18 ユーリカ
「あの、グラード様……?」
「なんだよ、誕生日くらいサボってもいいだろ。それとも、一日授業を受けなかったら成績が落ちるのか?」
「いえ、それはありませんが」
その程度の予習復習はしていない。遅れることなくついていく事くらい容易いが、何で私を馬車に乗せたのでしょう?
「とりあえず、制服だと目立つからな。ほら、ここで好きなドレスを選べ。変装するぞ」
「はい?」
まず最初に立ち寄ったのは、この国で一番の高級ブティックである。レディースも、メンズラインも揃っている。
ドレスといっても昼間だから、裾の短いワンピースのようなドレスにヒールの高い靴になった。ふんわりと広がった膝丈のスカートの上から、レース生地が膝下まで覆う黄色のワンピースだ。パステルイエローといえばいいのだろうか、少し白っぽい黄色で、優しいタンポポのような色をしている。
「うん、似合うな。制服もいいけど、やっぱり着飾った方が際立つ」
そう言って、グラード様も灰色のシャツにチェックのベスト、ベストと共布のズボンに、黒い革靴という出で立ちだ。王子様な見た目にしっかり似合っていて、普段からこういう高い服を着なれている事が見て取れる。
私も安い服を着ている訳ではないけれど、これはおめかしの部類に入る。学園に入ってからの私の社交性はほとんど死んでいたのが、最近ちょっと息を吹き返したくらいなので、おめかしをするのはいつぶりだろうかと考えてしまった。
「ま、顔も髪もいじる必要が無いって言うのはいい事だな。――じゃ、いくぞ」
「ま、待ってください! なんですか、今日はいきなり! どこに行くんですか?!」
「いいから。俺からの誕生日祝いだぞ、喜んで受け取れよ。……今のお前はブスじゃないしな、どこにでも連れ歩きたい気分だ」
そう言って二人して洒落こんだまま、馬車に手を引かれて乗せられ、グラード様が私を見上げてふと笑った。
あぁ、ズルい。この人は努力してこの見た目を維持しているというが、他にもたくさん努力してきた。そして、本当は王子様とは程遠い性格と口調をしているのに、どうしようもなく王子様だ。そう、思う。
ドキドキしながら馬車は窓を目隠しされて、貴族街を進む。
そして辿り着いたのは……ユーリカの、屋敷だった。
門の前で待っていたドレスを着た女性は……記憶の中と同じ赤茶色の髪に、今日はおとなしめの光沢のあるグレーのドレスを着た、雀斑の散った顔をした緑の目の、ユーリカだった。