155話 小説3巻発売記念SS ドリュアスの森
後書きにお知らせがあります。
よろしくお願いします。
そのドリュアスは森の王だった。
人と契約するドリュアスは、普通は葉っぱの姿をしている。
だがそのドリュアスはどんぐりの形をしていた。
木の精霊であるドリュアスは、仲間同士で群れることはなく、お気に入りの木を見つけて暮らしている。
ドリュアスが住んでいるのは魔法学園の中にある森で、近くには女神像の建つ泉がある。
その中でも特に古い木には魔素が満ち溢れており、ドリュアスは気に入っている。
洞の中で長い年月を過ごすうち、いつのまにかドリュアスの姿は葉っぱからどんぐりに変化していた。
そうして、ドリュアスは森となり、森はドリュアスとなった。
ドリュアスは木の洞でまどろみながら、森の中の様子をすべて把握できるようになっていた。
そうすると森で暮らすものすべてが愛おしくなった。
森で暮らすものは、すべてドリュアスのものだ。木々や花や精霊だけではなく、そこに棲む魔物すらも森と一体化したドリュアスにとっては、自分の子供にも等しい。
代わり映えのない、穏やかな日々。
だがそんな日々をこそ、ドリュアスは愛していた。
そんなある日、ドリュアスは森の端からとんでもない魔力の塊が近づいてくるのを感じた。
ドリュアスの住む大木は、森中に大きく根を張っている。
ただ存在するだけで、多くの魔素をあふれさせる、なにか。
それが一歩を踏み出すたびに、地に触れた場所へと魔力が滲み落ち、張り巡らされた根に触れた。
長い月日を生きてきたドリュアスは、初めて恐怖に震えた。
しかもそれは、精霊の生まれる泉へと向かっている。
まだ新たな精霊が生れ落ちるほど魔素が満ちてはいないが、もし……。
ドリュアスは細い目をカッと見開くと、慌てて泉へと向かう。
新たな精霊が生まれるためには、十分な魔素が大気に満ちなければならない。本来はまだその時ではなかったが、魔力の塊から零れ落ちる魔力が、精霊の誕生を促してしまったのだろう。
だが生まれたばかりの精霊たちにとって、ここまで濃厚な魔力は毒だ。
身の内に取りこみきれず、崩壊してしまうに違いない。
自分が少しでも魔力を取りこめば、精霊たちのうちのいくつかは、生き残るのではないだろうか。
そう思い急ぐドリュアスに、暴力的なほどの魔力が降り注ぐ。
長く生きたドリュアスでさえ消滅させられそうなほどの威力でありながら、優しく包みこむような魔力。
それは、ドリュアスが初めて触れる光魔法だった。
「お……おぉ……」
目もくらむような閃光。
そしてそれが収まった後……。
ドリュアスが初めて恐怖した魔力の塊は、どこにも存在しなくなってしまった。
それからというもの、ドリュアスはもう一度あの魔力に触れたいと、森の中をさまようようになった。
それに呼応するようにトレントの数が少し増えたが、気にするほどでもない。
ドリュアスは森のすみずみまで行って探したが、見つからない。
あの魔力の爆発で消えてしまったのだろうか。
それとも気のせいだったのだろうか。
そう思った矢先、森がざわめいた。
ドリュアスが急いで向かうと、エルダートレントが戦っていた。
しかも進化してイビルトレントになっている。
驚くべきことに、戦っているのは人だった。まだ小さく成体ではない。
しかもなんということか。
イビルトレントに勝ったのだ。
ドリュアスは生まれて初めて人と契約したいと思った。
だがその人はもう、風の王と契約していた。そればかりか、次代の火の王までをも従えている。
さらには原始の土の精霊すら眷属としている。
もしや、あの人はすべての属性の精霊を従えようとしているのだろうか。
ならば木の精霊である自分にも、そばに侍る資格が——。
「どうしてドリュアスがここに!?」
驚く人に、ドリュアス……いや、どんぐりは訴える。
「な……なかまにしてくだちゃい!」
ドリュアスは細い目をできる限り見開きながら、コロコロとレナリアの前へ転がった。
『前世聖女は手を抜きたい よきよき』3巻
5月14日(金)に発売です!
活動報告にタイトルロゴなしの表紙をUPしておりますので、ぜひご覧ください!
ラシェの鞍の模様の柄が見れます(*´꒳`*)