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ハーミット・モノリス 【暗躍する月の使徒】  作者: 五輪亮惟
序章・記憶と思い出。
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魔物退治はつらい

 時が経つのは早い。それを実感した半年であった。1番最初に鹿を仕留めたのが、つい最近のように思い出される。


 今僕は、倒れた熊の前に立っている。先程仕留めた、大熊だ。最近村人たちの間で熊の目撃情報が噂されおり、オーガさんに言われるがまま、熊退治にやってきたってわけ。


 ちょー疲れた。

 何が疲れたかって、罠を仕掛けるのが1番疲れた。まあそれによって熊が動けなくなったので、魔力を込めたナイフによって素早く仕留められたけど。


 熊狩りなんて、大層なものを想像するかもしれないけど、実際はこれが一番いい。弓を使って大人数で囲い込むよりよっぽど効率的で安全だ。

 罠は最強、ハッキリわかるね。


 さて、やって血抜きが終わった事だしさっさと持ち帰りますかね。めちゃくちゃでっかいサイズで、何キロあるのか分からないけど、まあ身体強化したら何とかなるでしょ。


 僕は軽い気持ちで、身体中に魔力を練り込んだ。手足が軽くなる感覚。心做しか、心も軽やかだ。

 いい気分のまま、大熊を巨大な皮袋に包み引っ張ろうとした───その時。


「────ッ!!!」


 猛獣が吠える声が聞こえる。かなり距離が近い。しかも、どんどんと近づいている。


 まずい……まさか魔物か? ナイフにほんの少しだけ魔力を注いだだけなのに。それだけでも感ずかれたのか?


 おいおいオーガさんよ………魔導具なら大丈夫っていってたな。ナイフにほんのちょっと注いだだけだぜ? 出力は電杓の10分の1だぞ?

 言ってることがちげえじゃねえか。何が大丈夫だ、だよ。


 ここにはいないオーガさんへ悪態をついていると、ササッと木々が揺れ動いた。

 そして中から、赤い目をギラギラと光らせた猪と狼が出て来た。鼻息荒く、殺気づいた目で見てくる。

 数は5匹だ。


(おいおい、流石にヤバいぞこりゃ………)


 狩りを始めて半年。初めて生命の危機に追いやられた。何もしなかったら、多分食われる。有無を言わさず食い散らかされるだろう。


 打開策を考える。

 1番手っ取り早いのは、全匹とも討伐することだが、出来るのか分からない。一応剣は持ってきた為、ダメージは与えられるだろう。


 増援を呼ぶか? いや、間に合わない。大声を上げたらそれこそ食われちまうし、狼煙を上げても彼らは待ってくれないだろう。


 逃げるか? 無理だ、追いつかれる。それに、ここにいる5匹だけだとは限らないんだ。前方や側面から襲われる恐れがある。


(仕方がないか……)


 覚悟を決め、腹をくくった。

 弓を熊の死骸が入った皮袋の上に放り投げ、剣を抜く。


 魔物たちは、剣の反射した光に興奮したのか声を上げて威嚇する。

 うん、そんな事しなくても充分ビビってるから大丈夫だよ。


 1匹の狼が突っ込んでくる。口を開けて唾を垂らし、血で濡れた牙をギラつかせながら。


 剣で受け止め、腹を蹴る。ギャン、という声を上げて吹っ飛ぶ。

 魔力によって強化されたされたこの身体は、10キロ以上ある狼も容易く蹴り飛ばした。


 剣に魔力を注ぐ。今ので分かったが、刃こぼれが起こっていた。あのまま剣で受け続ければ、使い物にならなくなってしまう。

 白刃が青白く発光する。彼らの血走った目に青い光が映った。しかし、誰も驚いたような反応がない。

 余程腹が減り、血を欲しているのか。


 フーっと息を吐き、奥歯を噛み締める。そして、足に力を込め近くの猪へ肉薄する。猪は迎撃しようと牙をぶつけようとするが、無意味だ。


 剣が届く間合いに入る直前。かなり大振りに剣を振った。剣先は、猪にかすりもせず空を切る。


 しかし、猪は地に伏せた。

 剣に斬られたのでは無く、魔力による斬撃。今回は注いだ魔力が少ないので射程が短かったが、それでも十分の威力を発揮した。


 出血はない。ただ、顔面に大きくできた刃物による切創とその患部を覆う火傷。

 魔力をぶつけて、あるいは介して攻撃した場合、そこは物理的な怪我と別に魔法的な傷を受け、火傷をしてただれたようになる。魔法傷が治りずらいのはこのためだ。


 残りの魔物をチラッとみるが、動揺した様子はない。まあ当然か。動物には仲間意識はあっても理性はない。よって仲間を想う気持ちはない。それが魔物ともなれば、尚更に。


 2匹目、3匹目とじゃんじゃん討伐していく。全匹で一斉に襲われたら降参したところだが、こいつらにそれほどの頭がなくて助かった。


 4匹目。猪の心臓を穿いた剣を握り締め、そのまま5匹目の狼に向かってぶん投げる。よく見れば、それは1番最初に突っ込んできたやつだった。


 ほかよりも一回り大きな狼は、死した猪の投擲を回避すると、僕がいた方向へ走り出す。

 しかし、そこにはもう僕はいない。ちょうど猪を投げてことによって生じた死角に潜り込み、狼の背後へ回った。


「………ッ!」


 短く息を吸い、剣を後ろに引き一瞬溜める。狼は僕が背後に回られたことに気付き体を曲げるが、遅すぎた。


 溜めた力を肩、肘、手首へスムーズに伝達する。そして腰と足首の回転によって生まれたエネルギーを、地面を蹴るのに使う。


 狼の首へと誘われる剣は、硬い皮と筋肉など諸共せず、その胴体と切り離した。


 ってか魔物を倒してる最中にふと思ったんだけど、多分こいつらが来た原因って身体強化だよね。それだと大型の電杓と同じサイズだし。

 ごめんオーガさん。あなたは悪くなかったよ。身体強化をしないと持ち運べない大熊が悪かったよ。


 気持ちを切り替え、周りを見渡す。結局全匹とも血を出させずに始末することが出来た。切り口は、焼けかぶれている為お世辞にも綺麗とは言えないが、戦闘自体は及第点だろう。もっとやりようはあった。

 家に帰ったら、ゆっくりと分析して次に繋げよう。そうすれば、こいつらを倒した甲斐があったってもんだ。


 倒した魔物の心臓部には、魔石が入っている。魔力の結晶であり、彼らの生命維持の為全身に魔力を送る役割を担っていたものだ。人間でいう心臓に近い。


 心臓を穿いたものからは、粉々になっていたため収集が困難であったため諦めた。それ以外からは、しっかりと拝借した。


 若干の疲労感を感じ、ため息を吐きながら再度魔力を全身に巡らせる。後はこのでっかい熊を持ち帰れば、今日は終わりにしよう。


 初めての命を賭けた戦いは、相手が小型の魔物だったこともあり勝利、しかも無傷という圧勝であった。

 しかし、これで驕ってはいけない。今回の反省点を隅々まで洗い出し、しっかりと次に活かさなければ。


 これが、今回倒した魔物への攻めてもの弔いだろう。弔っているのかは、よく分からないが。



 村へ着いた。守衛の人たちからの驚きや賞賛の声をあしらい、いそいそと自宅の庭へと引きずる。


 お母さんが何事かと家の窓を開けた時、偶然にも目が合った。

 手を振ろうとしたそのとき、僕が引きずる皮袋の中身が見えたのか、肩を震わせて口に手をやる。


 まあ、言いたいことは分かるよ。僕だって、自分の息子が最近噂の大熊を皮袋に入れて引きずってきたら何がとかと思うもん。


 自分がやった異常性は十分に理解しているつもりだ。自分でもよく出来たなと感心するほどに。

 仕掛けた罠の大半に引っかかっていたため、運が悪い熊だったんだなと一応納得はしたが。


 夕食時にでも、無茶をしてごめんなさいと謝っておくか。

 一生懸命育ててくれた相手に「あれ? また僕なにかやっちゃいました?」みたいな態度を取るのはクソ野郎の所業だ。

 しかもそんな気取ったような言い草。僕はクールキャラじゃないし、そんなに強くない。聞く人を不快にさせるような言い方は慎むべきだ。

 それとも、人の気持ちが理解出来ないケダモノか。そんなんにはなりたくないね、僕は。




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