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chronos  作者: 天月 琉架
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第六話

何が悪かったのだろう。

何がいけなかったのだろう。


いくら考えても答えは出ない。


僕が蓮の気持ちに応えないから?

悠が蓮のことを好きだったことに気が付かなかったから?


いつまでも向き合おうとしなかった。


踏み出すのが怖くて、何もしなかった。


今があまりにも楽しくて、心地良くて。


蓮の優しさに甘えてた。


蓮の気持ちを考えたことなんてなかった。


蓮が、微笑ってくれるから。


それでいいのだと、漠然と思い込んでいた。




―――満足していたのは、自分だけだったのに。




『都合の良い時だけ仲良しこよしのオトモダチ。

そんな関係で満足出来る人間なんて、この世に存在するわけないじゃない』




悠の言葉が突き刺さる。

何度も何度も繰り返し、嘲笑うように告げる。



都合の良い時だけ


―――そうじゃない


仲良しこよしのオトモダチ


―――そんなつもりじゃない


そんな関係で満足出来る人間なんて、この世に存在するわけないじゃない


――――知らなかったんだ!


知らな…かったんだ、悠がそう思っていたなんて。

蓮が…自分のために合わせてくれていたことなんて。


僕が、蓮を苦しめていたことなんて。




そう考えてから、自分はどれほど愚かな人間なのだろうと思って苦笑する。

全部、他人のせいにして。

楽な道を選んで。


面倒なことはしない。

欲しいものだけ手に入れて、それは永遠にそこにあるものなのだと信じきっていた。


悠との友情も。


蓮との関係も。


「ふふ…ホントに、僕って何にもしてないや」


初めて声を掛けてきてくれたのも悠だった。

その後からもずっと、悠が誘ってくれた。


いつもからかうような口調で、重くならないように心配してくれた。

なぁにって悪戯っぽく微笑んで話を聞いてくれた。


蓮と一緒に、笑ってくれた。



蓮…


蓮のことを考え始めると、胸が苦しくなる。


大きな手のひらで、いつも子供扱いするように僕の頭をぐしゃぐしゃ撫で回してた。


僕が笑うと、嬉しそうに一緒に笑ってくれた。


道で危なくなるとすぐに手を引いてくれて。

ちょっと怒った顔をして、心配そうに覗き込んできて。


僕が怒ると、仕方ないなって困ったように笑ってくれて。


僕は、2人に大事にされていたんだ。


ちゃんと態度で示してくれていたんだ。


それなのに。



僕は、大切な人を失おうとしている…。


どうすればいい?

どうすれば失わないで済む?





答えはまだ―――見つからない。





*******



うずくまったままいつの間にか眠ってしまっていた。

傍らに転がっている目覚まし時計を見ると、午前10時を指していた。


(今日も遅刻だな…)


ぼんやりとそう思うけれど、急ごうという気にはまったくならなかった。


蓮と気まずくなってから1週間。


不思議と毎日見ていた蓮の夢を見なくなった。

夢の中まで見放されてしまったみたいで、なんだか哀しくなった。


悠と喧嘩してから、悠に言われたことが頭から離れなくて蓮とは会っていない。

というよりも、蓮と同じ講義は週3日、朝の1時限だけなのだから、起きられない僕が

蓮と会おうと思ったら約束しなければ会えないのだ。


メールも、してない。

もちろん電話なんて以ての外だ。


自分から何もしなければ、こんなにも何もないものなのだろうか。

用もなく携帯の着信履歴をスクロールさせると、見事に蓮と悠の名前ばかりが並んでいる。


時折他のクラスメートやサークル仲間の名前はあるけれど、ほとんどが2人の名前で埋め尽くされている。

けれどもそれは、1週間前の日付でぷっつりと途切れている。


本当に、してもらってばかりだったのだ。


(もういいや)


今日はもう学校へ行くのはやめよう、と決めてぽいっと携帯を放り投げると同時に着メロが鳴った。


「誰…?」


まさか、悠?


いや、それはない。

一度決めたら最後までやり通す男だ。

飄々としているくせに、意外と頑固なところがあるから。


じゃあ誰―――


携帯を開くと、それは意外な人物からだった。


「響先輩…?」


何の用だろう、とメールを読む。




『ちゃっちゃちゃーす!

サボリ魔おこちゃま斗真クン、

至急登校せよ!

でないとこの部長サマが小悪魔と一緒に迎えにいくよ?

中庭のサロンで待ってるにょーん


by 響』



(…先輩ってこんなキャラだったっけ?)


朝からテンションの高いメールに呆れながら苦笑する。

けれど、気落ちしてばかりの今の自分にはちょうど良かった。


(ん?小悪魔と一緒にって…誰のことだろ)


まぁ、後で聞けばいいか…という考えに落ち着いた斗真は、すばやく着替えて

登校することにしたのだった。









響先輩からのメールが来て30分後。

斗真は大学構内のカフェテリアに来ていた。


(響先輩の言ってた場所って、確かここだよね)


彼は大の音楽好き・イベント好きで、斗真が蓮たちと知り合うキッカケになった

ライ部の部長をしている。


おまけにコーヒー・紅茶をこよなく愛している…らしい。


『ロッカーはコーヒーの味を知らなきゃならんっっ』


が彼の持論らしい。


『ロッカーがコーヒーなんか飲むの?』

どうやって?とお決まりのボケを交わしたのは記憶に新しい。


(そういやあの時も、蓮に呆れられたなぁ…)


そのロッカーじゃない、と苦笑しながらコーヒーについても詳しく教えてくれたっけ。


座って待っていると、いろんなことを思い出して切なくなる。

今は隣に、彼はいないのだから。


(うう〜…ダメだダメだ、今は悲観に浸っている場合じゃないっ)


さっさと響先輩の用件を終わらせて、これからどうするかをまた考えなければ。


潤む瞳をゴシゴシ拭って、前を見つめる。

すると、蓮らしき人物がちらりと見えた。


「・・・っ!?」


もっとよく見ようと眼を凝らすと、その先に見えたものは少し疲れた様子の蓮と―――




その腕に絡む―――悠、の姿だった。









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