15話:悪魔くん3
何も無い空間に飛ばされたトモエは脱出の為に孤軍奮闘する。
もしも地に足が付いていない浮遊したような空間まるで、深い海の中、光すら届かないような深い深い海の中、落ちているのか浮いているのか解らない上とか下とかも無い状態で、周りに触れる壁も足が付くような地面も無いような場所の上に光りすらない場所にいきなり連れて行かれたら大抵の人間は1時間程で発狂するかもしれない。
トモエはそんな空間で驚くべき事に数週間近くも自我を保っていたのだ。恐らく常人なら5分が1時間にも感じられる様な空間でだ。こんな訳のわからない空間のお陰なのか喉も乾かないしお腹も空かないのを不思議には想わなかったが、1週間が過ぎた頃だろうかトモエはこの真っ黒な自分の手すら見えないような空間で本来は何も見えない空間でぼんやりとなにかが動くのを視界の端に捉えたのは、この1週間は妹のユウキの元に戻りたい想いと今までのユウキとの思い出と帰ったらユウキと過ごす日常の妄想を延々と想像していて過ごしていたのだが、この空間での変化ははじめててだった。
その日から少しづつだけど、このなにかが動く動きが解るというか感じる事が出来る様になっていた。そしてそれは何もやることが無いこの時間と空間の中でどれだけトモエの助けになっただろうか、真っ黒な光も差さない様な暗闇こそがトモエには何より大きな希望の光になったのだ。
最初はこの動きを探る事から始まったが、僅か1日でその動きは自身の体の中へ取り込まれていく事を理解した時はゾッとした、なにしろ得体の知れないモノが体の中に吸収されているのだから。
トモエは一つの仮説を立てた、この空間は光が無いのでは無くこの真っ黒なモノで埋め尽くされているのでは無いだろうか、海の水が墨汁の様に黒くその中に入ってしまった様なイメージをした。
それと自身の体はこの得体のしれないモノによって生かされている事をもしかしたら、自分はもうかつての自分では無いかもしれないという恐怖を感じたが、どんな姿になっても、どんな事をしてもユウキの元に必ず帰るという強い意志でその恐怖は考えない様にした。
もしもこの得体のしれないモノがどれだけあるかわからないが、全て無くなったらここから抜け出す手段が見つかるかもしれない。
二週目は、この墨汁のように真っ暗な得体のしれないモノ、以下略「影」を無くす方法を考えた、この頃には自身の目には影の動きは良く解るようになった。非常にゆっくりと自身の体に周囲の影は集まり全身の肌や口から酸素の様に少しづつ吸収されている。
だが酸素と違い吐き出されてはいないのだ・・・排泄などもない
だが、このままではどれだけ掛かるかわからない、少しでも吸収が早くなる方法を思いつく限り、全て試した。そんな事をしながら二週目は過ぎて行った。
三週目に入るころに非常にゆっくりと吸収されていた「影」の吸収をすこしづつコントロール出来る様になっていた。吸収するイメージを強く持つほど周りの「影」はトモエに入ってきた。
イメージはダイ○ンの掃除機だ。強く強くイメージする上で時間を掛けて内部のイメージを頭の中で作っていく、サイクロンテクノロジーのコーンの回転するイメージを思い描いていくそしてコーンの細部まで想像していく、恐らく軽量化の為に穴が等間隔で空いているだろうとか、回転するイメージも細かくイメージする。コーンの数も増やしていく。よくわからないがきっと増えれば吸い込む力が増すように感じたから。
そういった「影」を吸収するイメージとしてトモエは掃除機を選んだ。最初は少しの時間しかイメージの効果を持続出来なかったが、何十回何百回と繰り返す事によって少しづづ時間が長くなっていた。
「影」を大量に吸収しているせいなのか疲労などはなかった。これは自身のとっての食事なのかはわからないが、トモエには大量に吸収していたが、満腹感などはなかった。
気付くと周囲の「影」は大分薄くなっていることに気付いた。
ある時、まるでこびり付いた汚れが落ちるように一瞬だけ「影」が無くなり、白い空間が見えた。
だが、それはすぐに周囲の「影」が流れ込み消えてしまった。だが、トモエにはこの作業が無駄では無いと確信を持つことが出来た。そのイメージがより吸収を早めた。
4週目と言っても今までもそうだが、ここには太陽も無いので1日1日はトモエの体内時計で計っているのでトモエの中だけの日数だが、実際は数年、数十年経っているかもしれないし、なにしろ没頭して感覚としては数十時間たってもお腹も減らないし、眠くもならないのだから
気付くと周囲はうっすらと白くなっていた。白くなってもその外側から「影」は流れこんでくるが、すぐに彼女にどんどん吸収されていく。流れ込む量より吸収する量が多いので少しづつ白い空間は大きくなていく。
体感的には8週目ぐらいだろうか、どんどん広がった白い空間は地平線の彼方までになっていた。彼女の感覚もその白い空間ともに大きくなっていた、既に彼女の体に直に流れ込んでいた「影」は白い空間ごしに吸収されている様なイメージだった。掃除機のイメージから白いブラックホールに変わっていた。
吸収することは既に意識しなくても無意識に行える様になっていた。無論最初の無意識に少量ではなく、イメージしたブラックホールで最大限の吸収量を維持した状態でである。
その頃ぐらいからトモエは「影」を自由に操る訓練を本格的にはじめた。
驚くほど早くに意のままに「影」を操る事が出来たトモエは楽しくて楽しくて仕方が無かった。この空間で初めて得た娯楽にすら思えるほどに、「影」を操ることにトモエは没頭した。
もちろん、吸収量を維持したままである、なんなら吸収量は刻々と大きくなっている。
ある日、トモエはこの空間に穴を開ける事に成功する。小さな小さな最初は髪の毛ほどの穴だったし、すぐに塞がってしまったが、毎日毎日その穴はどんどん大きくする事が出来た。
その穴が拳大になった時にトモエは「影」で作成した偵察用の空飛ぶ目玉のモンスターを中に送ってみた。そのモンスターが見たものはリアルタイムでトモエにも届く。
だが、入れた所で穴を維持出来ずに閉じると、その映像も途切れてしまった。
再度穴を開けても、映像は流れてこなかった。
問題は穴の維持時間を延ばす事であった。試しに100回ほど試したが、閉じた瞬間に映像が途切れるしこの空間の外にはこのモンスターを出す事が出来ていない。
もしかしたら、この開けた穴が元の世界と通じていない可能性も十分にあり得る。
不安とは裏腹に維持時間は延びていく、その時間を有効に使う為に、一度に数千ものモンスターを穴の中に入れて中の様子を探る。
数千ものモンスターの視界は大きな大きな画面上に解る範囲で細かく視界を増やしても足りないので大きな画面を次々と映り変えて、探っていく。
ようやく白い空間の出口らしいものを見つけた。穴は維持時間に全力を挙げているので、何日も開けておけるようになったが、穴の大きさは拳大から大きくなるってはいない。
トモエは有り余る「影」を利用して自身の分身を作成した。「影」なので形は自在なので、拳大の穴にも出入りも自由である。
ここからは白い空間の外側と内側の両方からアプローチを掛けてみようとトモエは想った。トモキと名付けたその「影」に期待してトモエは穴を維持したまま待つことにした。ひたすら待つことにした。




