3 お互いがお互いの人避け装置
「ごめんね、朝はいきなりあんな事言って」
「お気になさらず。新鮮で楽しかったです」
「そう? 普通、女の子は誰にあんな事を言われても嫌いになるものだと思ったよ」
「あいにく、普通ではないので。……グラード様、良ければ今日の放課後二人でお話ししませんか? 誰も近寄らない場所を確保しておきますから」
カフェテリアで、表面上にこやかに会話しながらランチを食べる私とグラード様には、痛いほどの視線が集まった。
自慢じゃないが、一人でいてもおびただしい程目立つのだ。見目の完璧なグラード様がいれば尚更だろう。
私の何が可愛く無かったのかを是非聞き取りたい。それを伸ばしていきたい。是非相談に乗って欲しい。
そんな私の純粋な興味の視線を色恋と勘違いするようなグラード様では無かったが、放課後、と聞いて少し困った様に眉を下げた。
「放課後……そう、だね。私の秘密……いや、それは放課後話そう。本当に誰も来ない?」
「はい、来ません」
その場所の説明をすると、グラード様はなんとも言えない顔になった。私もそう思う。大概にしろよこの外見、と心底思う。
私専用の更衣室兼救護室があるのだ。私の着替えは同年代の女子にすら悪影響であり、具合の悪い私が寝ているだけでさらに熱が上がったりする人が相次いだことから、2年生に上がった時に用意された。
鍵を持っているのは私だけ。でなければ意味が無い。中は、この待遇を憐れんだ部分もあるのか、ロッカーとちょっとしたソファにテーブル、具合が悪いとき用のベッドだけ。ある程度私用に使う事も許可されている。図書室で勉強していると、他の生徒が勉強にならないからだ。失礼な。
場所は教室棟と特別教室棟の間にある、倉庫だった場所だ。大きな窓はないが、いつでも灯りは付けられるように準備されている。ちなみに、図書室が隣なので不便もない。
別にグラード様に襲われる心配はしていない。留学先で下手に女性に手を出すほど、王子という肩書きは軽く無いはずだ。
「では、放課後お声がけします。そんなにお手間は取らせませんので」
「そうだね……、私はできるだけ陽が沈む前に帰りたい。放課後ならまだ、ギリギリ大丈夫だと思うのだけど……、うん、ここは私も賭けだ。けれど、君とは仲良くした方がよさそうだ」
「? 可愛くない私とですか?」
グラード様は少しだけ、本当に少しだけ陰りのある顔で微笑んだ。
「そう。……君と私はたぶんとても近しい。仲良くなった方が、いいと思うから」
この時点の私には、その意味はさっぱり分からなかった。
しかし、私はグラード様と過ごす事で心の荒野にサボテン程度の緑が芽生える事になり、グラード様としても、ある意味私という存在は実に都合が良かった。
のちに、我々は協力者で共犯者でライバルで親友になるのだが、それは最初の放課後を乗り切った後の話である。