氷の魔神②
氷の魔神カッチンは、デストロに呼び出された。
「デストロ様、参りました」
「おお、相変わらず冷え冷えだな。お主が来てしばらく経つが、居心地はどうだ?」
「はい、私は氷の魔神であるにも関わらず、皆様には暖かく接していただいております」
「ヌハハハハ、面白い事を言うではないか」
「『お主、言うことも寒いのぅ』と言われずホッとしました」
「ヌハハハハ、畳みかけてくるな。来た頃のお主はもっと冷酷で、恐ろしい奴だと思っておったぞ」
「皆様のお陰です」
「その様子なら大丈夫だな。どうだカッチン、実はお前に見合いの話がある」
「は? 見合いですか?」
「そうだ、炎の魔神ボウボーウの一人娘、メーラが婿を探しておるようだが、なかなか相手が見つからぬらしいのだ」
「はあ、まあ、私で良ければ」
「急に冷めた様子で返事をしたな」
「こんなこと言うのもなんですが、恋愛結婚に多少憧れがありまして」
「氷の魔神は熱愛に憧れているのか」
「これは一本取られましたな」
「ヌハハハハ」
あまり気乗りしていない様子ではあったが、カッチンは見合いをする事になった。
(なんと美しい方だ)
実際メーラに会ってみて、カッチンは一目で気に入ってしまった。
「あなたがカッチン様ですか、私はメーラと申します」
「はじめまして。いやあ、こんなにお美しい方だとは」
「まあ、お上手ですね」
「いえ、本心です。今までお相手が見つからなかったというのが不思議です」
「はい、その事ですが、実は⋯⋯」
メーラは近くにあった紙を手に取った。
するとすぐに紙は燃え上がり、灰になった。
「この通り、私は父と同じく炎の魔神。手を握る事もできない相手を伴侶として選ぶ者などおりませぬ」
「なんと」
「父は私をどなたかに嫁がせたいようですが、私はもう諦めております」
「もったいないことです」
二人は城の庭へと赴き、散歩をした。
特に会話もなく歩いていると、メーラの視線があるものにたびたび移っている事に気が付き、カッチンは質問した。
「お花が好きなのですか」
「はい、よくお気づきに」
「優しい目をして見ておられますから。ここに植えている花はデストロ様が、家臣が自由に摘んで持って帰る事を許可しております」
「そうですか、デストロ様はお優しい方ですね」
「はい、氷の魔神として人々に恐れられたら私に、人に喜ばれるという喜びを教えてくれました」
「人に喜ばれるという、喜び⋯⋯」
「はい、この世界に自分の居場所がある、その喜びです」
「自分の居場所⋯⋯」
その言葉を呟くと、そのまま花を眺めているメーラをしばらく見ていたカッチンは、思いきって声を掛けた。
「すみません」
「はい」
「手を」
返事を待たず、カッチンはメーラの手を取り、そのまま花へと近づけた。
メーラとカッチン、両者の手で挟み込むように花へと添え、摘み取った。
「もしかしたら、花を燃やす事を心配しているのかと思いまして」
「はい、そのとおりです」
「私は氷の魔神、うまくいくかどうか一か八かの賭けでしたが、どうやら花は燃えずにすみました、恐らくお互いの力が中和されたのでしょう」
「ありがとうございます。私、花をこのように手に持って眺めるのは初めてです」
嬉しそうなメーラと、手をとりあったまま二人で花を眺める。
しばらくしてカッチンは思いきって言った。
「花が燃えなければ言おうと思いました」
「はい、なんでしょう」
「私たち二人なら、助け合えば不可能を可能に出来ると思います、この花のように」
「そうかもしれません」
「お互いがお互いに配慮し、助け合い、補い合う。それは夫婦として大事な事ではないでしょうか」
「そう思います」
「あなたの側で、私にその役目を与えて下さい、お互いを、お互いの居場所にしませんか」
「えっ、でも、今日出会ったばかりですよ」
「はっきりと言いましょう。私と結婚していただけませんか」
「まあ、氷の魔神だというのに、ずいぶんと情熱的でいらっしゃるのですね」
「だめでしょうか」
カッチンがじっと見続けていると、メーラはまさに花が開くように笑顔を浮かべた。
「ふつつか者ですが、是非お願いします。あなたの側が、どうやら私の探し求めていた居場所です」
カッチンは結婚する事になった。




