1話:冬の公園
わたしには大大大好きなお姉さんが居る、それだけでわたしは誰よりも幸せだ。
「ただいまー今日も冷えるねー」
すっかり日も沈みサラリーマンやOLはコートを羽織り出す、秋から冬へ変わろうかという季節だと言うのうに学校指定の学生服しか着てないのだから寒いのは当たり前なのにユウキはそんな事を言いながら帰ってきた。
台所ではユウキの大好きな3つ離れたトモエ姉さんが夕飯の準備をしていた。
ドアを開けた瞬間から漂うカレーの匂いに思わず涎が出そうになる。姉さんのカレーは絶品だ。
「あーうまそうな匂いだねー」
ユウキは思わず笑顔がこぼれそうになる。
「誰が作ってると思ってるのおいしいに決まっているでしょう」
そんな事より手洗いうがいをしてきない、うがいは30秒はしないとだめよ。風邪が流行ってるんだからと母親の様な事を言う
トモエ姉さんを尻目に素直に返事をして従うユウキは今年中学2年生
姉のしっかり者の(ユウキ目線では)トモエは高校2年生のトモエは美人なのに
浮ついた話1つなっかたが、ユウキも中学生だからと言って思春期らしい反抗期も無かった。
しかし姉は校内ではとてもモテるらしい不思議なの事に、通ってる高校は女子校のはずなのだが・・・
「やっぱり姉さんの作るカレーはめちゃめちゃ旨いよ」
姉を褒めたユウキはコツンと頭を小突かれた。
「ちゃんといただきますって言わないとだめでしょ」
トモエは小さな小皿二つにカレーをよそい、仏壇の前に置いて手を拝む、毎朝水も取り替えている仏壇には若い男女の写真が飾ってあった。
ユウキも一応形だけ真似をしてトモエと共に仏壇に手を合わせる。今から3年前にユウキが小学生の時にトモエとユウキの両親は事故に巻き込まれて死んだ。
両親が亡くなった時はトモエは少し素行の悪い(ユウキ目線)女子中学生だったが、泣いているユウキに抱きかかえながらはっきりと強い意志でこう言ったのだ。
「ユウキ泣くな、お前の泣き声は耳障りだ」その言葉の裏には《私が守ってあげるから、お前は泣くな》
字面だけだと血も涙も無いような言葉だけども、姉の肩が小刻みに震えているのと強く強く抱きしめられて、全身から伝わる姉の様々な思いを幼いながらもユウキはなんとなく察してそのまま泣くのを辞めた、、、
実際は泣き止むまで姉が待ってくれたのだが
それから3年、姉は親の残した遺産や生命保険や交通事故の相手への慰謝料の請求をやり繰りしたりしながら暮らしていた。
その当時のトモエ姉と同じ年になった自分には改めて姉の偉大さを再確認して、あの時よりも改めてトモエ姉はすごいなと今日も姉への憧憬を強めるユウキなのだった。
「なにニヤニヤしてるの」
とぐりぐりとほっぺを摘ままれたユウキは嬉しそうな顔して
「もっと強くもっと激しくお願いします」
「・・・・・いや、この子は」
若干のドン引きなトモエ姉さん、その引いた目も素晴らしいけど
「隙あり」
とユウキはとっさに姉の手から逃げるが
「トモエ様にに隙などないわ」
トモエ姉のしなやかで美しい手がユウキの頬に伸び先ほどよりも強めにほっぺを抓った。
「はぁはぁありがとうございますはぁはぁ」
すっとトモエの手がほっぺを離れて洗面所に向かって行った。
「ユウキあんたは学校でもそんな調子だと」
「いえ、相手は選んでます」
「食い気味に反論しない、黙る、正座
そこから30分ほど説教して頂いた、今日はいい夢が見れそうだ。
翌日、いつもの様に途中まで姉と一緒に登校、小学生の時みたいに手は繋いでくれないのだが、それでも手を伸ばせばすぐに掴めるがその距離は果てしなく遠いし、誰かに見られるのは良いが、それでトモエ姉の評判を下げるかもしれないので辞めておく。
学校では最近、隣町で奇妙な誘拐事件もとい神隠しが起こっていると言う噂が女子たちの間でのみ流行っているようだった。男子にはあまり広がらない噂のようだが
特にニュースや学校の回覧板なのではその手の話はなかったので、根も葉も無いだろうし、なんとなく暇つぶしの噂の類いだろうとユウキは結論付けてさっさと帰って
トモエ姉の今日の夕飯は何かなと今日はどうやってウザ絡みしようか考えていた。
「ただいまートモエ姉ー今帰ったよー」
「おかえりユウキ、今日はカレーだよ」
「2日目のカレーは旨いからね、さすがトモエ姉さん」
「ちなみ明日もカレーになりそうよ」
「・・・・・」
「ユウキあなたの頑張り次第では明日もカレーよ♡」
「食い過ぎた気持ち悪いよ、姉さん」
「よしよしよく頑張ったねー良い子良い子」
「ちょ、嬉しいけど、今は辞めて吐いちゃうから」
「吐いたら、それタッパーに入れて明日の弁当にするわよ」
「・・・・・」
「冗談よ冗談、少し休憩したらちょっと散歩にでも行きましょうかユウキ」
(トモエ姉さんの学校ではあの噂は流れていないのかな、でも夜にトモエ姉さんとデート
こんなチャンスは消して1回でも逃したくないよね、幸せな日々なんて何時までも続かないんだから)
「やっぱり夜は冷えるねトモエ姉さん」
厚手のコートを羽織ってはいるもののユウキは白い息を吐きながらトモエ姉は「そうね」と呟いて
さりげなく手を握ってきた。その手はとてもとても暖かく
「はい、あげる」手の中のホッカイロを渡された。
「この渡し方は駄目、絶対」
「なにそれ麻薬撲滅のポスターみたいな台詞だね」
「不治の病にかかる子が大量に出ちゃうよ」
「大丈夫大丈夫相手は選んでますから」
ケラケラと笑う姉さんは月に照らされて異常なほど綺麗でそれだけで自分の体温が上がるのを感じた。もしも自分が神様なら神隠ししちゃいそうだよ
家から少し離れた小さな公園に付いたラッキーな事にここまで、誰ともすれ違ってもいない通行人どころか車ともだ。
他愛の無い話をしていたらちょっと喉が渇いたから公園の自販機でなにか飲み物を買おうと言う姉さんが提案してきて、自販機の方を少し向いて、「なにしようか姉さんと」振り返ると
時間にしてもほんの5秒もしない短い間姉から目を離した瞬間に
公園から姉の姿は跡形も無く消えていた。
唐突にあの噂を思い出す。―神隠しのような誘拐事件の噂―
今更ながらに不安と共に思い浮かべるここに来るまでの不思議な様子に時間はまだ7時半、別に過疎化が進んでる村でも無いのに家から誰ともすれ違っていない
《誰とも、そう車とすら》
姉さんと二人きりなのが嬉しくて気にもしていなかったが、普段ならあり得ない異常な事だとユウキは言い知れない不安に襲われた。
いくら周囲を探してもトモエの陰すら見えず呼びかけても返事もなかった。
もしかしたらと家に帰ったが、トモエは何時まで経っても帰ってこない。
9時を過ぎた辺りで警察に連絡を入れて事情を詳しく聞かれたりして解放されたのは11時を過ぎていた。
様々な感情が渦巻いて一睡も出来なかった
―私が守ってあげるから、お前は泣くな―
そんな遠い日の記憶がなぜか何度もフラッシュバックした。
警察官と一緒にあの公園にも行ったが公園には誰も誰も居なっかたのだ・・・誰も
私は泣かないよ、泣かないから戻ってきてよ姉さん




