2話:もどかしさに吐きそう
両親を交通事故で無くしてから3年が過ぎ、3歳年上の高校2年のトモエ姉と中学2年生のユウキは仲睦まじく暮らしていたが、
神隠しに遭うという噂が流れていた時期の冬の公園でユウキがほんの少し目を離した瞬間にトモエは居なくなってしまった。
「私は泣かないよ、泣かないから戻ってきてよ姉さん」
先程からユウキは呪詛の様に繰り返し繰り返し、繰り返し同じ言葉を呟くが誰も返事をするものも居なかった。
当然だ、もうこの家には自分しか居ないのだから
言葉とは裏腹にどんどん涙が溢れてくる必死に止めようとするが、敵わない。
あれから警察官に励まされたり色々とぶしつけな質問をされたが、ぼんやりする頭でそれぞれに答えながら、ふとすると嫌なことばかり次から次へと浮かんでいく積もり積もって心が凍えてしまいそうになる。
お父さんやお母さんが居なくってしまった時はここまで悲しくならなかったのは、トモエ姉さんが私のことをそうならないように励ましたり茶化してくれたからじゃない。
トモエ姉さんは愚痴や不平不満を一切言わなかったのだ、料理や洗濯や掃除などもほとんど一人でこなしていた。
私は姉さんが居なくなったショックで1週間部屋から出ることも出来なかったが、脱水症状になりかけて、そのまま病院に運ばれてしまった。
改めて姉さんは私を背負ってこの寂しさとずっと戦って来たのかと・・・姉さんへの想いで涙が止まらなかった。
世話好きのクラスメイトが心配して来てくれた時に、初めてああ学校行ってなかったなと気付いた。
学校も休みがちだったのと全てに対して無気力になっていたので、勉強もどんどんわからなくなってきていた。
ある日夢の中でトモエ姉さんにコッテリと説教された
「ほんと最近の生活は酷い酷すぎるよし、このままじゃあんたは駄目になるよ 、このままじゃあ高校にも禄に行けなくなるよ。あと少しは温かいもの食べなさい」
姉さんの優しげな声を久々に聞いた時、私は涙が止まらなかった。。。
翌日からユウキは今までを取り戻すように精力的に活動するようになった。
トモエ姉さんが居たときは朝はいつも遅刻ぎりぎりまで寝ていたが、出発の2時間前には
起きるて朝食を作ったり洗濯物を干し、ゴミを捨ててから学校に行くようになった。
なにかをしていないと不安に変わってしまうので、四六時中勉強にのめり込んでいたら、学校の成績も徐々に上がっていき気付いたら全教科クラスで10番以内に成っていた。
ユウキが頑張れば頑張るほどトモエ姉さんが夢で褒めてくれるのだ。やる気が出ないわけが無い、頑張るよトモエ姉さん
3年の春にはもう学年でも30番以内に成るほど成績が上がっていたし、
ユウキは元々陸上部のエースだったが一時スランプになっていたが、どんどん調子を上げてきていた。
周りからは完全に調子を取り戻しつつあるように思われていたが、ユウキはあの公園には未だに近づくことが出来ないでいた。
あの事件の後すぐに行こうとしたが、嘔吐してしまうのだ足が震えて前にある一定以上近づく事が出来なくっなってしまうのだ。
全然前に進めてる気がしないよ姉さん、姉さん助けてよ、当然だが誰も答えてはくれなかった。
じっとしていると嫌な事ばかり考えてしまうので、とにかくユウキは体と頭をフルに追い込むぐらい没頭した。
怖かったのだ、なにがとは言わないがあの日からすべてが怖かったのだ。
だからそれを忘れる為に没頭するものが欲しかった。物覚えが良いユウキはすぐに成果を出していった。
だけど未だにあの公園には近づく事が出来なかった。
「トモエ姉さんはなんでそれで私を弄らないのだろうか??」
「おかしいない、叱咤激励をしなくてもじっくりねっとりいじめてきそうなのに??」
妄想の中のトモエ姉さんが暴走進化をしているのと同時にユウキも独り言が増えていた。
ある日ユウキはクラス委員の紅葉ちゃんに誘われてファミレスに行った時だが、なんでも中間テストでいつも学年総合2位だった紅葉ちゃんが私がついにクラスで2番になった事で万年2位から3位になってしまったのでどんな勉強方法を教えて欲しいと言われたので
家の中はあまり入れたく無かったので近くのファミレスに行く事になったのだが、
万年2位って漫画みたいにすごいんだけど、普通そんな奴居ないよね
あっちなみうちのクラスの1~3位はそのまま学年1~3位です。
なぜか悪しき風習で結果は100位まで張り出されます。1学年の人数は300人ほどですが
「そもそも勉強方法と言われても授業を聞いてノートを取って習った所を繰り返し繰り返し毎日復習するだけなのだが、わからない所はわかる所まで遡って順を追って理解して、
理解した所も忘れたり覚え違いをするので繰り返し繰り返し反復練習をして理解を深めて、基本が出来たら応用問題をやって、わからないなら基本に立ち返り、反復練習、反復練習、数学なんかは問題集があるのでそれをひたすら繰り返し解き続けるだけだし、中学生のやさしい○○シリーズなんかは実にわかりやすいけど、基本は教科書を繰り返し繰り返し読むだけでも成績は一定上がったよ」
「ユウキさんそんな事は私もやってるよ」
委員長の紅葉ちゃんはドリンクバーのジュースを飲みながら 無愛想に答えた
そんな自分達のすぐ後ろに同じ中学の子達が3人組で座って話しを始めた。聞き耳を立てるつもりがなかったが声がでかいので聞こえてきてしまった。
「ユウキ先輩って最近マジでやばいよね」
え、なんか噂されてるよ聞きたくないな
「あーわかるわかるやばいよね、元々重度のシスコンだったけど最近はマジやばいよね」
「わたしこの間トモエ姉さんが褒めてくれないって突然ぶつぶつ言い出したとき鼻から牛乳出そうになったわ牛乳返せよ」うわぁ口に出してたんだ
「ちょなにそれ、詳しく詳しく」笑いながら聞くなよ、あー帰りたい
「辞めなよ可哀想だよ、先輩なんかドラマ主人公なみに可哀想なんだから」
「あーーなんか小学生の時に両親無くして親代わりのお姉さんが神隠しだもんね」
「ほんと悲劇のドラマかよ、私ならそんな脚本は書かないな」
小声で紅葉がさっさと出ちゃおうと促してくる
「でもでもすっごく顔もスタイルも良いよね」
「うんうんわかるー」
「最近は勉強もすごいらしいよ実質1位だもん」
「満点製造機先輩は抜けないからね、確かに1位だね」
「勉強だけじゃなくて運動もすごいんだって」
「ふふ、にわかファンだね運動は元々すごいの」
「なんであんたがえばってるの」
うわ、、なんか別の意味で出にくくなったな
それから3時間以上後輩の女子3名は喋り倒してこちらには気付かずに店から出て行った。
こちらは小声で紅葉ちゃんと勉強してましたよ。
「あの3人じゃないけど、やっぱりユウキはすごいよ」
「そうかな紅葉ちゃん」
「そうだよ」
「そっかあ」
「そうだよもっと自信持ちなよ私と一緒に勉強してるんだから」
「なにその自信の持ち方」
紅葉ちゃんの笑顔は屈託が無くてまぶしく直視できなかった。
「どうしのたのユウキさん」
「ごめん、紅葉ちゃんちょっと寄りたい所があるんだ」
「ユウキに勇気をくれない」
「え、なにそれ寒いよ」
「冗談だよ、それでどうすれば良いの」
紅葉ちゃんの手を握りながら姉さんが行方不明になった公園に向かったが途中で吐いてしまった。。。
紅葉ちゃんは私が見に行こうかと言ってくれたが、あの日の出来事がフラッシュバックして紅葉ちゃんまで消えてしまうのではと思うととても頼めない。
「やっぱりユウキはすごいよ、えらいえらい」
紅葉ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
「こんなにつらいのにあんなに頑張ってるなんて凄いよ本当に凄いよ」
「ごめん紅葉ちゃんの服汚しちゃってごめんね」
「いいよ、落ち着くまでこうしててもユウキならいいよ」
辞めて欲しい、情けないのとトモエ姉さんを思い出して涙が止まらない
ごめんね、姉さんの教えを全然守ることが出来ないね




