5 楽しい『勉強会』
「つーかな、俺が今更学校で勉強とかなんの冗談だよ、とは思ってんだよ。一応帝王学修めてんだぞ、基礎学習なんてとっくに終わってるっつの」
「まぁ、それはそうでしょうね。ですが、たとえ魔法の力だとしても、人付き合いの勉強という点では必要だと思いますよ」
「あぁ?!」
「ほらそれ。私だからいいですけど、他の人にやったら『なんだこいつ……』ってなりますし。品行方正ですからね、大体の令息令嬢は」
「それが面倒くっせぇんだよなぁ……なんでお前はひん曲がったのかね?」
「見た目のせい以外で何かあると思います?」
「ねーな」
こんな風に会話をしながら、一応は今日出された課題をこの『特別室』で片づけている。
私も頭は悪い方じゃないとは思っていたが、グラード様はその素行と品行不良にかかわらず、意外にも頭が良い。すらすらと迷いなく解いていき、ちらりと見た感じでは全問正解だ。
言葉も違うというのに、この国の言語の発声も発音もきれいだし違和感がない。加えて、この柄の悪さで字が綺麗だ。
これと比べて優秀と言われる弟とは、一体どんな怪物なのだろうかと恐ろしくなる。しかし、その弟がグラード様を崇拝しているというのも分かる気がする。
天然なのだろうが、行動に無駄がない。こっちが先でこれが後、と無意識に仕分けている。さらには、無駄話をしながら取り組む所と、手を抜けないところは姿勢は悪いが真面目に課題をやっている。
グラード様に合わせて同じ課題をやれば、お互いに邪魔をする事もない。私は彼の行動を見て真似をしているのだが、普段よりはるかに効率よく課題と予習が終わる。天賦の才だろうか、それを言ったら怒りそうな気もするけれど、話していいタイミングがきたので言ってみることにした。
「グラード様の行動は無駄がありませんね。考えてのことですか?」
「あ? 何をだよ、面倒なもんは後回し、喋っても出来ることは先にやる。必ず終わらせなきゃいけないものが一番最初。当たり前だろ」
それが当たり前にできる人はそうそういない、というのは黙っておこう。彼は、弟からの崇拝に辟易しているのだから、私までそうなったら、彼の留学生生活は針の筵だろう。
私にとってはこの遠慮ない物言いに私の見た目を褒めそやさないというだけでオアシスなのだ。彼のオアシスも壊してはいけない。お互い気持ちよく、それは暗黙の了解だ。
「……そういえば」
「あんだよ」
「なぜ、私を見て第一声が『かわいくない』だったんですか?」
「あ? んなもん、表情見てりゃ分かるだろ。ふてくされてんの丸わかりだろうが、なんで周りが気付かないのか不思議なくれーだわ。あんな不機嫌まき散らしてる女が目の前に居るのは不愉快だから、かわいくねーって言ったんだよ」
……これは弟も崇拝するだろう。というか、しない方がおかしい。そして、弟を擁立しようとする勢力をその優秀な弟が排除するのも納得だ。
私は自分で言うのもなんだが、この見た目のせいで褒められることはあっても、表情、そして無表情に至るまで、受け取り手の好きなようにしか受け取られてこなかった。
だが、人間だ。感情がある。私のふてくされなんて今に始まった事じゃないが、それを一発で見抜くあたりすごい人だ。
「でも、あんなことを言われたら嫌われる、と思ってたんですよね?」
「ただ不愉快まき散らされてるのと、自分の言動で嫌われて当たられるのとじゃ違うからな。俺が嫌われるようなことを言ったんだから、で納得しようと思ったら、お前の機嫌がめちゃくちゃよくなってんのには笑ったわ。そりゃランチも誘うっての」
本当に、この方は面白い。たぶん、向こうもそう思っているんだろうけれど。
グラード様は表情を隠さず、面白い、と言って笑顔でいるからだ。