29話:犠牲
姉さんに向かって黒い甲冑を着込んだ騎士が突っ込んでくる、大きな甲冑だ身丈2m近くあるかもしれない騎士は両手の大きな槍の矛を突っ込むそのままの勢いで姉さんに突き立てようとしている。
ユウキは抱きかかえていた姉さんをそのまま騎士との間になるように強く抱きしめる。
正直、騎士の槍の前では姉さんを守れないだろう、1~2秒後には自分は姉さんと一緒に車に惹かれたたトマトみたいになってしまうのだろう・・・
騎士は私の背中超しに紅葉姉さんだけを貫いたのだ、どうしてそんな事が出来るのか皆目見当も付かないが、紅葉姉さんの体はビクンと震えたと思ったら、黒い液体のようにドロドロと私の腕の中で溶けていく。
私はドロドロに溶けていく姉さんの体を必死に集めようとするのだが、集めようにも黒い液体は影の様に触る事が出来ない。必死に溶けていく姉さんの体を集めようとするのだが触る事すら出来ない。
「姉さん、姉さん、姉さん」
叫ぼうとしても、声が掠れて言葉が口から出てこない。
そして姉さんの体が全て黒い染みの様に地面に広がっていく、気付くと騎士の姿も消えていた。
公園が黒い霧に包まれて行く、やがて霧が姉さんが居た場所に収束していくと一人の少女の形に変わっていく、誰だかは解らないが知らない少女になった影がユウキに話し掛ける。
「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」
「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」
「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」
ユウキには、なにを言っているのか解らない顔も黒塗りをして有るようで誰だか判別が付かない。
得体の知れない者がユウキに近づいたと思ったらそのままユウキに抱きついて来た。
「近づくな化物」
ユウキは明確に拒絶をしてその小柄な少女を突き飛ばした。
化物と言われた少女は力なくその場に尻もちをついて立ち上がろうともしない。
「私の姉さんを姉さんを返せ、この化物」
ユウキがその少女に飛び掛かろうとした所を若葉が遮り、ユウキ先輩を宥める様に言う。
「ユウキ先輩なにやってるんですが、彼女こそユウキ先輩が求めていた●●●さんなんですよ」
ユウキの耳にはその人名が入って来ない。
「なにを言ってるの若葉ちゃん、あれは私の大切な姉を殺したのよ」
「そんなモノを私が求めている?」
「若葉ちゃんが言ってる事がわからない」
ユウキは頭を掻きむしりながら、自分が怒っているのか、悲しんでいるのか自分自身ですら解らない感情に支配されていく。
「ユウキ先輩・・・」
「くぅぅぅぅぅうううううううううううう」
声にならない声で泣き崩れるユウキはそのまま糸が切れた人形の様に倒れてしまった。
若葉が家まで送ろうとした所でユウキが起き上がった。
「若葉ちゃん、良いところであったわね、姉さんの体が液体になってしまったの」
「なにか容器に集めるのを手伝ってくれないかしら」
先程までの取り乱した様子が嘘の様に落ち着き払った様子でお醤油取って位の気安さで、
若葉に対して話し掛けたユウキ先輩の瞳は魂が抜け落ちている様だった。
「ここよ、この黒い染みみたいなっている地面なんだけどね」
「上手く触る事が出来ないの地面ごと持って帰ろうにも掘った地面には黒い染みが無いのよ」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ねえ、これどうしたらいいと思う」
「ユウキ先輩」
若葉はどうしていいか解らずにユウキ先輩を抱きしめるのだが、腕の中でユウキはブツブツと
同じ言葉を呟くだけなのであった。
「どうして、本当にどうしてこうなってしまったの」
「みんなユウキ先輩に元気になってもらいたかっただけなのに」
若葉は自分の中の少年に必死に問いかけるが、先程から少年は返答が無い。
まるで、若葉の中から綺麗さっぱり消えてしまった様だった。
二人の少女を見つめながら、力なくその場に影の少女が座り込んでしまった。




