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ハーミット・モノリス 【暗躍する月の使徒】  作者: 五輪亮惟
序章・記憶と思い出。
12/37

疲れやすいから

「と、このように魔力量が少ないとすぐに魔力が枯渇してしまい魔力切れを起こしてしまいます。今のキミの疲労感は、肉体的な物ではなく魔力的なものなのです」


 なんなんだその口調は。

 僕はやや呆れ気味に、その意味を求めた。


「口調どうしたの」


「いや、一応先生だから口調もそれっぽくしよっかなって。話を戻すけど、その疲労感は一時的なもので時間が経てば治るけど、とても戦えるような状態じゃないよね?」


「まあ、うん」


 口調変化の理由は凄くどうでもいいことであった。別に口調が優しい先生もいらっしゃるはずだ。


 それはともかく、今こうして立っているだけでもかなりキツい。息がしにくく、空気が肺に入ってこないような感じだろうか。


「その為に、液体加工した魔石を摂取して魔力を回復します。はい、どうぞっ」


 彼女はウエストポーチから何かを取りだし、僕に渡す。それを丁寧に受け取り、覗き込む。


「あ、ありがとう……」


 受け取った小さめな三角フラスコのような瓶には、何やら緑色の液体が入っていた。

 毒々しい色をしており、イルシィに目で確認すると、顎で飲めと促される。


 恐る恐る口に含むと、なにやら柑橘系の匂いと酸っぱい味。なんだろう……レモンとか、酢橘に近いかな。普通に美味しいですね。


「それはポーション(回復薬)と言って、魔力を補充したり怪我を治す時に使います。魔力を補充したい時は経口摂取、傷を直したい時は患部に振りかければ大丈夫。それ1本で腹痛や頭痛、吐き気、目眩、筋肉痛までも直せるので、冒険者だけじゃなく医者や薬草師、主婦の頼れる仲間なのです!」

 

 へぇー。凄いんだな、ポーションって。

 噂ではこれより更に上位のハイポーション(超回復薬)とかエリクシール(万能薬)なんてのもあるって聞くけど、どれくらい凄いんだろうか。


「ちなみに、これは街でも売ってるけど意外と値が張るから、わたしが自作してるんだ。本当は調合師の資格がいるんだけど、シルムにもやってもらうからね」


 3度目の当たり前顔。

 もはや見慣れてるまである。


「え、いいの?」


「まあ、良くはないかな。でも品質は問題ないんだし、意外と冒険者はみんなやってるから」


 出た、みんなやってるから平気。

 それホントに大丈夫なんだろうな? 実は重罪で極刑、なんて嫌だよ?


「へぇー……あぁ、疲れた……」


 イルシィの話を聞き、ポーションを飲んでいたところでどっと疲労感が押し寄せてきた。

 しかし彼女は、話を続ける。


「最終的には、身体中の魔力量が増えるのとその魔法的な疲弊に体が順応するから、あんまり疲れなくなるよ。すぐに慣れるし、まあ遅くて5日くらいかなぁ」


「……それ、ホント?」


「ホントホント。じゃあ、体力も回復したことだし2回目行ってみよーっ!」


 なんか軽いなぁ。

 何となく嘘っぽいんだけど……。


◆❖◇◇❖◆

 1週間後。


「ぜぇーっ、ぜぇーっ、ぜぇーっ………ッふーっ」


 やはり、嘘であった。この女はやはり嘘をつく。

 すぐ慣れる、なんて言ってた割には1週間経っても全然ダメだ。4、5匹を相手にしただけで息が切れて動けなくなる。

 流石のイルシィ大先生も困っているようで、「わたしがやった時は3日とかからなかったのに……」なんてほざきやがる。馬鹿にしてんのか。


「シルム……なんでそんなに体力ないの!?」


 単純にそれは悪口である。

 悪口を言うなら本人のいない所で言うべきだ。


「こっちが聞きたいっ! すぐ慣れるんじゃなかったの!?」


「わたしの時はすぐ出来たんだもん!」


「バカにしてんのか!?」


 これまでは軽い冗談を言い合ってたくらいの仲だったのだが、今回は普通にキレ気味である。だってイラつくし、しょうがないじゃん。


「はぁーっ……はぁーっ……」


 しかし、疲れている最中に大声を出したらもっと疲れるのは必至。僕は膝を地面に着いて剣を離す。


「んー……っかしいなぁ……」


「だから……はぁ……それ、は……はぁーっ……」


「あーうん、喋らないで」


 その言葉の意味が、余計に疲れるから今は休め、という意味なんだろうと分かっても、黙れと言われた気がしてさらに腹が立つ。

 どうやら、僕はこの人と反りが合わないらしい。


魔力回路(サーキット)自体は問題無い……っていうか寧ろ常人より優秀なくらい丈夫なんだよねぇ」


 魔力回路(サーキット)、というのはその名の通り魔力の道筋のことだ。これを通って魔力が体外に放出されたり筋肉や骨、関節を強化する。とは言っても実際に体内にその様な器官がある訳では無い。

 まあ、僕達……というかイルシィの場合は全身に魔力を張り巡らしてるからそんなに意識はしないらしいが。


「キミの魔力、少な過ぎない……?」


「んな事言われたって……」


 魔力が少ないですね。と言われても、はいそうですかとしか言いようがない。増やし方を知らないからだ。どうしようもないことなのだし、諦めてもいた。


「本当は使いたくないんだけど………仕方ないか」


 彼女はため息を吐きながらそう言う。

 何が仕方ないのか。いちいち僕を苛立たせるなぁこの人は。


「とりあえず、今日は撤収して家に戻ろっか。そこから、キミのステータスを測るよ」


 ステータスって? そんなことを聞く暇すら与えられず、イルシィは踵を返して走っていく。

 何でそんなに急いでるんですかね。別に時間はあるんだし、ゆっくり歩けばいいのに。


 と思ったが、僕自身も早く彼女と肩を並べて戦えるようになりたいので、離されないように駆け出した。



 家に戻ると、彼女は装備を外すことすらせずに机の引き出しを漁り始める。えーと、えっとー……と言ってるから、場所なんて覚えてなかったんだろう。


「あ、あった!」


 しかし、それは案外早く見つかったようで、イルシィは引き出しから引っ張り出した羊皮紙を天井に掲げた。


 そして、僕の方を振り向いてニヤッと笑う。この顔は、何か悪戯をしたいときの悪い顔だ。


「これっ! この紙を使ってキミのステータスを測りますっ」


「へぇー。ステータス、って?」


 僕がそう言うと、一瞬ポカンとした表情になり、そして納得したかのように頷く。


 だって仕方ないじゃない。ステータス、なんて単語聞いたことないのだから。いきなり、測りますよなんて言われても困惑してしまう。


「ステータス、っていうのはキミの能力や技術(スキル)を具体的に、数値的に表したものだよ。この値を参考に、適正な職業職種を選ぶんだ。冒険者っていう括りの中でも、【剣士】とか【魔法師】とか、【盗賊】や【僧侶】なんかも。勿論冒険者だけじゃなくて、【鍛冶師】とか【織物工】とか【医者】とかもね」


「ふーん……具体的に分かるって言うのは凄いね」


 自分の能力や出来る事が可視化されるなんて、とんでもない代物だ。自らの知らない才能や向いてる物、傾向なんかも分かる。


「そ。とっても凄いんだよ! これを高値で買ったわたしを褒めてっ!」


「すごーい………因みに、おいくら?」


 左手でマネーサインを作りながら、小声で問うた。すると、同じように彼女から僕よりももっと小声で返答がくる。


「………金貨10枚」


 ………。

 …………………。


「…………え?」


「だから、10枚だってば」


 じゅうまい………きんかじゅうまい………キンカジュウマイ?


「……いや、無理」


「はぁ?」


「無理無理無理無理。絶対ムリ、ヤダ、使いたくない。やめとく、無理、ヤダ」


 金貨10枚? そんな大金、返せる訳が無い。闇金融に頼っても無理だ。借金する気もないし、出世払いも見込みが薄い。初年度に破産する、自己破産バンザイだ。


「……なんか勘違いしてるみたいだけど、お金は取らないからね?」


「いやいやいや! 尚更無理だって!」


 金利無しなら分からなくもないが、無料で差し出すときたもんだ。そんなものとてもじゃないが受け取れない。

 いくらこの人に腹が立つとはいえ、そこまでするのは気が引けた。だって金貨10枚だぜ? 一生遊んで暮らせるよ? 豪遊し放題だよ?


「なんでー!? わたしがいいって言ってるんだからいいじゃん!」


「そういう訳にはいかないでしょ! 流石に!」


 両手を胸の前で振り、必死にアピールを続ける。

 イルシィは、そんな僕を見て呆れたのか大きくため息をついた。


「大丈夫だって。これは、わたしがキミに金貨10枚を渡してる訳じゃないし。あくまでも、先行投資だよ」


「先行投資?」


「そ。今のうちから君の素質を見抜いておけば、後々役に立つでしょ? それに、本気出せば金貨10枚くらい集まっちゃうんだから、気にしないでっ!」


 む、むむむ………本当だろうな?

 まあ、そこまで言われちゃ仕方ないか。痛むのは僕の良心だけだし、彼女が良いって言ってるんだし大丈夫なんだろう。


「……わかったよ。どうすればいいの?」


 渋々認めると、彼女はパァっと明るく笑って頷いたあと、机の上にその羊皮紙を置いた。


「方法は簡単。魔力を込めた血液を一滴垂らせば良いだけ。そうしたら、この羊皮紙に練り込まれた鑑定魔法が自動で発動するから」


 ふーん。

 そんな気の抜けた返事をして、右手を羊皮紙の上に持っていく。そして、親指の爪で薬指の腹を引っ掻き、血を1滴だけ垂らした。


 ポタっ、という音を立ててその血は羊皮紙に赤色の池を作る。

 動物の皮から出来た羊皮紙は、その性質上水分が滲みにくい。しかしこの羊皮紙は僕が垂らしたその赤池を、綿と勘違いしてしまうほどに、簡単に吸い上げた。


 そして徐々に、赤色が紙の中で動き始める。まるで磁石で下から操られているかのように。

 最初は大きく雑な図形を。時間が経つにつれその形は小さくなり、やがて文字を写し出した。大陸共通語で書かれたそれは、僕の情報を正確に表す。


『氏名:シルム・レートグリア

 年齢:12 種族:人間 性別:男性


 レベル:7


 HP:1384/1384  MP:187/187


 筋力:13  敏捷:24  器用:25


 魔力:21  防御:12  精神:15


 《スキル》

 〇戦闘術

 ・剣術Ⅳ ・双剣術Ⅱ ・体術Ⅲ

 ・弓術Ⅲ ・下位魔法Ⅲ ・中位魔法Ⅱ


 〇職業術

 ・料理Ⅱ ・薬術Ⅰ ・狩猟Ⅱ

 ・筆記Ⅱ ・計算Ⅰ ・掃除Ⅱ


 《称号》

 ・なし

                     』


 

 

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