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28話:悪魔のささやき

 《逃げてどうする》


 《だってとか言い訳はどうでも良いんだよ》


 《君はまた逃げるのかい》


 《逃げてもなにも始まらないよ》


 《君の大好きな先輩をあんな化物に取られて良いのかい?》


 気付けば若葉は無我夢中で走っていたはずが、ユウキ先輩達の前に周り込んでいた。

自分でも酷い顔をしていたと思う。鼻水や涙でくしゃくしゃになっていたに違いない。

とてもユウキ先輩に見せれる様な顔じゃなかったと思うけど。


 「ユウキ先輩」

 ユウキ先輩と手を繋いでいる化物の手を掴むと無理矢理に手を引き剥がす。

 「目を覚まして下さい」


 「あなたのお姉さんは」

 ユウキが突然、電源が切れたようにその場で倒れ込みそうになる。

 若葉の体はユウキから引き離されるように宙を舞った。


 《ここは、あの公園か・・・》


 ボールの様に公園に投げ込まれた若葉は、猫のように地面に華麗に着地をする。


 「紅葉先輩、()()()()()()()()()()


 「ここで決着を付けましょう」

 「そうね、お互い譲れないからね、そうなるよね」


 正直私ではこいつに

 《やる前から弱気になったら勝てるモノも勝てないぜ》

 そうね、やるだけやってやる。


 若葉はユウキ先輩を見る。

 紅葉の影によりベンチに運ばれてスヤスヤと眠っている。


 若葉の影がユラユラと立ち上がり大柄な》騎士(ナイト)に変わっていく。

先程の戦いでは1本だった槍が二本になっている。厳密には両手が槍の矛に変わっている。


 紅葉の周りに人型の影が複数体出現するまるで影の人形だ。


 (大きい、この前戦ったのより明らかに大きいし)

 人型を模しているだけで異様に手が長く足が短い、大きさは騎士(ナイト)と同じくらいか、それよりも大きいぐらいだ、ユラユラ手を揺らしている人形。


 目の前の影が、大きく手を横凪にした。いくら手が長くても届く距離では無かったが、そいつの手が伸びたのだ、だけど遅い余裕で回避

 若葉は後ろに飛び退くと、いつの間にか出現した人形が両手で挟み込む様に襲いかかる。

 「舐めるなー」


 若葉は人形に噛みついた、比喩では無くて実際に歯で噛みついてそのまま飲み込む、迫っていた両手は騎士(ナイト)が槍で粉砕する。


 人形の数は多いが動きは至ってシンプルだった。複数体出して居るからなのかは解らないが

 一撃必殺の横凪と振り下ろしによる攻撃を騎士(ナイト)が裁き、破壊して若葉が食べる。


 あっという間に最初に出現した影人形たちは若葉の腹の中に収まってしまった。


 「げろ、まずだよ。もっと上手いモノ作れないとユウキ先輩のお姉さんには程遠いよ」

  ゲップをしながら唾を吐き捨てる若葉を紅葉は観察していた。


 また数体の影人形を作成して若葉に襲いかからせる。


 (あの騎士(ナイト)と若葉の死角から攻撃しても見事に対処している)

 (1体を犠牲にして動きを止めようとしても吸収ではなく予知したようにすり抜ける)

 (むしろ、盾にして利用している、盾の人形の腕も破壊している)

 (まるで演舞の様に示し合わせた様に最適な行動を取り続けている)

 (さらに10体追加したが、倒すスピードがどんどん上がっている)

 (先程の戦いとはまるで別次元の強さだけど・・・)


 影人形が紅葉の影に戻っていく、それと歩調を合わせるように若葉は距離を詰める。

 若葉より早くに騎士(ナイト)の一撃が紅葉に届くかと思われたが、黒い影に阻まれた。


 一拍おいて若葉がその黒い霧を噛みちぎり吸収する。


 「なっ?!」

 紅葉は驚愕な表情を浮かべる


 紅葉の作戦は圧倒的なエネルギー差を利用して、先読みなんかモノともしないパワーとスピードの影人形を作る為には数秒でいいから時間が必要だ。その間はこいつらでは破壊出来ない硬度の壁で時間を稼ぐ為に自身のリソースを割いていた影人形の操作を放棄して、全て壁に回したとゆうのに


 紅葉に向けて騎士(ナイト)の一撃が襲いかかる


 紅葉が辛うじて体を貫かんとする一撃を止めたが、木の葉の様に吹き飛んだ。

 無論着地するよりも早くに騎士(ナイト)が一撃を入れて終わりのはずだ。


 「やめてー、お姉ちゃんを殺さないで」


 最悪のタイミングでユウキ先輩が起きてしまった。

ユウキ先輩は木の葉の様に舞って落ちてくる紅葉先輩をお互いに怪我をしないように見事に受け止めた。

具体的には頭が激突するのを体全体を使って勢いを殺しながら受け止めたのだ。


 「紅葉姉、しっかりしてよ起きてよ」

 ユウキ先輩に抱き込まれながら紅葉先輩は意識を取り戻していく。


 「紅葉姉、よかったよっかた」

 「苦しいよ、苦しいよユウキちゃん」

 「ほんとにホントに良かった私またお姉ちゃんがどっか行っちゃうのかと思った」

 「私はユウキちゃんの側にいつも居るよ」


 《偽物のを倒すチャンスはここしか無いよ》

 「わたしは、わたしは良く解らないよ」


 《なにを躊躇っているのかは解らないけど》

 《でも、この際勝敗なんてどうでも良いんだよ》

 「えっどうゆう事なの?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 《紅葉が常に全力を出せない原因はそこにあったんだけどね》

 《彼女をそこまで追い詰めてくれたお陰で街中に散らばっていた影が集結した》


 「!?」


 《君の望みはようやく叶うんだよ》


 「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 騎士(ナイト)が勝利の雄叫びと共に再度紅葉に向かって突進をする。

地面を削り取りながら、若葉の意志とは無関係に紅葉とユウキに向かって一直線に

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