19話:探偵1
すいません、前回の投稿で姉のトモエを中学3年生の様な記述をしていましたが、実際は高校2年生です。
年末も差し掛かった厳しい冬に、とある事件が起こった。
高校2年生の少女が失踪もしくは拉致されたかもしれないとの事だ。
失踪現場に争った形跡が無く、犯行は知人によるものかと思ったが、
不可解な点を上げるなら、失踪した少女には妹が居て、妹の目の前で
突然失踪したとの事で、当初は只の計画的な家出なのかと周囲は思っていただろう。
毎年2~3万人近い行方不明者が出る日本では思春期の家出など大して珍しくも無く、
本来であればマスコミも見向きもしないような出来事だっただろう。
今回の失踪した人物には悪いが、世間が注目したのは、
一緒に居た妹の方である。
妹の名前はユウキ、姉のトモエの3つ下の中学2年生、中学生離れしたスタイルや顔立ちよりも
特筆すべきは身体能力の高さであった。
彼女はその持ち前の身体能力で中学入学しての初出場の大会の、予選一本目の100メートルで、向かい風風速3m/sの中で11秒9をマークしてしまったのである。
ちなみに当時の中学1年歴代記録を塗り替えてしまっている。
向かい風1m/sに付、約0.1秒タイムが遅くなる事を考慮すると
如何に吐出した記録かおわかり頂けるだろうか、
大会はその直後の嵐の様な豪雨にて中止になったが、
当然世間では特集を組まれる程の一躍時の人になってしまった。
何本かCMのコマーシャルにすら起用されてしまった程である。
類い希なルックスと実力でたちまち世間に広く知れ渡ったのだが、
テレビで映し出されたイメージで直接に逢いに行くと本人だと言われないと
気付かないほど、本人には悪いが凄みは無く普通なのだとか。
もちろん滅多にお目にかかれないレベルの美少女には違いないのだが、
恐らくよほど熱心なファンで無いと本気の時の彼女との雰囲気のギャップに
顔立ちは同じだが、そっくりさんかなと思ってしまう様な女の子だった。
ユウキが中学2年になった時には既に中学生どころか、
全国区の高校生にも引けを取らない程に成長していたのだが・・・
髭を蓄えた20代後半ぐらいの男はデスクにユウキ選手のトモエが居なくなった地図を広げ、
ユウキ選手に関する資料を並べて考えていた。
地図には幾つか印が書いてあった。
1、二人(ユウキ、トモエ)が通っていた中高一貫の学校
2、二人(ユウキ、トモエ)の住所
3、トモエが失踪した公園
ユウキ選手に関する情報しか無いのは、この男がユウキ選手のファンだからという訳では無い
ユウキ選手の写真がやたら多いのは、いつもこっそりと練習風景を撮影していたからではあるが、
まさかこんな事になるとは、
「可哀想なユウキ選手、必ず俺が魔の手から救ってあげるからね」
と写真に熱烈なキスをしようとしている所を後ろから新聞紙で叩かれた。
「朝ぱらからなにやってるんですか」
「不二子ちゃん、おはよう妬いてるの?」
再度スナップをきかせて先ほどスピーディに叩かれた
「惚け茄子さん、おはようございますまだ、寝ぼけてるんですか?」
ブッッ!!ブッッ!!ブッッ!!ブッッ!!
素振りをしながら不二子と呼ばれた女性が威嚇する。
「ごめん、ごめん、悪かったよフジちゃん」
「目が覚めたみたいですねタカナスさん」
にっこりと微笑むフジと呼ばれた女性は机の上から一枚の写真を手に取った。
そこには、あからさまな盗撮写真であろう、下校中のユウキ選手が映っていた。
「で、タカナスさん犯罪を犯す前に自首するなら付いて行ってあげましょうか」
にっこりと微笑むフジさん超コエーーー
「フジちゃんそんな事より妙だと思わない?」
フジはタカナスに対して汚物を見るような目を向けるが無視をする。
「僕の秘蔵のコレクションなんだけど、ユウキちゃんと友達が一緒に映ってる写真は
あるんだけど、この100枚以上のベストコレクションの中に1枚も無いんだよ」
フジの軽蔑度が上がっていくのを感じるがようやく気付く
「もしかしてトモエさんが一緒に映ってる写真が無いんです」
フジはトモエの顔を覚えていないが仲良し姉妹とは記憶している。
「そうなんだ、これ以外の写真は完全にユウキちゃんしか写っていないから除外したが、
この100枚以上の全て違う場面の写真に1枚トモエちゃんの写真が無いのだよ」
「!?」
色々とドン引きな事をしているフジだが、この惚け茄子が放った言葉は
考えれば考えるほど、フジは異常な事にようやく気付く。
だが、タカナスはフジ以上にこの事態を不可思議に思っていた。
あえて言わないが、ユウキの写真だけでは無く、トモエの写真も確かに
撮っていたはずなのだが、そのデータは1枚も無かったのだ。
しかもトモエ本人を見た事があるはずなのだが、ユウキと仲の良い姉妹だったとしか
思い出す事ができないのだ。




