23話:探偵5
タカナスは仕方ないなと席を立ち上がり、ゆっくりと警戒させないように
若葉と名乗る少女の元に歩を進める。
泣き虫な女の子を残して帰る事などできないからね仕方ないね。
フジはなにか叫ぼうとしていたが、声が出せなくされているのか聞き取る事は出来ない。
「やあ初めまして、タカナスというものです」
少女ににっこりと笑いながら挨拶をする。
「この間は大変でしたねタカナスさん、私の名前は知っているでしょうけど
笹目中等部1年の若葉と申します。」
少女も微笑を浮かべながら返事をする。
「いやぁ、早速で悪いんですけど、若葉さんうちの助手を解放してあげて」
「いいわよ」
その一言で突然支えを失ったように倒れ込む所をタカナスはとっさに手を出して支える。
ぜぇぜぇと肩で息押していたフジの体は汗をかいているのに鳥肌が立っていた。
タカナスには中学生という事前情報が無ければ小学生にしか見えないような少女が
フジにはどうやらそうゆう風には見えていない様だった。
「悪いね、中学生の女子が大人二人と話しをするのは苦痛だと思ってね」
「確かに先日連行された不審者と話すのは苦痛ですね」
若葉のその顔には苦痛の「く」の字も身受けられなかったが、
タカナスは適当にメニューを若葉に差し出し奢るから好きなモノを
頼みなさいと少しでも印象を良くしようと心がける。
まじまじとメニューを見渡して考えこみながら若葉は近くの店員を呼んで注文をする
「じゃあこのDXチョコレートサンデーパフェにバナナとホイップクリームマシマシにして
リンゴのアップルパイとミルフィーユカツサンドとあとは、、、」
呪文の様にすらすらと注文をする若葉を傍目にタカナスは水のおかわりをするのであった。
ピザを片手で持ちながら若葉はタカナスと話を続ける
「トモエさんに関する重大な情報がわかったから、情報共有しないと持ち掛けておいて」
持っていたピザが消えた、イリュージョンかな
「あなたたちは大した情報も無いのね」
「いやぁ、それに関しては面目ない」
「けどね、こうやって一緒に意見を交わす事で新たな発見も生まれるものだよ」
「ふ~ん、確かにあなた達の視点もなかなか面白いものだったけどね」
「そこの女性は気分が悪いのかしら、なんだったら帰ってもいいよ」
フォークの先端を向けながら、若葉はフジに言い放った。
「その代わり一人で帰りなさいね、私はタカナスさんとまだ話さないと行けないから」
一瞬顔色が良くなったと思った、フジがまたしても青くなった。
「だって、あなた明らかに私を見て気分を害しているでしょ」
「はっきり言って不快なだけなのよね」
場の空気が凍りつく、とてもこの間までランドセルを背負っていた少女とは、
思えないような空気を身に纏っているのはタカナスでも感じ取れた。
「あなたとタカナスを二人きっりにさせられない」
「へ~、なんで私とタカナスさんを二人きっりにさせられないの?」
若葉は大げさに首をかしげる、只もう少しお話しをしたら帰るのに
「タカナスさんは重度なロリコンで中学生が大好きな変態だから」
場の空気が凍り付いて行くのが感じる。先ほどから全然しゃべらないフジちゃんを
必死にフォローしていたタカナスがこんな目に遭うとは。
「ちょ、おい、ひどくね」
若干引きつった顔になってるぞ、若葉ちゃんが
「だから、小さくて可愛らしいあなたと二人きっりにはさせられない」
「絶対にさせられないの」
なんか、悲壮な覚悟をしてるような顔でフジがはっきりと言い切りやがった。
「そう、そうなんだ」
若葉が年相応の反応を見せている。
「じゃあ、あなたも会話に参加しなさい」
「私の邪魔さえしなければ、あなたたちの安全は保証するから」
「ええ、そうね。」
「ごめんなさいね、取り乱してしまって」
手を大きく広げて若葉は別に良いわよ、気にしてないから
「それにあなたたちは正しい選択をしているのよ」
パッチンと指を鳴らすと店内の従業員も客も一斉に此方を覗きこむ
「もしも逃げだそうとしても、立ち向かおうとしても無意味だったしね」
良く見ると此方を覗きこむ、人たちは皆ナイフやフォークや包丁等を手に持っているし
タカナスとフジの頭上にナイフを突き立てる勢いで威嚇しているお客も居た。
もう一度パッチンと指を鳴らすと先ほどの光景が白昼夢でもあったかのように
店内は元の状態に戻るのであった。
「フジ」
タカナスはフジの方を向いた、殆ど驚いている様子は無い。
フジは若葉という少女をこの程度の事は造作も無く行える化物だと見抜いていたのだ。
「さてお話を再開しましょうか」
今まで黙っていたのが嘘の様にフジは若葉に話しかける。
「そうね、でもその前にあなたの目的は行方不明のトモエさんを
発見することでいいのよね」
「ええ、その通りよ」
「なぜ?あなたとトモエさんには殆ど接点は無いはずだけど」
「それはあなた達と一緒だと思うけど」
「全てはユウキ先輩を助ける為よ」
「助ける・・・それで、私たちと協力してトモエさんを探し出したいのね」
「ええ、でもそれは事前のやり取りでもお話したと思いますけど」
「ええ、そうね」
「でもね、お互いに確認するのはとても大事な事なの」
「ふ~ん、そんなものなの」
チッラと若葉はタカナスの方に目を向けた。
「ああ、そうだな意見の食い違いや、思い違いが失敗につながる事は多い」
「そうね、確かにその通りね、その通りだわ」
若葉はなにか得心がいったような感じになった。
「それでトモエさんが失踪した日に通ったと思われる家から公園までのルートはコレで」
「公園後の痕跡は一切見つけられていないのは現状」
「あらゆる手段で探してはいるけど、本当に公園での失踪以来なんの痕跡も無い」
「これは凄く凄く異常な事なのは若葉さん解る?」
「ええ、確かに彼女の痕跡を辿るのは現状は不可能かもしれない」
若葉ちゃんの表情には苦虫をかみつぶしたような苦渋な色が見える。
「そして気付いているかもしれないけど、トモエさんの事を」
「「誰も良く覚えていない」」
(覚えていないだけじゃなく写真すら消えてるけどね)
タカナスは声には出さないがそっと心の中で呟く。
「存在が消えていっている、このままだと失踪した記憶すらなくなって」
「最初からいなかったことになるかもしれないですね」
フジの過去の経験から、そうなってしまえば連れ戻すこと等不可能だ。
なにしろ居なくなった事すら解らない人間を探すことなど出来はしないのだから・・・
それを聞いた時、若葉の表情が少しだけ揺れ動いたのはタカナスは見ていた。




