疑惑の代償
私は疑い深いのでしょうか?
夫が私にしきりに生命保険に入るように言うのです。
私は専業主婦でパートもしていないのに、保険に入る必要性がないと思うんです。
近所の主婦仲間に相談してみると、
「それはご主人が貴女を愛しているからよ」
と言われました。
それはあり得ません。
結婚して7年ですよ。
今更「愛しているから生命保険に入れ」は妙な話です。
子供には恵まれず、そのせいで夫の母親には顔を合わせるたびに嫌味を言われます。
子供ができないのは私のせいだけじゃないのに!
古い人間にはそれすらわからないようです。
ずっとそんな葛藤を続けていたある日、夫が帰宅し、私に陰鬱な表情で言いました。
「頼むから保険に入ってくれよ」
「嫌よ。そんな無駄なお金かける必要ないでしょ!」
「無駄じゃないだろ? お前にもしもの事があった時の備えなんだから」
「私が死ぬのを待っているのね?」
「そんなこと、言ってないだろ!」
「言ったも同然よ!」
私達はいつになく大声で怒鳴り合い、その夜はそれきり口も利きませんでした。
他人が見れば、実に下らない口論に見えるでしょう。
でも私にとっては、夫が私の事をどういう目で見ているのかわかった喧嘩でした。
喧嘩は次の日も続きました。
夫は私に何も言わずに出かけました。
私は堪らなくなって、実家に電話しました。
さんざん愚痴を言って一息吐いた時、電話の向こうで母が言いました。
「それほど信じられないのなら、離婚すればいいわ」
私はその言葉に衝撃を受けました。
でも確かにそうかも知れません。
夫を信じられない。
しかも、自分の死を願っていると思えてしまう。
私はその夜、夫に離婚を申し出ました。
夫は一瞬驚いたようでしたが、すぐに承諾しました。
「すまない。力になれなくて」
夫は不思議な事を言い、荷物をまとめると家を出て行きました。
半年後、ようやく夫の真意がわかりました。
私は離婚後3カ月でガンを発症しました。
治療を続けるのに大変な額のお金が必要でした。
そんなある日、私は夫の父親からの手紙を受け取りました。
彼は未来が見えるのだそうです。
私がガンを発症し、苦しみながら死を迎える様を見たそうなのです。
それでガン治療を十分に受けられる保険に加入し、備えようとしていたのだそうです。
だから「すまない。力になれなくて」という言葉を残したのです。
私は涙が止まりませんでした。
すぐに夫に連絡を取りました。
でも携帯は止められていて、繋がりません。
私は夫の父親の携帯に連絡しました。
そこで知らされた事は、ガンを告知された事より衝撃でした。
夫は私と離婚した1カ月後に、ガンで亡くなっていたのです。
彼は自分の未来も見えていました。
だからこそ私と怒鳴り合ってでも保険に入らせたかったのです。
本当の事を告げてくれていれば・・・。
でも恐らく私は夫の話を信じなかったでしょう。
夫を疑ってしまった代償の大きさに、私は声が枯れるまで泣きました。




