146話 競技中の事故
ラヴィの色ですが、今話からモデルのうさちゃんの色に変更いたします。
グレ→セーブルになります。
どうぞよろしくお願いいたします。
「きゃああああ!」
会場内にいくつもの悲鳴が響く。
突然の事故に、会場内が混乱に陥った。
国王夫妻は蒼白な顔で立ち上がり、うろたえている。
その横にいる王太后のほうがしっかりとしており、すぐ側近たちに指示を出した。
シェリダン侯爵夫妻も立ち上がってすぐにレナリアの元へ行こうとしたが、係のものに止められていた。
一方、個人競技のために競技場で待機していたアーサーとセシルの兄レオナルドは、教師の静止を振り切って二人の元へと向う。
競技中は短く感じる距離が、とてつもなく長かった。
「レナリア、レナリア、大丈夫?」
地面に落ちたレナリアは、セシルに抱きかかえられていて顔が見えない。
ピクリとも動かない二人に、フィルはどうしていいか分からなくなる。
「レナリア、大丈夫? レナリア!」
必死に呼びかけていると、レナリアのポケットから、チャムとラヴィが飛び出てくる。
「チャム、びっくりしたー」
目を白黒させているチャムは、すぐに倒れ伏しているレナリアの顔の横に行って、頬を叩く。
「レナリア、起きてー」
フィルが風のクッションを使ったおかげで、それほどひどい怪我をしているようには見えない。
それに怪我をしていたとしても、レナリアなら意識があればすぐに回復できる程度だ。
フィルは慌てて駆け寄ってくる学園つきの司祭を見た。
だが学園付属の教会に赴任している司祭なので、大した魔力を持っていない。
これではかすり傷くらいしか治せないだろう。
それに多分、レナリアをかばって下敷きになっているセシルのほうが重傷だ。
紫がかったウンディーネが、おろおろとした様子でセシルの周りを回っている。
「レナリアー!」
チャムの必死の呼びかけにも、レナリアは応えない。
そのチャムの横に、セーブルの小さなうさぎがやってきた。ラヴィだ。
ラヴィは後ろ足で立ち上がると、鼻をひくひくさせながら小さな手をレナリアの頬に当てる。
「きゅっ」
そしてその頬にキスをした。
ラヴィからレナリアへ魔力が送られる。
その流れを見たフィルは、慌てて自分もレナリアに魔力を送った。
「ほら、チャムも魔力をレナリアに渡して!」
「ええー。どうやるのぉ」
フィルに促されて、分からないながらもチャムもレナリアに魔力を送る。
「う……」
やがて、閉じていたレナリアのけぶるような金色のまつ毛の下から、タンザナイトの輝きが現れる。
「レナリア、良かった!」
フィルが歓喜して羽を虹色に輝かせる。
チャムも興奮して体を真っ赤に燃え上がらせた。
「なに……が……。セシルさま!?」
柔らかいものに包まれているのに気がついたレナリアが、慌てて身を離す。
その拍子に頭がグラグラした。
「そんなにすぐ動いちゃダメだよ、レナリア」
心配するフィルに、レナリアは額に手を当てて聞いた。
「なにがあったの……?」
「分からない、急にラシェがつまづいて……」
ラシェは、幸いなことに怪我はしていない様子だった。
ただレナリアを落としてしまったことが分かっているのか、すぐそばで、しょんぼりとうなだれている。
「ラシェ、私は大丈夫よ」
念のため、レナリアはこっそり自分に回復魔力をかける。
これくらいならば、誰にも気づかれないだろう。
それよりもセシルの容体が心配だ。
レナリアがセシルに触れた時、ちょうどアーサーとレオナルドがやってきた。その後ろにはマーカス先生もいる。
「レナリア、大丈夫か!」
「セシル、セシル!」
駆けつけたレオナルドは、地面に膝をついてセシルの体を揺さぶろうとする。
その手をマーカス先生が止めた。
「待て。頭を打っているかもしれないから、急に動かすのは危険だ」
「くっ……。レナリア、セシルを治せるか?」
レナリアにはシャインが従っていると思っているレオナルドは、小さな声でレナリアに話しかける。
その声はマーカスにも聞こえたが、あえて口を挟まなかった。
「……霧の聖女の力に頼っても良いでしょうか?」
セシルに触れたレナリアには、一見怪我がないように見えるセシルの状態がよくないのが分かった。
前世で何度か見た症状だ。
おそらく頭の中で出血をしているだろうから、早く治療をしないと命にかかわる。
「もちろんだ。むしろ、頼む。セシルを救ってくれ」
レナリアは頷くと、レオナルドに水魔法を、そしてアーサーには火魔法を頼んだ。
(フィルとチャムも協力して!)
「もちろん!」
「りょーかーい」
そして霧が、発生した。