4話:肝試し2
友達になった紅葉ちゃんの思い人、葉隠くんとの仲を進展させるために肝試しを敢行することになった。
「ええこの度は我が陸上部主催の肝試しに集まって頂きありがとうございます」
司会進行役をよどみなく行う一松こと一休はなんと、私たちも含めて男女10名を
集めてしまっていた。規模でかすぎでしょうが他の学年の子も居るし
「今回の肝試しでは学校に入る直前に2人1組をくじ引きで作ってもらいます。
2人組で事前に決められたルートを通ってもらいます、
ルートは3カ所の教室を通って部屋の中のスタンプを
手持ちの紙に押してもらいますよ最初は音楽室です、
次のスタンプの場所は音楽室のスタンプ台の上に明記してありますからね」
「一休どうやって学校の使用許可を取ったんだ」
「秘密です」
一休はユウキが自身の姉が神隠しにあったのに、友達のためとは言え廃ビルに行くのは
嫌だろうから学校に舞台を移したのであった。
ユウキが人数集めすぎと言っていたが、実際はもっと人数が集まった。
すでに抽選会をくぐり抜けたものが10名なのだが、
ユウキ、紅葉、そして葉隠のファンは多いのである。
ここ居ない炙れたものにはお化け役としてスタンバイしてある。
廃ビルで肝試しをやると転んで怪我をするので、
やっぱり学校の方が良いだろうと一休は考えた上での選択である。
一応盛り上がる様に入る直前に2人1組を作るようにしたのが、
ユウキ達が早々に2人1組で肝試しをしてしまうと
集まった人たちのモチベーションを下げてしまうのを考慮しての事である。
まあ手のひらなのは変わらないけどね
順調に順番が進んでいく中でとうとう残り3組まで来てしまったので、
一休は本当に悩みに悩んだのだが、葉隠と紅葉を引き当てさせた。
一応葉隠にはユウキと一緒になれるかは運次第だぞと念押しをしておいたけど
そんなに睨まないでくれよ、その子お前の事好きなんだから
この鈍感主人公はおとなしく紅葉ちゃんとくっつけよ可愛いんだから紅葉ちゃんは
ユウキすっげー嬉しそうな顔でこっち見るなよばれるだろうが
次の組はユウキと陸上部の後輩だった、司会進行役のため俺は
自動的に最後に行く旨はみんなに伝えてあるからな、
えっと最後に残った子はふんわりした雰囲気で
胸やお尻が慎ましいリスの様に可愛い
同じ陸上部の後輩のえっと確か若葉ちゃんだった。
肝試し最後のグループの一休達が行く頃にはほとんどの
参加組の学生はすでに近くのカラオケで2次会をするものと
ファミレスで反省会をするものに分かれて学校には居なくなっていた。
お化け役の子も一休が行く頃にはもうほとんど撤収状態だった。
「あれ一休さん10組って聞いてたんですけど、11組だったんですか?」
と見苦しい言い訳を聞かされたが、11組?長丁場で数え間違えたか、
それとも俺を驚かそうとしているのかな。
隣で後輩はくすくす笑いながらこの茶番に付き合ってくれた、
凄く良い子だな。ルートもお化けの配置もしっているので
元々そこまで怖くないのだが、可愛い後輩の若葉ちゃんと
はぐれない様にと手を繋ごうとするよりも
前に若葉ちゃんは俺の裾を握ってきた。
その仕草に夜の学校とは別の意味で凄くドキドキした。
東館2階の音楽室から西館1階の物理室、
東館3階の視聴覚室とできるだけ距離を
稼ぐルートを選んだつもりだったが、
残念な事にあっという間に最後の視聴覚室にたどり付いてしまった。
本来ならここにはお化け役の子が2人いるはずなのだが、
先ほど廊下ですれ違ってしまい。無人になってしまったのだが、
誰も居ないというのもそれはそれはで恐怖心を煽るものらしい。
だけど一番びっくりしたのはこの後だった。
「一休先輩すいませんね」
「ん?どうしたの急に」
「本当はユウキ先輩と廻りたかったんですよね」
「くじ運だからねこればかりは、しょうがないよ」
若葉は苦虫をかみつぶしたような顔を一瞬したのは気のせいかな
「ここは嘘でもそんな事無いよって言うべきですよ」
「そうだな、リテイクしても良いですか監督」
「人生にリテイクは無いですよ一休先輩」
「それは手厳しい」
「それに私は初めっから先輩と廻りたかったんですよ」
言いながら恥ずかしくなったのかくるっと後ろを向きながら言った若葉の
仕草は本当に可愛らしかった。
「えっとごめん、もう1回言ってくれないかな」
後ろを向きながら若葉は小さな声で答えた
「リテイクは無いんですよ」
正直かわいい部活の後輩からの告白をこのシチュエーションでぶち込むのは
本気で卑怯過ぎるだろ、誰だよこんなの考えたの悪魔かよ、おれだよ
いや小悪魔が目の前に居るんだけどね。
「ごめん、ちょっと考えさせてくれないかな」
若葉ちゃんの顔はよく見えないがそれを聞いて小さく頷いた。
帰りは顔をまともに合わせられないのか俯きながら若葉ちゃんは
俺の袖を強く握って付いてきた。
俺はわざとゆっくりと歩きながら出口に向かった。
その間ほとんど何をしゃべったか覚えていない、
そもそもしゃべったのかも不明だが
「先輩わたしはもう帰りますね」
若葉は一言そう言って帰ってしまった。
当然送っていこうかと言ったらおぼけ役だった友達と
一緒に帰りますから大丈夫ですよとぎこちない笑顔で断られた。
周囲を見渡すとほぼお開きみたいな状態でお化け役の子達が
自分の持ち回りを片付け終わった生徒から解散しているようだった。
今回の肝試しのメインの二人も居なかった、、、
陰が薄くて見落としてるとかじゃないからね
今頃二人で上手くやっているといいけど
一応自分が企画した事なのだがユウキも当事者なので、
最後の見回りに付き合わそうと探すと
ベンチに一人でぐったりしているユウキを見かけたので声を掛けた。
「お客さん終電ですよ、早く降りて最終チェックしに行きますよ」
「大丈夫、大丈夫だから」
「酔っ払いかお前は」
「私は大丈夫大丈夫だから」
「だから酔っ払いかよ、もういいよそれは」
一休はユウキの肩を掴んで立つように促す、ゆっくりと力なく立つユウキを
音楽室の鍵とごみ袋を渡して
「とりあえず疲れてるみたいだけど、ゴミとか落ちてないか確認して
音楽室の扉の鍵をしっかり閉めたら職員室前に集合な」
了解と軽く手を振ってユウキはまるでゾンビの様に音楽室に向かって行った。
「どうしたんだあいつ」
一休は無論、ユウキの異常にはすぐに気付いていたのだが、
一休は自分自身の異常な状態に気付いていなかった。
本来であればあんな状態のユウキを一休は一人になどさせないし、
本当はユウキと一緒に廻る予定だったのに一人で行かせた事に
そんな本来なら違和感だらけの自身の行動に少しの違和感も感じていなかった。




