21話:探偵3
フジが聞き込みをして最初に感じた違和感は・・・
「中等部のユウキちゃんのお姉さんですよね、よく二人で居るのを見かけました」
「ユウキ様のお姉様でげすね、姉妹で良く出掛けてるのを後追いゲフゲフ 見かけたっス」
「ユウキちゃんと仲が良かったのは覚えているんですけど」
「すごく綺麗な背の高いモデルみたいな子とよく居るのを見かけたよ、あれ姉妹なんだってね」
途中で吐きそうになるこの子達にイライラして。
もしも、この子達が日常的にトモエという少女を無視して話し掛けもしないで
遠目から眺めているようなイジメをしていての回答だと思ったからだ。
だが、そうでは無いのだ、トモエさんはクラスで浮いていたのか?友達などは
居なかったのかと聞くと決してそんな事は無いと聞き込み調査に応じてくれた子達は
一瞬なんでそんな的外れな事を聞くのだろうと不快な顔をして皆即座に否定してくれるのだが、
そこから一様に困惑の顔になるのだ。
トモエさんと一緒に居たはずなのに、トモエさん個人への記憶がまるで思い出せない事に
トモエさんの友達だったいう少女はその事に気付くとその場で項垂れて、泣き崩れる子もいた。
「あれ、なんで、なんで、、あんなに一緒に居たのにわた、わたし」
特に狼狽が酷い子が今にも発狂しそうな感じになった時はフジも慌てたが、
次の瞬間には何事も無くその女の子はスクッと立ち上がると
スタスタと歩いて行ってしまうので、急にどうしたのか呼び止めるも
先ほどの聞き込みがまるで無かった様な対応をされてしまった。
再度同じ事をする気も起きないのでトモエさんの印象だけ聞くと
「中等部のユウキちゃんと仲の良い姉妹でしたよ」
と笑顔で答えるのだった。
その後数人にも同じ様な事をしたが、結果は全て同じに終わってしまった。
フジは念のため、その一部始終を解らないように小型のカメラに撮影し、
自身の手帳に書き込んで置いた、自分も同じ様になるかもしれないので、
幸いな事にフジの身には今のところその様な事は起こっていない・・はずだ。
事務所に戻り、その件をタカナスにビデオを見せながら説明したフジは
「この事件を追っているユウキさんと同じ中学校の生徒がいるらしいは」
「名前は知らないけど、ユウキ選手と関係がありそうな小柄な陸上部の少女よ」
タカナスは机に散らばった写真の中の1枚を手に取り
小柄な少女を油性マジックで、丸く囲んでフジに手渡す。
「名前は若葉、ユウキちゃんの1つ後輩で、若葉が小学生の時からの付き合いらしい
ユウキ選手に特に懐いてた後輩の一人だから恐らくその子だろうな」
「どうする、あした中学の聞き込み調査行ってこようか?」
さすがに正式な依頼がされたとは言え、昨日の今日でタカナスが聞き込みするのは、
あまり良くないだろうとフジは自分が聞き込みに行く事を提示する。
「いや、この若葉本人と話しをしよう」
「そう、でもどうせ、放課後に待ち伏せするんじゃあ、
あんまり労力は変わらないね」
「いや、そんな事は無いさ」
「最近は中学生でもみんなスマホを持って居るしSNSも当たり前の様に利用してる」
「当然昔のように電話連絡網で部活なんかの連絡もそれを通して行われる」
「学校名と所属している部活が解っているし」
「ユウキ選手の所属している部活の子達の様子はよくチェックしているから」
「もちろん若葉ちゃんの連絡先も知っているよ」
「ほんと、子供はガードが甘くて助かる、、いや怖い世の中だね」
フジはなにか言いたげだが、「これは探偵活動、これは探偵活動、これは探偵活動、、、、」
と自身に言い聞かせるのだった。
「よし、向こうから連絡が来た。あした駅前の喫茶店で中学生とデートだ」
「駅前の喫茶店はすぐ近くに交番もあるしやっぱり警戒されてるのかな」
「当たり前ですよ、むしろよくオッケーしましたね彼女」
「そこはやっぱり若さかな」
後で、話しを聞いたらタカナスは私の偽造アカウントを使って交渉したらしい。
若い女性と言う事で、警戒心を解いてもやっぱり胡散臭い聞いたことも無い探偵を警戒して
待ち合わせ場所は駅前の人通りが多く交番も近い場所にしたのだろうとフジは思った。
だが、本当に警戒しているならば、自分ならば味方を沢山配置出来る場所にするだろう。
相手に対策を練られないように直前で待ち合わせ場所を変えたりするだろう。
人通りが多い場所は、人混みに紛れて逃げるのには適しているが、助けを求めるには適していない。
集団心理で人混みの中で助けを求めても《みんな誰かが助けるだろう》と思ってしまうそうだ。
フジはそんな益体もない妄想をしながら、一応万が一に備えておくのだった。
翌日にシトシトと雨が降る中喫茶店で若葉を一人で待っているフジ
無論、本当に一人という訳では無い、店内では変装したタカナスも居る。
フジとは少し離れた壁際のテーブルに座っている壁側の耳にはイヤホンをしている。
フジの服装のボタンの一つを偽造して集音マイクにして音を拾っているのだ。
先日の一件で恐らく連行された事は、中学生の間で噂が駆け回っているだろうし
ただでさえ得体の知れない大人を相手にする中学1年生の負担を少しでも減らす為の
こちら側の配慮なのであったが、そんな必要はなかったのでは無いかというぐらい。
若葉という少女は肝が座った少女だった。




