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16話:若葉ちゃん1

 トモエの意思で明確な目的を持って送られたトモキと名付けられた「影」は、送られる途中で大気圏でバラバラになる隕石のように悲惨な程、飛散してしまった。

 影なので本来は実体があるわけでは無く、トモエという実体から離れた時点で本来の力からは劣化している上にそれがバラバラにわかれてしまったのだ、最悪なのはトモエが込めた意思も目的も飛び散ってしまったのが致命的だった。


 本来の目的である『トモエが妹のユウキに逢う』為に、異空間から抜け出す手段として、送られた存在であることもすっかり忘れてしまい。

 既に一個の生命体として活動している「影達」はバラバラになった事は覚えているかも怪しいが、同じ様な物体同士惹かれ合ったのか集合していくのだった。

 しかし影とは実体もしくは本体に付随する性質がある、影だけで動くよりも実体に取り憑いて動く方が、本来の力に近くなるのだ。


 だからこそ、この「影達」は実体を持ったモノがこの熾烈な生存競争を勝ち抜いてきたともいえる。現在残っているモノに弱いモノなどいる訳もないのだった。








 ユウキの姉トモエに生み出され、明確な目的と意思を持ってここに来た、トモキはそんな自身の短い命を振り返っていた。

 (あ~これが走馬灯というものなのかな)

 自身が弱いと決めつけどうにでもなると勘違いした若葉という少女にトモキは殺され掛けていた。実際は吸収されていた。本当に一瞬の事だったと想う。


 こいつを利用してと妄想している、最中に真っ正面から襲われたのだ、確かにその少女から視線は逸らしていないが、意識が離れた刹那の間に、顔面を手の甲ではじかれ視界が奪われた直後に手刀により腹を貫かれ、反撃しようとしたが背骨を抜かれ、その間に手足はその少女から伸びた影に串刺しにされていた。その流れるような攻撃はトモキの首をねじ曲げて即座に吸収に入る。


 ここまで一方的に攻撃をして、油断も隙も無い・・・


 悪魔として暗躍していたトモキはスタートラインに立つことも無く、かっこいい別れの言葉も捌けずに短い生に終わりを迎えた。


 「げっろ、まず」

 口元を抑え涙目になりながら、若葉は悪魔を吸収していく

  ごっくん

 「うえ~吐きそう」

舌を出して心底不味そうにしながらも体の中に一人の男の子を吸収したが、小柄な若葉の体には見た目ではなんの変化もなかった。


 街灯に照らされた若葉の影が本人のシルエットとかけ離れていること以外は


 「いやはや、なんだか滑稽な悪魔くんでしたね、悪魔というよりピエロかな」

 「すこしこの力の事が解ってきましたね、それに関してはとっても感謝です」

 

 若葉は先ほどまで悪魔が居た場所に、拝むようにして両手を合わせて

 「ごちそうさまでした」


 街灯が一瞬点滅するとそこには、若葉の姿はどこにも無く、死闘の残り香すら消えていた。

無論、その一部始終を見ていた者など居はしないのだけれども。

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