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18話:若葉ちゃん3

 若葉は知ってはいた

ユウキ先輩の現在の境遇に関しては、唯一の肉親である大好きな妹が行方不明になってしまっている。

実際はトモエは妹ではなく姉なのだが。


だが若葉はなにも知らなかったのだ、ユウキ先輩の状況をなに一つ知らなかったのだ。

別に若葉には霊感がある訳ではないが、ユウキ先輩の部屋の中には

大量のゴミと動かない先輩と影に併せて蠢く「よくないモノ」がたしかに大量に居た。


 あれがなんなのかは解らない、視界の隅にチラチラ見えたアレは焦点を合わせることが出来なかった。

焦点を合わせようとすると視界の隅に動いてしまうのだ、焦点が合わないが、視界から消える事がなく、若葉の事を警戒しているような、警告しているように見受けられた。


 若葉にはあれがなんなのかよくわからない、皆目見当も付かないが、ユウキ先輩にとって「よくないモノ」なんだと若葉は想った。


 だけど、「普通の中学生」の若葉にはどうすることも出来ない苛立ちが若葉を奮い立たせた。

(迷子になって泣いてる先輩を今度は私が強引に連れ出してあげます)


 若葉はユウキ先輩の妹が居なくなった事件を地道に地道に調べはじめた。

 調べはじめて直ぐに妹ではなく姉である事が判明した。


 一休先輩からの情報だと


 公園で突然に姉が神隠しにあったという、しかもユウキ先輩の目の前でだ。

公園の場所は聞いた、ユウキ先輩の家からそれほど離れてはいないなんの変哲も無い公園だ。

 トモエ先輩については一休先輩はよく知らなかったが、非常に仲の良い姉妹だったとの事。


 とりあえず、トモエ先輩の事も聞こうと思い高等部の教室にも聞き込みに行ったが、

不思議な事が起こっていた。

 中高一貫の学校で高等部は徒歩5分と離れて居ないのだ。


 トモエ先輩と同じクラスメイトに聞き込みをするのだが

 「中等部のユウキちゃんのお姉さんだよね、よく二人で居るのを見かけたよ」

 「ユウキ姫のお姉さんだよね、姉妹で良く映画を見に行ったりしてたらしいよ」

 「ユウキちゃんと仲が良かったのは覚えているんだけど」

 「すごく綺麗な背の高いモデルみたいな子とよく居るのを見かけたよ」



 トモエ先輩の事を誰もしっかりと覚えていないのだ。

ユウキ先輩を軸にして仲の良い姉妹という認識はあったのだが、トモエ先輩本人の印象は

誰も覚えていないのだ。

 トモエ先輩の友人ですら同じ様な反応だったのだ。


 聞き込みを続けるほど悪寒を感じるような事態だが、一番怖いのはこの状況に誰も違和感を感じていないのだ。思い出してみればユウキ先輩の家に遊びに行った時に自分は間違いなく姉のトモエにあっているはずなのだが、トモエ本人に関する記憶が驚くほどになかった。


 どんな顔だったかすらまるで思い出せないのだ、かろうじて思い出せるのは、ユウキ先輩と仲良さそうにしていた事ぐらいだ。


 若葉は怖くて怖くて、仕方がなかった。もうこんな事は辞めてしまいたかったが、

ユウキ先輩の虚ろな表情を思い出し、トモエが居なくなる前のユウキ先輩を思い出す。


 若葉は逃げ出してしまいたいのをグッと我慢してトモエが居なくなった公園に向かうのだった。



 学校終わりの夕暮れ時というのもあってか、それとも異様な事態を認識してしまったせいなのか、

なんの変哲も無い公園が異様な不気味さを醸し出していた。


 (本当になにも無い公園ね、身を隠すものすらない)

 「身を隠すものすらない・・・」

若葉は口に出して反復してみるが、なにか引っかかる違和感があったが公園に足を踏み入れる。


 「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 一瞬視界が割れた、比喩ではなく公園という空き地に、空間の断裂の様なモノが起こったのだ。

 「はぁはぁ」

 頭を抱え込みうなだれる若葉

 「えっなにが」

 息を飲んで先ほどの異様な光景を見ようと正面を見据えると

 ユウキ先輩の家で見た「よくないモノ」真っ正面にあったのだ。

 「えっ  えっ   うそ」

 若葉の思考が目の前の光景に追いつかない。


 若葉の目の前にたしかに「よくないモノ」が大量にあるのは解る、視界の隅などではなく、

間違いなく正面にあるのだが、焦点が合わないのだ。

 たしかにあるのはわかる、公園という入れ物を満たすように「よくないモノ」があるのはわかる

わかるのだが、それを見る事が出来ないのだ。見ようとすればするほど、見えなくなる。


 若葉はそこでようやく気付いた、夕焼けで赤みがかっていたので、気付くのが遅れたが、公園の中にあるモノが全て異様に紅いのだ、だが公園の外がぼやけて見る事が出来ないのだ。


 「ひっ」

 若葉はそこでようやくこの場から逃げるという発想に至ったが、

 足が動かないのだ、ピクリとも体が動かないのだ。


 一刻も早く逃げ出したいのに。


 「ーーーーーーーーーーーーーーー」

 声を張り上げて助けを呼ぼうとするが、声すら出てこない。


 若葉に対して「よくないモノ」はゆっくりと近づいてくるような気がする。

 焦点が合わないので距離が良くわからないのだ。


 若葉は唯一動く眼球で辺りを見渡すが、

 公園の中ではブランコや自販機や砂場が視界に入って来た。

 外から公園を見たときにはそれらのモノは無かったはずなのに・・・



 そこで若葉の意識は途絶えてしまった。

 そこで小さくて可愛いくて少し怒りぽっい少女の物語は終わりを迎えてしまった。

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