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27 青い夜

「……ゼラくん、冗談が過ぎるよ」

「この機に及んで冗談だと思うか?」

「だっ……だってそんな……レポリスに援軍を出さなかった血も涙もない反逆国家のピスキウム家が、そんな……嘘だ」


――反逆国家……そうよね、相手からすればきっとそう見えるのだわ……


 ロベリアが恐れていることが目の前で起きている。ピスキウム家が復興し女王ローズが帰還となれば、リトのように過去の執念を持つ者からは忌み嫌われ、反撃されることもありえる。


「ピスキウム家が援軍を出していれば、父さんも母さんも妹も死ななかった!!! ……人殺しの家がロベリア様の家なわけないじゃない……そうだとしたら僕は……気持ちが追いつかない」


――…………かける言葉が見つからないわ


「だろうな。たが、真実だ。ロベリアは次期女王様にあたる。今回攫われたのも国絡みの問題だ。……リト、俺がピスキウム宮殿でお世話になっていたのは知っているな?」

「……! 僕が調べていたの知ってたの……!?」


 リトがキファレス家に連れられ一年経った十四歳の時。キファレス邸の書庫で当時の戦争について調べていた際にキファレス家のことも知り、ゼラがピスキウム家と関わりがあることを知った。命を助けてくれた恩人に裏切られた気分だった。

 それ以降、リトは秘密裏にピスキウム家のこと、キファレス家のこと、ゼラのことを徹底的に調べていたのだ。どうかゼラだけは自分の味方であると確信できる証拠を見つけたかった。何度も何度も調べた。だが、調べるにつれてゼラとピスキウム家の繋がりは深くなる一方だった。


「そして、おまえが寝ている俺を殺そうとしていたこともな」


 調べ上げた先に生まれたのは、殺意だった。殺人犯の共謀者ともなる相手に育て上げられていたのだと、絶望が襲い掛かり復讐心に支配されたリトは、その日ゼラを殺そうとしたのだ。


――あのリトがゼラを……?


「……あの日、気づいていたんだ。そりゃそうだよね。ゼラくんだもん……」

「扉に入る前から気づいていた。忍び足で近づいたつもりだったかもしれないが、うるさかったぞ?」


 はははっと小さく笑うゼラ。幼かった頃のリトを思い出しているのだろう。しかしリトの笑い返す声は聞こえなかった。


「どうして……僕の首を刎ねなかったの? 僕はゼラくんを殺そうとしたんだよ!?」

「……殺せるわけないだろ」

「どうして!」

「それはおまえも同じだろう? どうして俺を殺さなかった?」


 憤りを露わにするリトとそれを包みこむように優しく返すゼラの声が、ロベリアを切なくさせた。ロベリアはぎゅっと胸ぐらを掴み、天井を見上げた。


――私は泣いていい立場じゃないわ


 涙を堪えれば堪えるほど喉が熱くなり、鼻の奥がつんと痛くなる。


「……殺せなかった……怖かった……ゼラくんを失うことが……」

「リト。俺はおまえに今を生きてほしいんだ。過去を忘れろだなんて言えねぇ。俺も自分の犯した過ちも、リトの想いも背負って生きていくつもりだ」

「…………」

「だがな、俺はピスキウム家に助けられた。ローズ様を守ると誓った。もしおまえが俺でなくローズ様に剣を向けるなら、俺は迷いなくおまえの首をここで刎ねる」


 ゼラのその声は本気そのものだ。ロベリアに敵対する相手は、たとえ家族同然の人間だろうと容赦しないのだろう。


「…………。もう殺せるわけないよ。ゼラくんのこともロベリア様のことも、僕は大好きだ」

「……それも知ってる」

「でも……。ごめん。今日は帰る!」


  ロベリアが待機している扉に向かって、足音が近づいてくる。


――見つかっちゃう!


 ロベリアは立ち上がり、その場から去ろうとしたが足が痺れて動けない。ドアが勢いよく開き、リトと目が合った。気まずい雰囲気が漂う。


「ロベリア様……! ……ごめんなさい!」

「リトっ……!」


 リトは勢いよく走り去った。肩に乗っているフクロウは、首を斜め後ろに回転させ、ずっとロベリアを見つめていた。


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