事件発生
大きな街に流れる一級河川。
その河川敷に警察車両のサイレンが鳴り響く。
刑事A「おい!あれ何とかしておけ!報道規制はどうなってんだ?」
制服警官「はい!すぐ確認してどかせます!」
夏のよく晴れた空にマスコミのヘリが旋回し、それを指さして制服警官がどこかへ連絡している。
刑事A「このくそ暑い中マスコミもご苦労なこった」
刑事B「まったく、やかましいったらない」
刑事A「よーし、あんたら所轄はもういいぞ、あとは俺たちでやるから。あーっと、そこのお前、調べたこと報告してけ」
ブルーシートに囲われた狭いスペースに被害者が横たわり、その周りをスーツの警察官がぐるりと取り囲み合掌。 現場検証が始まる。
所轄A「被害者は女性。10代後半から20代前半。小柄で、まぁ見た目の体重は女性でも軽い方だと思われます。それと、所持品は無く身元不明。身に着けている衣類は薄汚れており何日か同じ格好をしていたものと思われます。死因ですが・・」
刑事A「ちょっと待て、お前の私見なんていらねぇんだよ。簡潔に報告しろ」
所轄A「す、すいません。あの、それで死因なんですが」
鑑識「それは私から。えーと、死因は鋭利な刃物で胸を刺された事による失血死。かと一見思われたんですが、出血量が胸を刺されたにしては少ないこと、また首に筋状の内出血があることからひも状の何かで首を絞められ心肺停止したのち仰向けの状態で胸を刺されたのではないかと思われます。詳しくは司法解剖の必要がありますね」
刑事A「返り血を犯人が浴びた可能性は・・・」
鑑識「薄いでしょうねぇ」
刑事A「・・いずれにしても、他殺で間違いないな。死亡推定時刻は?」
鑑識「肝臓の温度から、約10時間前で現在午前9時なので昨日の夜11時頃といったところでしょうか」
刑事A「あそこのホームレスに聞き込みしたんだろ?なんかでたか?」
所轄A「いえ、怪しい人物も目撃証言も・・」
刑事A「無しか。まぁあいつら相手じゃしょうがない・・か」
現場近くには高架があり、その下で寝泊まりしている所謂ホームレスが複数人いる。
そこに被疑者と思われる人物がいるかもしれない。または目撃者がいるかもしれないことから、聞き込みをする流れは自然だろう。
ホームレスというのは不思議なものだ。皆で寄り添って暮らしているように見えてそうではない。
住みよい場所に偶々集まったに過ぎず、仲間意識はない。
他人に興味が無く、日々淡々と同じ毎日を繰り返す。誰かいなくなったとしても気にもしない。
そんな彼らは降りかかった火の粉から全力でにげるため目撃情報は期待できず、案の定空振りだ。
動揺したような人物もおらず、被疑者になりうる人物は今のところいない。
事件解決の糸口が見当たらず現場刑事のイラ立ちが伺える。
事件が迷宮入りするということはそう珍しいものではなく、日本の検挙率が高いのは立件できた物のみだからだ。
立件出来なかったものはおのずと世間から忘れられていく。
ここで逮捕出来ればいいのだが、第二・第三の事件が起これば世間からのバッシングは免れないだろう。
メンツを第一に考える上層部はそんな事態を許してはくれない。
川底を捜査していたダイバーも何も見つけられず、捜査は鑑識からの報告を待ちつつ捜査本部での情報整理へと移行される。
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