5話:肝試し3
友達になった紅葉もみじちゃんの思い人、葉隠はがくれくんとの仲を進展させるために肝試しを敢行することになったのだが、、、
少し時間を遡って
ユウキ達の組が夜の薄暗い学校に入っていた。
明かりはスマホの懐中電灯のアプリで照らしているので真っ暗という訳では無い。
「えっと最初は東館2階の音楽室に向かうんだよね」
「そうですよユウキ先輩、進む方向を間違えたら終わらないですよ」
ニコニコとユウキのすぐ横を歩く少年の輪郭がぼやけている、暗いからかな
「なんか全然怖そうじゃないね」
「いえいえ敬愛するユウキ先輩とこうして肝試しが出来て感激で震えてますよ」
「君面白いねー」
誰だ、こいつは全く面識が無い
「ユウキ先輩そんな君なんて他人行儀な言い方は辞めてください」
真っ正面に立ってさっきから妙な言い回しがウザかったけど
深々とお辞儀をするような舞台俳優のに振る舞って
「トモキと呼んでくださいよ、陸上部の後輩ですよ
親しみを込めてトッキーと呼んでくれても構いませんよ」
「・・・」
「どうしたんですかユウキ先輩気分が悪いんですか?
胸でもさすりましょうか」
手をワナワナさせながらトモキことトッキー君が近づいてくる。
「辞めろ」
この後輩は全くどうしていつもこうなんだ。
そうこうしているうちにユウキ達は音楽室に付いてしまった。
本来ならここまでの道中にお化け役の子が驚かすはずなんだが、
1本道の廊下でお化け役の子とすれ違うことなく
音楽室まで来たのだが扉が開かない、音楽室の扉は1つなので
必ずここから入るしかないはずなのだが、開かない
「トモキ君提案なんだが」
「なんだいワトソン君」
「もう帰らないかい」
とりあえずもうこのなんだか得体の知れない?ん?
毎日部活で会っている後輩が得体が知れない?
よくわからないけどこの子となぜか一緒には居たくない。
「ユウキ先輩ちょっと良いですか?」
トモキ君がドアの前に立つと自動的にドアが開いた
うちの学校いつからそんなハイテクになったんだろう
エアコンすら設置されていないのに・・・・
音楽室の扉をくぐり抜けるとそこは
あの公園の出入り口に立っていた。
忘れたくても忘れられないあの公園の入り口にユウキが
なぜか一人で呆然と立ち尽くしていた。
あの日の様に寒い吐く吐息すら白い、夏なのに
どこからか声が聞こえてくる
「やっぱり夜は冷えるねトモエ姉さん」
「そうね」
自分の声はすぐには気付かなかったがこの声はすぐにわかった。
声のする方向を向いても深い霧が出ていて声しか聞こえない。
走って近づきたいけど体が思うように動かない。
ユウキは悔しさから唇から血が出るほど唇を噛み締めていた。
「はい、あげる」
姉さんの声が聞こえる近くに居るかも知れないのに
なにも出来ない。悔しい悔しい。
「この渡し方は駄目、絶対」
でもなんで私の声が聞こえるんだろう?
疑問に感じた瞬間にあたりは一瞬白い靄に覆われたと思ったら
私は音楽室で棒立ちしていた。
「ユウキ先輩どうしたんですか立ったままねちゃったんですか」
「おいその手はなんだトモキ君」
「え、やだなぁ先輩の事が心配だから胸をもんでたんじゃないですか」
とりあえず引っ張ったいとく顔面を往復ビンタだ。
「そんな事をして君は女子からいじめられるぞ」
「やさしいですねユウキ先輩は心配してくれてる」
「大丈夫大丈夫相手は選んでますから」
姉さんみたいな口調で言うな調子が狂うなあ
私は出入り口を塞ぐ様にしてこいつと向かい合う
一度疑問に思ったら今までの全てに疑問符が付いてしまった。
「おまえは誰だ」
まっすぐにトモキと名乗る得体の知れない人物に問いかける。
「やだなあユウキ先輩どうしたんですか?そんな怖い顔したら
かわいい顔が・・・台無しにならない所も素敵ですね」
「おまえは誰なんだ」
再度ユウキは問いかける。
「あれこれ無限ループ入っちゃいました」
ユウキは無言で肯定する
「いやいや凄いですね、さすがと言っておいた方が良いのかな」
ぐにゃあと目の前のトモキと名乗っていた少年の体が急に曖昧にぼやけだした。
「ご明察の通りに私は普通の人間ではないですよ」
少年の体はみるみる影と混ざりあってどんどん輪郭がぼやけていく
まるで水で一杯にしたバケツに一滴絵の具を垂らして周囲に滲んで行くように
だが、濃厚なその雰囲気は見えなくても間違いなくそこに居るのは
感じ取る事が出来てしまう。むしろ目で見るより遙かに
そこに存在していると雄弁に物語っていた。
「悪魔なんて呼ぶ人も居るんですよ酷いですよね」
ケラケラと笑うが声は四方から聞こえてくる。
「で、その悪魔さんが私になんの用なの
まさか中学生の胸を揉みに来たの?」
心底馬鹿にしたようにユウキは問いかける。
「いやいやまさか、あなたを見込んで頼みたい事があるんですよ」
「そうじゃあ取引しましょう」
「取引?」
「あなたの頼み事を聞くから私の頼み事も聞きなさい」
「ちなみにあなたの頼み事ってなんですか?」
ケラケラ笑いながらこの悪魔は聞いてきた
そんなのは決まっている。
「姉さんを連れ戻す」




