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前世聖女は手を抜きたい よきよき  作者: 彩戸ゆめ
エレメンティアード
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145話 ラシェの活躍

 手のひらに載るほどの小さなウサギが大きな目をうるうるさせながらレナリアを見ている。


「ラヴィ!?」


 驚くレナリアとは逆に、フィルとチャムは嬉しそうにラヴィに近寄ってくる。


「あれ、起きたの?」

「ラヴィ、おはよー」

「きゅ」


 もうすぐスタートするというのに、精霊たちはのんびりとあいさつを交わしていた。


「レナリア・シェリダン、位置につくように」


 スタートの合図をするマーカス先生が、動かないレナリアに注意をする。


「申し訳ありません」


 慌ててスタートラインまで行くが、レナリアはラヴィをどうすればいいのかと混乱中だ。


 風の精霊であるフィルが風圧を抑えてくれるとはいえ、小さなウサギのラヴィが競技中に飛ばされてしまうかもしれない。


 言葉が通じれば注意することもできるが、原初の精霊であるラヴィとはそこまで意思疎通ができるかどうか分からない。


「危ないかもしれないから、ここで大人しくしててね」


 仕方なく、ラヴィとチャムをそれぞれ左右のポケットに入れる。


 チャムも入れる必要はないのかもしれないが、競技中に何かあったら大変だから、ラヴィと同じようにポケットの中にいてくれたほうが安心だ。


 チャムもラヴィも、ポケットの中でもぞもぞと体を動かし、ちょこんと顔だけ外に出した。


「フィルはお手伝いをお願いね」

「もちろんだよ!」


 レナリアだけでも魔法を放つことができるが、そうするとまた競技場を破壊しかねない。


 リッグルに乗りながら瞬時に魔法を放つというのはレナリアにとってはとても大変で、細かい力の調整ができない。


 だからフィルに調整を手伝ってもらって、なんとか得点できるようになったのだ。


「準備はよろしいか? ではカウントを始める。5、4、3、2、1、スタート」


 マーカス先生の合図でレナリアたちは一斉にスタートをした。


 やはりセシルが一番リッグルの扱いが上手で、素晴らしいスタートを切る。

 その次にマグダレーナが続き、レナリアは最後尾だ。


「レナリア、がんばれー!」


 チャムの声援を受けて、レナリアは最初の的へ向かう。


 すぐ右手にある的は、コースに近い場所にあり、得点しやすい的になっている。


「風よ!」


 レナリアは魔法杖を振って風魔法を放つ。


 すると以前よりもしっかりとした風が的の中央に当たる。

 練習の成果だ。


 レナリアはすぐに左側にある次の的へ目を向ける。

 これもコースに近い場所にあるから魔法を当てやすい。


「えいっ」


 掛け声とともに魔法を放つと、これも的の中心に当たった。


「いい感じ。次いくよ!」

「分かった」


 フィルもご機嫌でレナリアのサポートをする。


 レナリアの魔法が大きすぎるならば、その余分な魔法をフィルが受け取ればいいのだ。

 おかげで上質なレナリアの魔力を存分に浴びることができて、大満足だ。


 ついでにフィルの子分であるチャムとラヴィにもおすそ分けしてあげている。

 チャムは嬉しそうにしっぽをパタパタ揺らしているし、ラヴィも耳をぴこぴこさせている。


「追い越すわ。フィルしっかりつかまって」


 次の的まで少し距離がある。


 レナリアはラシェに指示をしてスピードを上げた。


 白いリッグルは普通のリッグルよりも足が速い。


 一気に加速したラシェは、マグダレーナが追いこされるのに気が付く前に、鮮やかに抜き去っていた。


「レナリアさんがマグダレーナさんを抜き去りました。やはり白いリッグルの足の速さには定評がありますね。その前を走るセシルくんにも追いつきそうです。セシルくんは安定した走りで着実に点数を稼いでいて、ランスくんの得点を追い越しそうな勢いです」


 金の髪をなびかせながら白いリッグルを操るレナリアの姿は、まるで絵画のように美しかった。


 画家たちがよく描くモチーフに、神話の時代に女神が白い鳥に乗って天から降臨した姿があるのだが、もしこの場に画家の一人でもいれば、まさに伝説の女神そのものだと感動して絵筆を握ったことだろう。


「レナリア、右!」

「えいっ」


「次は左!」


 フィルの掛け声に合わせて、レナリアは次々と得点していく。


 そして最後の直線を走る時には、セシルの背を目前にとらえていた。


「ラシェ、行って!」

「キュルゥ!」


 手綱をしっかりと握ったレナリアは、ラシェの加速に耐える。

 グンと圧がかかって、ラシェがスピードを上げる。


 そしてついにセシルと並んだ。


 ラシェはそのままゴールに向かう。


 そして頭一つ追い越した時。


 ラシェががくんと足をもつれさせた。


 フィルが悲鳴のような声を上げる。


「レナリア!」


 ラシェはそのまま、前に倒れそうになった。


 その拍子に投げ出されそうになるレナリアだったが、横から手が延ばされる。

 セシルだ。


「レナリア、つかまって!」


 その手をつかんだレナリアだが、勢い余って二人ともセシルのリッグルから落ちてしまう。

 セシルはレナリアをかばうように、抱きかかえた。


「風のクッション!」


 フィルが慌てて、落ちる二人の衝撃を和らげる。

 だが完全にその威力を消したとはいえない。


 激しい衝撃が、レナリアを襲った。






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