とある執行人の憂鬱。
【悪役令嬢だった私はスライムに生まれ変わりました】
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その話が俺の所に持って来られた時に、俺は愕然とした。
他の奴等は全員が、今回の仕事を行う事を渋ったらしい。
そして、俺が最後の1人だとも……
俺にその事を伝えに来た俺の上司の顔も苦渋の表情を見せている。こんな事、やらずに済むのなら。こんな命令を部下に強いるのは……そんな葛藤と苦悩を浮かべる表情が全て物語っている。
誰かがやらねばならない。それならば、いっそ俺の手で。
俺は上司の正面に立ち、暫し自分の心の中で葛藤を繰り返した後、上司に一言だけ告げた。
「分かりました、俺の手で……」
その日の勤務終わりは、何時何処をどう帰って来たのかも思い出せないぐらいに、その事に考えを没頭させていた。
何時ものウマイ料理屋の夕食ですら、無味無臭に感じられた。
その日からずっと思い悩む日々が続く。俺は国に忠誠を誓った兵士だ。国が命じた事ならば確実に実行する覚悟は出来ていた。出来ていたつもりだった。
自分の仕事にも身が入らず、何でもない事ですらミスをしてしまう。
俺は、こんなにも追い詰められる程に、彼女の事が好きだったんだな……
悩み苦しむ俺は、どんどんと憔悴して行った。痩せ細り力も衰えて来ていた俺の姿を見るのが耐えられ無くなったのか、ある日の仕事終わりに、上司が俺に声を掛けて飲みに連れていってくれた。
普段なら行う【乾杯】等は、行える心境では無い。俺はテーブルの上に置かれた酒の入った、ゴブレットを掴み静かに酒を、チビりと飲んだ。
『お前、大丈夫か? 誰かに変わって貰うか?』
上司のその言葉に俺は、一瞬激昂しそうになった。握り絞めていたゴブレットにヒビが入るぐらい力を込めて握る。
「誰もやる奴が居ないって言ってたじゃないですか! だから俺は! 俺は!」
荒い息を吐き、俺にこんな仕事を命じた上司の顔を睨む。
『なぁ、聞いてくれ俺だって嫌なんだよ、だけどな国からの命令なんだ、誰もがやらなきゃいけない、そんな役目をお前に押し付けた俺が言う事じゃ無いとは思うが……お前は今のままでいいのか? そんな痩せこけた細い腕のままで、あの重い斧を振れるのか? そんな細い腕のままじゃ彼女に余計な苦しみを与えるだけじゃ無いのか?』
俺は上司のその言葉に衝撃を受けた。確かにそうだ。そして、俺や仲間達の間で、口伝だけで伝わる秘密の教えを思い出した。
【我々の前に立った時点で、立った者の犯した罪は赦される、後は出来うる限りの苦痛と恐怖を相手に与えないように、速やかに確実に楽にしてやるんだ】
と言う教えを。
そうだ! もう決定している事だ、覆す事は不可能だろう。それならば、俺に何が出来る? 彼女に余計な苦痛や恐怖を与える事無く彼女すら気付かぬ内に、その命の火を消してやる事だけだ。
それからの俺は、失った筋肉を取り戻すかのように、以前にも増して沢山の食事を摂る。
そして、以前にも増して技量を高める為に、一心不乱に時間を惜しんで斧を振り下ろし続けた。
やがて、その日がやって来た……
断頭台の上に立つ彼女。何時もの俺が知っている彼女と同じように毅然とした態度をしている。
内心は恐怖で今にも心が張り裂けそうなはずなのに……
俺はそんな彼女の姿を見ると、目が熱くなってくる。
そして彼女は、仲間達の手により、膝を付かされ体を前に倒される。その首の根本に鋼鉄の枷が付けられた。
左右から動かぬようにと体を押さえつけられた彼女の側に俺は立つ。ふと視線を下げると、彼女の白く美しい、うなじが目に入った。そこに俺はこれから、手に持つ斧の刃を振り下ろす。
俺の上司が彼女に向けて最後の言葉を投げ掛けた。彼も彼女にこんな言葉を言うのは辛いはずだ……
『王家に仇なした大罪人よ、最後に言い残す事はないか?』
上司の言葉に彼女は、沈黙を持ち答える。
そして……上司から俺に合図が出た。
ゆっくりとゆっくりと俺は斧を振り上げる。上司の手が下に下ろされた時を合図にこの重たい斧の刃を彼女の首に……
そして……上司の手が下に振り下ろされる。
それは俺には、ひどくゆっくりと感じられた。
すまん! 赦してくれとは言わないが、苦痛無く終わらせてやるからな!
俺は斧を振り下ろした……
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