毒と薬
※本日二話目です
しばらく氷の上を進んでいた一行。
ビキビキビキッ⋯⋯パリン!
ビキビキビキッ⋯⋯パリン!
せっかく作った氷の道が、すぐに割れていた。
「どうした、カッチン」
「はい、このあたりはやや波が強く、凍らせるのに時間がかかります」
「うーむ仕方ない、ゆっくり進むとしよう」
なかなか先に進めず立ち往生していると⋯⋯。
海の中から、ざばぁと波音を立てて黒い大きな塊が浮上した。
「こんなところに人⋯⋯いや魔神が三人とは珍しいなぁ」
「お主は? 余はデストロと申す」
「ああ! 噂は聞いておりますよ! 私は鯨の魔神ホエルともうします。かねがねお仕えしたいと思っていたのですが、なにせ海を離れなれなくて」
「そうであるか⋯⋯おお、ちょうど良い! 我らを向こうまで乗せていってはくれまいか」
デストロは事情を話した。
「なるほど。海の向こうの国に⋯⋯お力になりたいのですが、実は私は今、問題を抱えておりまして」
「問題?」
「はい実は⋯⋯イタッ!」
ホエルは突然水面から飛び上がった。
そして海面に体を身体に叩きつけると、大きな波が生まれた。
波はデストロたちを飲み込みそうになったが、直前で凍った。
「はーはー。危なかった」
カッチンが息を荒くして言った。
「突然何をする」
「すみません、実は身体に虫が住み着いておりまして、時々チクチクと刺すのです、すると驚いて飛び上がってしまうのです」
「なんと」
「なので、お三方を背中に乗せて海を泳ぐ途中、虫に刺されてしまうと、振り落としてしまいかねません」
「ムムム⋯⋯」
デストロが思案していると⋯⋯。
「では、その虫は『チクチク虫』と名付けましょう。これはチクチク虫を退治する薬です」
ポイゾナが小さな壷に指を入れ、毒液で満たした。
「薬とな」
「は、はい。畑の害虫を退治する毒を作った時、夫に『これは農業を助けるから「農薬」と呼ぼう』と言ってくれたのです。私はそれが気に入ってしまいまして」
「なるほど農薬か! 毒も使い方によっては確かに薬だ、ポイゾナ、お主は夫に恵まれたな!」
「は、はい」
ホエルはポイゾナの薬を飲んだ。
「おお、確かにこれで虫は退治できました」
「良かったな!」
「はい、実は長年困っていました、ありがとうございます。さあ、背中に!」
三人はホエルの背中に乗った。
「ポイゾナ、カッチン、二人に来て貰って良かった、無事海を渡れそうであるな!」
「勿体ないお言葉です」
「お役に立てたならなによりです」
こうしてデストロ達は海を渡り、壷職人の故郷にたどり着いた。




