15 亀裂
突然のユーリカの告白に、私はどういう顔をしていいかわからなかった。どんな言葉を返していいかも、分からなかった。
「え、ぇ……? そんな、そんなこと言わないで、ユーリカはとってもかわいいのに」
これは本心だった。でも、今ではユーリカの顔が判然としない。私にとって、彼女という存在は、私のコンプレックスを最大限浮彫にした挙句、私にはどうしようもない事を叩きつけられた一番最初の人だから、だと思う。
私はこの容姿を努力で手に入れたわけじゃない。子供なんだから、食事やおやつの管理だって大人がしている。
自分ではどうでもできないものに、一番大好きな友達が妬みを覚えている。
ショックだった。私とユーリカの間にあるのは、純然たる好意だけだと思っていたのに。
「ね、ルシアナの秘密を教えて? 誰にも言わないわ、約束する」
泣きそうになってしまった。どうしよう、と考えた。とっさに嘘をつく? でも、ユーリカは私に嫌われるかもしれない可能性も考えて、それでも打ち明けてくれたのだ。
私は、言わなくちゃ、と思った。なんだろう、強制されている気持ちになったのだ。ここで嘘を吐いてはいけない、おためごかしも通用しない。
判別できないユーリカの目はどこか暗い色の強さを持っていたように思う。目も逸らせない。彼女からも、私自身からも。
「私は……■■■と言われるのが嫌なの。気絶するまで頑張ったダンスレッスンよりも、難しくて読めなかった本を読めるまで辞書を引いて頑張ったことよりも、皆見ているのは私の見た目だけ。見た目を■■■だと褒められるのが、悲しいの……」
ユーリカの顔が曇ったのが分かった。絵の具のいろが、なんだかどす黒くなっている気がする。
「そんなの……贅沢な悩みだよ。■■■って言われるならいいじゃない……憎たらしいくらいだわ。贅沢すぎて……、でも、本当にルシアナは■■■よね」
ちょっと拗ねたような口調で言われた時、私の心に亀裂が走ったような痛みがあった。
その瞬間、世界全部が割れたガラスのようにヒビが入り、私は崩れた日常生活の真ん中で座り込んで両手で顔を覆って泣いていた。
何度も、心の中では何度も自分の顔を掻きむしった。■■■と言われるのが嫌で、台無しにしてやろうとそれから見当違いの努力をしてみた。全部無駄だったけれど。
「好きで……好きでこんな見た目に生まれたわけじゃない! 私はいろんなことを頑張ったの! 頑張ってるの! なんで誰も■■■、■■■って言ってばかりで見てくれないのよ!! 私、お人形じゃないのに!!」
『そうだ、お前は人形じゃない。顔を上げてみろよ、……ブスだなぁ』
夢の中とは言え、掻きむしった私の顔は擦過傷でズタボロで、泣きながら叫んだ顔は涙と鼻水でぐちゃぐっちゃで、それを、真正面から見つめる男の人は笑っている。
私は、この人を知っている。その笑った顔に、すごく安心する。
見た目は王子様なのに、表情も言動もとてもそんなものでは無い。頭の回転も速く、それでいて、私に一番最初に「可愛くない」と言った、最高に素敵な人。
10歳の泣きじゃくった私は、いつの間にか制服を着た16歳の姿に戻っていた。泣いているけれど、顔の擦過傷は無い。
「……グラード様」