11 割と本気なんだけど(※グラード視点)
「なぁ、絶対気があると思う相手がいるんだけど連れて帰ったらダメかな?」
「何言い出してるんですか貴方。留学先で嫁を見つけたと? 怒られるのは誰だと思っているんです」
「そりゃ、俺……と、お前だな」
「分かってるなら変な事を言わないでください」
「いやでも、映えると思うんだよなぁ……」
俺に宛がわれた屋敷の、俺の部屋。魔法が解けないようにという事と、影からの護衛という事で付いてきている年若い魔術師であり側近でもあるヘクトールに俺は今日の『勉強会』の様子を思い出しながら語っていた。
ルシアナ嬢は、あれは可愛い。好ましいし、隣国の王子であったとしても物申すときは物申す。軽口を言い合える関係なんてのは、ヘクトールを除いて今までいなかった。
国では魔法にかけられている訳ではないが、それなりに猫を大量にかぶって外面を保っている。外国だからこそ、魔法に頼ってまで外面を保っているに過ぎない。
第一王子で見た目はいい。王位継承権も今の所俺が一位だ。弟を推す派閥が強く、父王がそれに揺らいでいるだけで。まぁ、帝王学だの成績だのそういう実務方面で弟の方が秀でているのは間違いないからな。
見た目がよくても弟には一歩劣る、それが俺の評価だろう。それを今まで気にしたことは無かったし、別に王様になりたいと思ったこともなかった。
だが、今初めて王になりたいと思っている。ルシアナを王妃にしたい。興味や好奇心が先に来ているのは自覚しているが、この逸る気持ちは嘘では無いし、これ以後ルシアナ以上にいい女……見た目ではない、性格や性質の相性だ……に出会える気もしない。
王族の結婚は愛だの恋だので決まる物ではない。実利が先だ。ルシアナはそういう意味でもいい、努力家で頭も回る。感情面、社交面は今後に期待すればいいだろう、やり方はもう教えたしな。
今日貰ったばかりのゴボウのクッキーを指先に摘まんでくるくると回し、口に入れる。香ばしい風味がして、少し塩気も感じるくらいだ。大地の味がするというか、とにかく口に合う。本当に職人も引き抜くか、二号店の出店は誘おうと思う。
「なぁ、お前も食ってみろよ」
「いいんですか?」
「あぁ。これを選ぶ女だぞ、俺の妃にはピッタリだと思うんだ」
「……何やら口にするのが怖くなる言葉ですね。まぁ、いただきましょう」
目の前で俺が口にしたからだろう。これは普通逆なんじゃないか、と思うが、この国の人間で俺の命を狙って得をする人間はいない。側近のヘクトールの他は護衛騎士を20名、他は全てこの国でそろえて貰った。身元のしっかりとした侍女や使用人をだ。
ヘクトールも甘いものはそこまで好まない。クッキーの形をしたそれを訝しみながら一口齧ると、目を見開いた。
「美味しい……! どこの店ですか?」
「明日聞いておく。いいな、どこにある店なんだ、から会話できそうだ。今日は会話にならなかったからな」
「……冗談交じりに、お前も国に連れて帰ろうか、とか言ってないでしょうね?」
「言ったぞ? 冗談だと思われたが」
「貴方が言うと冗談に聞こえるんですよ。全部本気のクセに、その辺は学びませんね」
「そこが悩ましい。俺が生真面目に膝をついてプロポーズしたら、気持ち悪くないか?」
「気持ち悪いですね」
「だろう? さぁ、どうやって口説くかな……まぁ、まだ時間はあるか」
そう、まだ時間はある。それに、今俺の中にある気持ちは興味や関心、そして他人よりも少し抜きんでた好意。
これ以上の女はいない、と思うと同時に、まだ全部の顔を見ていない。それが楽しみでもあり、全部暴いて飽きない相手だといいと思う。
もし、ルシアナ嬢がそういう女だったら。
俺は気持ち悪くても、膝をついて彼女にプロポーズをしよう。その時、俺は彼女に恋をしている。
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