擦りながらスマホに刺さった充電コードを抜く。
100%に電気の溜まった僕の相棒が今の時刻を教えてくれた。
「やばっ、もうこんな時間か!」
明るい画面に並んだ四つの数字は僕を焦らせるには十分すぎる効果があった。
今日は彼女とデートの日。
一秒でも待たせるわけにはいかないんだ。
急いで身支度を済ませて、食パンを頬張り、芳ばしい小麦の香りと共にコーヒーで押し流す。
口の中に残った苦みで、少し頭が冴えるような気がした。
「お兄ちゃん、今日は何だか気合い入ってるねぇ」
「久しぶりのデートだからな。もう家を出るけど、お前は早く着替えとけよ、風邪ひくぞ」
薄着のパジャマのままソファに寝そべる最愛の妹とは良好な関係だ。
反抗期もない仲良し兄妹さ。
妹が見ている朝のニュース番組には、巨大な砂時計の現代アートが話題に取り上げられていた。
時間を刻むものが無くなっても、人々は時間に支配される。
時計の針が読めなくても、今度は数字が人間を縛る。
もしこの世から数字すら消えても、時間という概念は残り続ける。
それでも僕らは動かなければならない。
そう、時間通りに。
「ごめん、待った?」
「いいや全然待ってないよ」
——嘘だ。