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chronos  作者: 天月 琉架
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第十三話

「悠〜っ、ごめん、待った?」


待ち合わせ場所のコンサート会場前に走っていくと、悠が不機嫌そうに立っていた。

淡い色のコットンシャツに黒いカットパンツ。

それに革靴を合わせ、ハニーブロンドの髪を軽く流している。

長い手足を強調させるスタイルはいつみてもお洒落だ。


「遅いっ」


むすぅとした顔で斗真のほっぺたをみょーんとひっぱる。


「いひゃいよぉ〜」

「斗真のせいでくだらない連中に声掛けられまくったんだからね」

「ごめんっ…てばっ」


摘んだ指を離すと、うぅ〜と斗真が頬を擦っていた。

斗真は黒いハイネックのTシャツの上に薄手のカットシャツを重ねて着て、オールドジーンズを穿いている。

悠はシャツの襟首を引っ張って中を覗き見た。


「なーるほどねぇ。毎晩愛されちゃってるわけだ」

「ぎゃーっっ!!何すんだよっ」

「あらら。こんなトコにも付いてる」


面白そうに首筋や鎖骨の辺りをぺたぺたと触ってくる。


「はーるかぁぁぁぁっ」


ぜぃはぁ〜と何とか魔手から逃れようとする。

なんだか最近、スキンシップが激しいような気がするんですけどぉぉぉっっ


「さて、早く行くよ。遅れちゃうじゃない」

「にゃ…にゃにおぅ」


ひとしきりからかうのに満足したのか、あっさりと手を離した。

まったく、悠のヤツっっ。

斗真は乱された服を整えると、急いで先を行く悠を追いかけた。


響から譲ってもらったのはクラシックコンサートのチケットだった。

会場に入ると、黒いスーツ姿や華やかに着飾ったドレスを着ている人がたくさんいた。


「やっば…今日のコンサートって結構敷居高かったの!?僕、こんなカジュアルで来ちゃったんだけど…」

「大丈夫じゃない?僕だって、こんなだし」

「悠はいいよ…顔でだいぶカバーしてるもん」


はぁ…と居心地の悪さから憂鬱になってしまった。

クラシックは元々王侯貴族の娯楽であったこともあり、フォーマルな格好で聴くスタイルが一般的であった。

最近ではカジュアル志向になりつつあり、よほど格式の高いものでなければ今の斗真の格好でも十分である。

が、今日は平日の夜というのもあり、会社帰りのひとが多いせいか正装している人がほとんどだ。


「それにしても、ちょっとフォーマルの人多過ぎじゃない?誰かゲストが来るのかな」

「さぁ?」

「今夜はウィーンフィルの元コンマスの方が特別出演するんですよ」

「え?」


突然後ろから答えが返って来たので驚いて振り向くと、格好良くスーツを着こなした崎が立っていた。


「オーナー!?何でココにっ」

「げ。」

「こんばんは。今日の演奏者に知り合いがいるもので、招待に(あずか)ったのですよ」


にっこりと優しく微笑むが、その視線の先にいる悠はもの凄く嫌そうな顔をした。

そんなにあからさまにしなくても…と窘めるが、まったくもって聞いてなどくれない。


「斗真くんと悠くんはお2人で来られたのですか?」

「はい。大学の先輩から譲ってもらったんです。そんなに凄い方がゲストで来るって知ってたら、僕ももう少しキチンとした格好をしてきたんですけど…」

「大丈夫ですよ、とても可愛らしくて。それに、音楽を楽しむことが大切なのですから、格好などは本来は何だって構わないんですよ」


崎はそういって斗真の髪を撫でようとしたが、悠が急に斗真の腕を引っ張って彼から離れさせた。


「斗真に気安く触るなっ」


そんな悠の態度に気を悪くすることなく、崎は穏やかに笑ったままだ。


「すみません。どうやら悠くんのご機嫌を損ねてしまったようだ。私はこれで失礼いたしますね」

「あのっ、こちらこそすみません。いつもはこんなヤツじゃないんですけど…」

「僕の名前を勝手に呼ぶなっ」


何とか取り繕うとする斗真の気持ちなどお構いなしに悠が怒る。

本当に、どうしちゃったんだよっ。


わたわたと焦る斗真に、気にしていませんよ、と崎は優しく言う。


「それでは良いひと時を」

「ありがとうございます。オーナーも」


それだけ言うと、崎は会場へと入っていった。

その後ろ姿を噛付かんばかりに睨み付けている。


「悠ぁ…どうしちゃったの?」

「僕、あいつ嫌い」

「嫌いって…それでもいくら何でも失礼でしょっ。いつもは嫌いでも取り繕うのに」

「無理。笑顔が胡散臭い。生理的にイヤ。死ぬ。むしろ消えて欲しい」


そんな全否定しないでよ…と言ったところで聞くような悠ではない。

仕方がないので、今度から悠とは崎のいるレストランには行かないようにしようと心に決めたのだった。







コンサートが終わると、外はもう真っ暗だった。

斗真と悠は地下鉄を使って帰ろうと人波に乗る。

街はイルミネーションで着飾られ、咲き始めた桜や梅がとても綺麗だ。


「あれ…?」


夜桜を楽しんでいると、一際人が集まっている場所があった。

よくよく見ると、どうやら桜の木の街道に沿って夜店が並んでいるようだ。


「ねぇねぇ悠っ、ちょっと寄って行こうよ。僕、お好み焼きが食べたいっ」

「えぇ〜…人混み嫌いなんだけど」

「ちょっとくらい良いじゃんっ。桜を見ながらビール飲むのも美味しいよ?」


僕は飲まないけどね、と続けて悠を引っ張る。

斗真は食べ物に関しては絶対に梃子(てこ)でも動かないので、仕方なく付き合うことにした。


「あっ、ソースせんべいもあるっ。あと焼き鳥も食べたいっ」

「あーはいはい、そんなに食べてお腹壊しても知らないよ」

「うっさいっ。子供じゃないからだいじょーぶだもん」


…どこが?と突っ込みそうになったが、言っても仕方がないので視線だけ投げた。

無邪気に走り出そうとする斗真を何とか捕まえる。


(僕は斗真の保護者じゃないんだけどなー…)


まぁいつものことなので諦めることにした。

屋台は結構長く続いており、半ばお祭りのようになっている。

この時期は景観が良いのでデートスポットとして雑誌にも特集されているくらいだ。


(まぁたまには良いか)


そう思って紙コップのビールを飲みながら人の流れに乗って景色を楽しむ。

途中、いちゃついているカップルが邪魔で腹が立つが、今日くらいは許してやろうと意味不明なことを言ってみる。

すると、頭一つ分飛びぬけているカップルが目に付いた。


女性は平均より背が高く、派手な顔立ちをしている。

短い紺のスカートを穿いて惜しげもなく生足を晒していた。

長い黒髪を後ろに流して、傍らの男に寄り添い、胸元を強調するカッターシャツを着ていてあからさまに男の腕に押し付けていた。


(あ〜あ…あーいうオンナって好きじゃないな)


自分がそんなことされたら喜ぶどころか怒りまくって帰るだろう。

男であれ女であれ、性を武器にする人間は基本的に嫌いなのだ。

逆に男であろうと女であろうとその人の人間性を見るので、外見や性癖・職業や趣味はどうだって構わないと思っている。

自分自身は至ってノーマルなので、出来れば清楚な女性がタイプだ。


そんなことはどうでもよくて、自分から見れば可哀想、一般的にはラッキーな男の方はと目をやると…


(ばっ…ちょっ…ありえないだろ)


悠は斗真の目に触れないよう、急いで斗真を探す。

少し前方に美味しそうに綿菓子を頬張っていた。


(よし、まだ気付いてないな)


それだけ確認すると、悠は急いで斗真を捕まえた。


「斗真、もう帰るよ!帰りの電車なくなっちゃうでしょ」

「え〜、まだじゃがバタ食べてないよ?」

「だめっ。今度、僕が作ってあげるから」

「やだよ。悠、料理出来ないじゃん」


ちょっと買ってくるね〜と呑気に進んでいく。


あ、バカっ!そっちはダメなのに!!


次の瞬間、斗真は呆然とした表情で固まっていた。




「――――蓮?」



なんで…と続く声は、悠には届かなかった。




読んでくださっている方、いつも本当にありがとうございます!!

読者様が一人でもいらっしゃるということが本当に嬉しく思います。

申し訳なくも、都合により毎日更新が難しくなります。

なるべく早く更新出来る様頑張りますので、どうか見捨てないで待っていてくださるととても嬉しいです。

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