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21 そして、それからと、これから

 卒業間近になるまで、私とグラード様は何も関係は変わらなかった。


 私はグラード様にときめく事は多々あったが、前のように絶対に、自分の好きという気持ちを認めてなるものか、という気持ちは無くなっていた。そう、あの日、夢の中でグラード様にそれを告げようとした日から。


 私はユーリカと毎週末を一緒に過ごし、グラード様の先払いによって毎月エステと美容院に通い、季節に合わせて自分たちで服を買った。服飾代はさすがに自分たちの家から出たが、貴族の淑女が着飾るのは当たり前なので、何か言われることもなかった。


 内臓の疲労から栄養を受け付けなくなっていたユーリカは、エステと食生活の改善、果実水や水を摂ってデトックスする事で健康になり、今では一緒に乗馬をしたりするくらいになった。私が来る日はユーリカのご両親も勉強を忘れて楽しむようにと、快く送り出してくれたのでよかった。


 やつれていく娘が心配だったのだろう。今は健康的な張りのある肌に、綺麗に艶のある髪、オシャレや化粧品にもこだわって、見違えるようにはつらつとした可愛い女性になった。


 幼いころのユーリカの顔は思い出せないけれど、今のユーリカは向日葵のようだと思う。きっかけがあって変わった彼女は、少しずつコンプレックスを……私と比べた自分ではなく、ちゃんと変わった自分を認めて、本当に綺麗になった。


 グラード様は魔法使いのようだと思う。いや、本当に魔法を使えるから魔法使いなのだけれど。


 他人の本質を一瞬で見抜く鋭さと、立ち回りのうまさは、生き馬の目を抜く王宮では必要なことだったのだろう。


 私のひねくれやさぐれ精神の根っこにあるのがユーリカだと知って、誕生日というきっかけに、ユーリカと私を無理やり仲直りさせてくれた。お金も使わせたけれど、一番は引き合わせてくれた事だと思う。


 そこに、私に変に地味な格好をさせることもなく、ちゃんとオシャレをさせたのも計算のうちだったのだろうと思う。私が変にひねくれたまま、着るものなんてなんでもいい、というように制服で会いに行っていたら……ユーリカは、素直に聞いてくれなかったかもしれない。


 ちゃんとオシャレをして、それでとびきり綺麗な私を、とびきり綺麗なグラード様がエスコートして、その上でユーリカを外に連れ出して最後にはオシャレにしてくれた。


 食事の改善やエステ、適度な運動でユーリカはどんどん健康的で可愛らしくなり、今は勉強も順調らしい。あの様子なら、王宮勤めになったら同僚の官僚が放って置かないだろう。


 そして、私は卒業式を明日に控えて、最後の勉強会をしていた。グラード様はやっぱり、終始態度は変わらずポンポン軽口を言い合って……、もう帰る時間になる時には物寂しい気持ちになった。


「今日は俺の馬車で送ってく。あのクッキーの店、まだ聞いてなかったからな」


「あ、はい」


 そういえば、教えると言って教えてなかった気がする。学園からも程ほどに近い場所にあるのだが、お菓子屋さんが並ぶ中にある一店舗なので、いちいち入って探していたら見付からないだろう。


 同じ馬車に乗り込む、という時に校門のところで止められた。グラード様は私を立たせたまま馬車に二人分の鞄を置くと、両手に抱える程の花束を持って私の前に跪いた。


 夕暮れに染まる学園の校門で、彼は私に言った。


「ルシアナ嬢。待たせて悪かった、男の俺から言いたかったんだ。どうか、婚約者として、そして将来の伴侶……ついでに言うなら王妃として、俺の嫁になって国に来てくれ」


 なんてぶっきらぼうで、王族らしくないプロポーズだろう。


 だけど、王様になる人というのは、こういう人がいいのかもしれない。


 他人のことを誰よりも見抜ける人。見定められる人。その人が、ブスと言っていた私をブスと言わなくなった。


 そして、似合わない事に跪いて花束を差し出している。


「……喜んで。貴方の支えになれるように、頑張ります」


「頑張れない奴を伴侶に望むか。ほら、はやく受け取れ」


「情緒が無いですね、全く」


 最後まで私たちはこの調子らしい。


 私は両手で花束を抱えると、人生で一番の笑顔で、グラード様を見た。


「グラード様、私、可愛くなりましたか?」


 彼は立ち上がると困ったように頭をかいてから、大きなため息を一つついて。


「世界一可愛いに決まってるだろ」


 そうぶっきらぼうに答えると、一緒にごぼうのクッキーを買いに、馬車にのって貴族街に向かった。



 ……その後は、まぁ、隣国に輿入れしたら、グラード様の弟君と色々あったりしたんだけれど……私の周囲に敵はいなくなったので、このお話はここでおしまい。

これにて完結です!

ありがとうございました。

同時に新作も開始しましたので、ランキングタグより、よろしければそちらもお楽しみいただけますと幸いです。

作者をお気に入りしてくださると更新通知が行きやすいかと思われますので、よければポチッとしてくださると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] グラート様が素敵過ぎます! なんかもし美形でなくても、これほど努力家で才能があって、という時点で魅力的過ぎる。 でも自分以上の美形のグラート様からの言葉だったから彼女が素直になれたのかと思…
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