10話:紅葉ちゃん1
「・・・紅葉ちゃん」
正直あまりにも信じがたい出来事にまるで、実感がわかず、ユウキは帰宅後自室で布団に包まりポツリと呟いた。今でも信じられない、いっそ一休あたりに肝試しから今までのはドッキリだよと言って欲しいくらいだ。突然始まった、アニメや映画の様な現実味の無い世界は確実にユウキの心を蝕んでいくのを感じる。どうなっているのか頭で理解しても心が追いつかないのだ。
紅葉のあの異変は、悪魔の残滓を大量に取り込んだ事で起きているのは確実だが、あそこまでの変化が起きるものなのかと疑問に思うのは今はよそう、現に起きてしまった事をありのままに受け入れないといけないのだろうとユウキは思った。
今回わかった悪い事は、紅葉の強さは常規を逸している事と、大量の悪魔の残滓を取り込んでいる事。
良い事は、真っ正面から挑むとまるで敵わないが、不意打ちや搦め手に弱い・・・いや手にした力を上手く使いこなせていない可能性があるが、今ならむしろ今しか紅葉に勝つことは出来ないのではと、
そんな事を思いながら自分は友人の紅葉を倒す事を考えている自分が嫌になる。いつから自分はそんな人間になってしまったのだろうか、紅葉自身は罠かどうかは別にして私の味方だと言ってくれたのに
コンコンと自室の部屋のドアを叩く音と共に、悪魔の声が聞こえてきた。
「ユウキ先輩入っていいですか」
返事が無いのを、肯定と捉えて後輩キャラを演じる悪魔が入ってきた。
私は布団から包まって中から出ないと決めた。今日はもう家から一歩も出たくない。
「ユウキ先輩に折り入って相談があるんです、紅葉さんに勝つ方法についてなんですけどね。現時点ではまともに勝負しても100回やれば100回負けるでしょ。」
ユウキは小さくため息をつく、自分も予想はしていたがそこまで差があるものなのかと
「ですので、今回の様に不意を突く方法でないと、あっさり負けるでしょう、ですがこのままでは、次からは不意打ちも警戒されては意味がありません」
ではどうするのだろうか?
「ユウキ先輩が紅葉先輩の仲間になってください」
たしか勧誘されていましたよね?と悪魔が尋ねてくる。
「仲間になった振りをして、不意をつけと言う事ですか?」
「そんな器用な真似をユウキ先輩が出来るとも思いませんよ、ですけど策はありますが、それをユウキ先輩に教えると絶対にぼろが出てしまうのでここでは教えられませんがね」
悪魔はケラケラと笑いながら答えてきた。
「本気の本気で紅葉先輩と組んで見てくださいという意味ですよ」
「・・・文字通り人睨みで人を殺せる人間と恋敵である私を一緒にさせる気?」
腹を空かした猛獣と檻の中で過ごすのと大差ない危険度だと思うのですが。
「ではもう一つの案は悪魔の残滓をラスボスと遭遇イベントが常にあるような状態で続けますか」
そうなんだよ、このラスボスついでにいうと追いかけてくるというクソ仕様付
「悪魔の残滓を集めないと、今のところお話にならないのだ。」
「悪魔くん、紅葉ちゃんを救う方法はある?」
「悪魔の残滓を全て吸収すればあるいは、でも想像以上に時間が無いのかもしれません。」
嫌な予感ほど良く当たるというけど・・・
「時間が無いというのは」
悪魔は少しだけ俯いてからこちらを向き直し告げる
「完全に悪魔の残滓に精神が飲み込まれてしまうと言う事です」
「精神が完全に飲み込まれたら人間に戻す事は不可能ということなんですね」
「・・・」
悪魔は答えないが、それが何よりも雄弁に物語っていた。そもそも只の人間一人が人のままあれだけの事をあっさりとこなしてしまうのはどれだけの事なのか、それはこちらが想像するよりも遙かに
《ピンポーン》
凄く、凄く嫌な予感がする。
《ピンポーン》・・・・・《ピンポーン》・・・・《ピンポーン》・・・《ピンポーン》・・《ピンポーン》・・《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》《ピンポーン》
徐々に間隔が狭くなっていくチャイム音を押している、紅葉の姿が玄関のモニターに映し出された。




