26話:若葉 対 紅葉 2
若葉ちゃん視点
駅からユウキ先輩の家までは、歩いて15分程だろうか、
その道を若葉は早足で向かうのだが、途中で足が止まってしまった。
有り体に言うと怖くて怖くて堪らないのだ。なんでこんなに怖いのか解らない。
でも、彼女には殺されかけた様な記憶がフラッシュバックする。
無論、若葉が体験した訳ではないが、音楽室で紅葉に首を折れる勢いで
締め付けられた記憶が、それだけなのに息が苦しくなった。
微かではあるが、あの時の光景を追体験するように思い出して
若葉は道の中程で足が止まってしまったのであった。
彼女《紅葉》は強い、あの少年の記憶では、なにをしても彼女《紅葉》には通じないようなイメージすらある。もちろん若葉だってあの少年には勝っている。
その内容がまるで違うのだ、自分は弱っているあの少年に対して不意打ちをしてかろうじて勝てたのに対して彼女《紅葉》は弱っていない少年に対して不意打ちを喰らいながら、それをまるで意に関しないように楽々と圧倒しているのだ。
もしも、私が弱っていない少年に奇襲されたらあっさりなんの抵抗も出来ずに敗れていた可能性が高い、いいや何も出来ずにあっさりと終わっていただろう。
彼女《紅葉》の底はまるで解らないが、どうイメージしても自身が勝てる姿が想像出来ない。
そんな事を考えた時点で若葉の足が地面に縫い付けられた様に動かなくなった。
「動け、動け、動け、」
若葉は石の様に動かなくなった足を叩くが、足はこれ以上進む事が出来そうに無い。
「なんで、なんで、動けないの」
泣きそうな若葉に対して又しても頭に響く声がする。
《足の周りを良く見るんだ》
自身の足元は黒い水溜まりに足がズブズブと埋まって行くのが見えた。これはヤバいとすぐに避難しようと自身の影を直ぐさま水溜まりに向けて放ち、それごと吸収しようとした所で、初めて気付いてしまった。少し距離があるが化物が真っ正面に立って居たことに
薄暗い道の電灯の下から此方を見つめている。彼女《化物》を認識した瞬間、ゆっくりとゆっくりと自身を飲み込もうとしていた影が一気に私を飲み込もうとした。
靴の半分くらいだった影が、一気に脛辺りまで飲み込もうている。
若葉は吸収するのを諦めて、影を使って腕を三倍ぐらいに伸ばすイメージで影を操り体をこのタールの様に黒くて重たい液体ような影から脱出を心見るのだった。
なんとか足を出す事に成功したが化物がこの瞬間を見逃す訳も無く、足下の影から逃がさないと言わんばかりに白い腕が抜け出した私の足を万力のような力で掴む。
「いった」
《とりあえず足を切断して逃げるかい》
「却下」
掴んでいる腕を思いっきり踏んで逃げようと心見るが、影からもう一本の腕に阻まれてしまう。
そのまま影の中に一気に引き釣り込もうとする。
若葉の影が地面から立ち上がり、腕が鋭い槍を模した形に変わると一気に若葉を掴んでいる腕を突き刺す、腕は地面から切断されて少し離れた道路に落ちてそのまま黒い液体の様になり、地面に染みこんでいく。
「ちょっちょっと待ってよ、紅葉先輩ですよね、どうしてこんな事を」
《屈んで》
若葉は咄嗟に屈むと後ろから黒い大鎌が、先ほどまで首があった場所を通過した。
そのままの勢いで標識をまるでポッキーの様になぎ払う。
すぐに若葉の影が真後ろの化物に先ほど同様に槍で攻撃をする。
化物がなぜか、避けずにその槍を包み込む様に両手を広げて槍の攻撃を受けるとその右胸に槍が突き刺さる常人ならば致命傷のはずなのだが、有ろう事か槍を右手で掴んで自分の体に引き釣り込もうとするが、右腕側にそのままなぎ払う様に槍を化物の体の中を移動させて
掴もうとした腕ごと切り払い、右上半身はそのまま壁にべちゃりと叩き付けられる。
《今しか無い》
若葉の影は持てる力をこの一瞬に全て掛けて攻撃を開始する。
どこか輪郭がはっきりしない朧気な影の塊が、みるみると輪郭がはっきりしていき、黒塗りの甲冑を身に纏った大柄のナイトに変貌していく、手にした槍だけが白く輝いていたが、2mを超えるナイトが繰り出す槍は目にも止まらない早さで一瞬のうちに紅葉の体をミンチに変えていく。
「・・・・」
若葉はどうしてこんな事になったのか頭を抱えていた。
道路には辺り一面に紅葉先輩が散らばっている。
「・・・・」
頬を拭くとブヨブヨした恐らくなんだか解らない肉片が付いていた。
「臭い、汚い、お風呂に入りたい」
《ここの後片付けしないと大変な事になるよ》
若葉の影が紅葉先輩だったものを吸収していく
《ごちそうさまでした》
《うん・・・》
「どうしたの、お腹痛いの?」
《明らかに量が少ない》
「?」
《彼女の影の量はこんなに少ないはずが無い》
「??」
《弱体化して量が少ない場合は彼女を弱体化した者がいる》
「!?」
《違う場合は》
「若葉さん、逢いたかったわ」
「・・・・」




