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もう1人は地球の裏側にいる

作者: 風奈多里

佐藤真由美は、24歳独身のOLだ。今日も重たい体を起こして、嫌々会社へ行く。特に今日は、女の子特有の日なので気が重い。




しかし、会社ではそんな顔を全く見せずに働いている。




会社のデスクへ到着すると、朝から片付けなくてはならない仕事が山積みになっていた。昨日も頑張ったけれども、今日も頑張らなくてはならない。




「佐藤さん、例の件、まとめておいたから、あとお願いね。」


朝一番に2つ年上の先輩が資料を渡してきた。


「はい。わかりました。」


すでに沢山の仕事を抱えてしまっていた真由美ではあったが、先輩から回ってきた仕事は断る事ができない。




さて始めるか…と真由美が資料を広げると、3つとなりのデスクから後輩がやってきた。


「おはようございます。佐藤先輩…あの…実は、この前の仕事の件なのですが…ちょっといろいろとありまして…次回から佐藤先輩にお願いしたいのですが…。大丈夫でしょうか?…すでに部長にも相談して…今までのことは全部伝えてあって…部長からも是非佐藤先輩にお願いしたいとのことで…。よろしくお願いします。」


と、後輩の斉藤結花がモジモジと目線を泳がせながら言った。


真由美は、なんのこと?と思い、首を傾げてポカーンと口を開けた。




斉藤結花は、今年入社した2つ年下の後輩だ。仕事ができない…というか、遅い…というか、とにかく業務が進まない。今回の仕事もきっと上手く回らなかったのだろう。部長には相談したと話しているが、真由美の耳には一切入ってきていなかった。しかし、事の流れをなんとなく察した真由美は、


「わかった。あとで色々と教えて。」


と、承諾した。


面倒くさいなぁと思いながらも、他に頼める人もいないのだろうと察し、しょうがなく引き受けた。




今日も目が回るような忙しさで、あっという間に1日が終わった。


真由美は、みんなが定時で帰る中、いつも少しだけ残業をする。わからないことを調べたり、慌ただしい中ではとてもできなかった確認作業もする。就業時間が終わり、落ち着いたところでないとできないこともある、と真由美は思っていた。


みんなより少し遅れて会社を出た真由美は帰りにコンビニに寄った。


忙しく、体も疲れているので、とても自炊なんてできやしない毎日であった。


帰宅して、コンビニ弁当を食べて、シャワーを浴びてベッドへ入った。




ベッドの中で、今日一日あったことを急に思い出した。


すると、真由美は、ふつふつと込み上げてくるものを感じた。


「先輩…。資料…自分でまとめたんだから最後までやってくれればいいのに…。なんで私に頼むの…。」


ふぅ…。と、真由美はため息をついた。


それと同時に、ドキドキと胸が鳴り、なんだかモヤモヤとしていた。




「結花…。できないからって私に丸投げかよ…。部長もなんなのよ…。」




真由美は、まるでもう1人の自分が現れたように感じた。もう1人の自分が地球の裏側にいるのかもしれない。もう1人の自分が会社に行ってくれればいいのに…とも思った。



「でも、裏側にいるんだから、そんな簡単には出てこれないよね…。出てこられても困るかな…。」


と、真由美は1人で笑った。


少しだけ涙が出た。






翌日…


真由美は、変わらず仕事に励んでいた。


すると、突然先輩がやって来てこう言った。




「この前の件、ありがとう。やっぱりあなたに頼んで良かったわ。」




この先輩の一言で、不思議とまたやる気が出た。






おしまい

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