第4話「結ばれた結束」
配属先の決まった海斗たちは、グループでの初陣に向けて武器やアイテムを買い揃えた。
その後海斗は、バステトと特訓をして少しずつ魔法が使えるようになり、とうとう初陣の日を迎えた。
僕たちは旧都跡に向かうため平原を歩いていた。
「ねえミラン
旧都跡ってどんなところなの?」
「旧都跡は約千年前に王都ラグナロクが滅びた場所で、今も尚崩れかけの古城だけが残されています」
「え、千年以上も経ってるのに?」
「その時の宮廷魔導師の仕業らしいぞ」
僕の質問に答えたのはマルクだった。
「この前その調査を行うために研究員が派遣されたのですが、何故か一人も帰って来なかったそうです」
「つまり今回俺らはその調査をするわけだ」
マルクは何故か嬉しそうに言った。
だが、僕は嫌な予感がしていた。
(このクエストは本当に調査だけで終わるのか?)
そして僕は1つ疑問を持った。
「でも今回のクエスト内容は奇妙な噂を調査するって話でしょ?」
「そのことなんだけど、私が聞いた話だとあの古城を通ると足音が聞こえたり、物音がしたりするらしいの…」
エリカは神妙な顔で答えた。
「エリカ、その話もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
「私だって風の噂で聞いただけだからそんなに詳しくはわからないわよ!」
(そうなるとやはり一筋縄じゃ行かなそうだな)
「ちゃんと心構えをしておいた方がいいよ、お兄さん」
フランは笑顔でそう言った。
「そうだね。ところでフランはそのぬいぐるみしか持ってないけど戦えるの?」
「大丈夫、私強いから」
「そ、そうなんだ」
「あー、お兄さん信用してないでしょ?」
「そんなことないよ」
そう言いながらもあまり信用していなかった。
「そうだ、お兄さんには特別に私の魔法教えてあげる。ほかの人には内緒だよ」
(フランの魔法か、考えたこともなかったなー
どんな魔法が使えるのか気になる)
僕がそう思っていると、フランは駆け足で近づき、小声で言った。
「私の魔法は変化魔法だよ」
「変化魔法?そんな魔法があるの?」
「まあ無属性魔法だから聞いたことがなくて当然だよ。私の魔法は名前の通り、触れたものを変化させられるんだよ。例えば、その辺に落ちてる木の枝を固くしたり、鋭くするのはもちろん、形を変えて剣にしたりすることも出来るんだよ。あ、ポーションとかにも出来るよ。凄いでしょ、お兄さん」
(凄いとかそういう次元を超えてる気が…)
「だからね、お兄さんを今すぐ八つ裂きにすることも出来るんだよ」
フランは今日1番の笑顔でそう言った。
僕は慌ててフランから逃げるかのように距離をとった。
「どうしたんですか? カイトさん」
みんなが心配そうな顔をして僕を見ていた。
「私がお兄さんを驚かしちゃっただけです。迷惑かけてごめんなさい」
フランは軽く頭を下げた。
「まったく、これからクエストだっていうのによくそんな呑気でいられるわね」
エリカは少し怒り気味にフランを注意した。
「続きは今度ね、お兄さん」
最後にフランは耳元で囁くようにそう言って、僕から離れていった。
しばらく僕たちが歩いていると、辺りは草原から荒野に変わっていた。
「みんな、そろそろ目的地だ。しっかり気を引き締めておけよ」
「うん」
マルクの呼びかけに僕は応えた。
「そうだ、古城の中に何があるかわからないから先に陣形と作戦を考えておこう」
「賛成だカイト」
「私も賛成です」
「お兄さんに賛成!」
「私も異論はないわ」
「じゃあまずみんなの武器を教えてくれないか?
まず僕は片手剣」
「私は杖です」
「俺は刀だぜ」
「私は弓よ」
「フランは?」
「私はダガーです」
「ねぇフラン、疑うようで悪いけど、本当にダガー持ってるの?」
「今は持ってないですが、戦う時はちゃんと使うので心配しないでください」
「今は持ってないのに戦闘中は使うってどう意味?」
「それは後でのお楽しみです」
「じゃあ前衛は
・片手剣の僕
・刀のマルク
・ダガーのフラン
後衛は
・杖のミランと弓のエリカ
これで行こう」
「はい、それでいいと思います」
他のみんなも頷いていた。
「ところであなたたち、そろそろ古城が見えてきたわよ」
そこには遠くからでもその大きさがわかるほど大きな城があった。
その後も僕たちはしばらく歩き、ようやく古城の前に到着した。
「改めて思ったけど大きいな」
僕は上を向きながら言った。
古城はレンガのようなもので作られていて、高さは百メートルを超えるほどの大きさで、見上げるだけで首を痛めそうなほどだった。
「カイト、凄いのは大きさだけじゃないぞ。千年くらい前に滅んだはずなのにところどころ崩れてるだけで、全然形を保っている。普通こんなのはありえないだろ」
僕は言われて初めて気づいたが、確かに崩れ落ちているところもなければ、大きな損傷もなく、見ているだけで楽しい建物という言葉にふさわしい城だった。
「あなたたち、私たちは古城を見て楽しむために来たんじゃなくて、古城の調査をするために来たんでしょ!」
僕たちはエリカに注意されてやっと我に返った。
「それにしても中に人の気配はありませんね」
ミランの言うとおり、とてもとまでは言わないが中に人がいるとは思えなかった。
「そうだ、そろそろ私の魔法で召喚モンスターを呼び出しますね」
「ちょ、ちょっと待って」
エリカは慌ててミランを止めた。
「どうしたんですか?」
「え、えっとその召喚されるモンスターって気持ち悪いのじゃないわよね?」
「はい?バステトは可愛いから大丈夫ですよ」
「そ、それなら良かった」
「それでは気を取り直しておいで 狩猟の象徴 バステト!」
ミランがそう唱えるとミランの手の上に小さな魔法陣が出来た。
「おはようバステト」
「ん? 海斗か...
ということはもう例の古城の前か」
バステトは少しあくびをしながら言った。
エリカはバステトに少しずつ近づいた。
「か、かわいい…」
エリカはバステトを見てそうつぶやいた。
「エリカにも可愛いところあるんだなー」
僕は少し笑いながら言った。
「うるさいわね!殺すわよ」
しばらく僕はエリカに睨み続けられた。
「皆さん、あそこに扉がありますよ」
ミランが指を指していた場所には二メートルほどの大きさの木造の扉があった。
僕たちは扉の前まで来た。
「ここは俺に任せろ。みんな下がっていてくれ」
マルクは鞘から刀を引き抜き、構えた。
[炎を纏いし刀]
マルクがそう唱えると、刀は炎に包まれた。
そして、そのまま扉を切り裂き、燃やした。
扉は完全に消滅した。
「今のは?」
僕はマルクに問いかけた。
「俺の必殺技だ」
「必殺技?」
「なんだ、カイトは必殺技も知らないのか?必殺技っていうのは自分で編み出した攻撃に名前をつけて、その名前を唱えると簡単にその技が使えるっていう仕組みだ」
(そんなものもあるのか
僕も考えてみようかな?)
「みんな、扉は開いたんだからさっさと中に入ろうぜ」
マルクはみんなに呼びかけた。
建物の中はホコリが充満していて、本当に何百年も使われていないのだと思わせた。
「おかしいわね」
エリカは地面を見ながら言った。
「何がおかしいの?」
「ついこの前に研究者が来たはずなのに、足跡のひとつもないのよ」
「言われてみれば確かに」
「カイトさん、おかしな点はそこだけではありませんよ」
「ミラン、それはどういうこと?」
「よく考えてみてください
扉のあった所にもホコリが積もっています」
「そうか、つまりこの扉は開けられなかったってことか
それとも、本当は研究者が来ていないか」
その時だった。
『カタカタカタカタカタカタ』
上の階から何か不気味な音が聞こえた。
「きゃー!!!い、今のなんの音!?」
エリカはものすごく怖がっていた。
「わからないけど上に何かあるのかも!見に行こう」
「い、嫌よ。上に何があるのかわからないのよ」
エリカは猛反対した。
「だけどそれを調査するのが俺らのクエストだぜ?」
「そうだけど…」
「じゃあエリカはここで待ってるんだ。上は俺たち四人で調べてくるから」
「わ、わかったわよ!ついて行けばいいんでしょ!ついて行けば!」
エリカは仕方なく納得したようだった。
「ねぇバステト」
ミランは小声でバステトを呼んだ。
「どうしたミラン」
「この建物にモンスターはいる?」
「生き物はいない。だが気配はする」
「それって」
「ああ、この建物にいるのはおそらくアンデッドだ。さっきの音から察するにスケルトンだろう」
「それならみなさんに言わないと」
「そうした方がいい」
「皆さん、バステトが感知したにはこの建物にはスケルトンがいます」
「スケルトンだと?」
マルクは険しい顔をした。
「マルク、スケルトンってそんなに厄介なモンスターなの?」
「いや、スケルトン自体はそこまで強くないんだが、種類によっては自己再生するものや、倒したスケルトンと合体するものもいるんだ」
「たしかにそれは厄介な相手だな」
僕たちはスケルトンについて話しながら階段を登っていた。
『カタカタカタカタカタカタカタカタ』
「まただ」
僕が少し上を向いているとフランが近寄ってきた。
「お兄さん、お願いがあるんだけど最初に倒したスケルトンの骨を2つちょうだい」
「いいけど、どうして?」
「それはね…
ナイショ」
『カタカタカタカタカタカタカタカタ』
真上から不可解な音がした。
「だいぶ近づいてきたな」
「海斗さんおそらく次の階にはスケルトンがいます」
「わかったみんなもここからは特に気をつけて行動しよう」
みんなは静かに頷いた。
「あなたたち、ここに階段があるわよ」
エリカの目線の先にはたしかに階段があった。
(この上にスケルトンがいるのか)
「みんな、この階段少し崩れてるから気をつけろよ」
「それならわたしにいい考えがあります」
ミランはそういうと魔法を唱えた。
[光源]
その途端空中にサッカーほどの大きさの光る球のようなものが出来た。
そのおかげで階段の崩れた場所が見えるようになった。
「ありがとうミラン」
「いえいえみなさんのためにやったことなので」
ミランは笑顔で答えた。
「雰囲気が一気に変わったわね」
そこは今まで僕たちがいた場所とは違う場所だと錯覚させるほど空気が澱んでいた。
『カタカタカタカタカタカタカタカタ』
今度はすぐ近くで音がしていた。
「みなさん、そこの角を曲がったところにスケルトンが三体います」
「先手必勝だ!」
マルクはそのまま飛び出していった。
僕が見た頃には既にスケルトンはバラバラになっていた。
「どんなもんだ」
マルクは笑顔で言った。
「油断するんじゃないわよ」
剣を持ったスケルトンがマルク目掛けて走ってきていた。
だが、バステトが手を振り下ろすと粉々に砕け散った。
「やるわね、その召喚獣。私も負けてられないわ!」
エリカは通路の奥に向かって矢を放った。
『ガチャガチャガチャ』
スケルトンの崩れる音がした。
「先に進むか」
マルクはみんなを先導して歩き始めた。
しばらく歩くとまた上に続く階段を見つけた。
『カタカタカタカタカタカタカタカタ』
相変わらずスケルトンの音は続いていた。
「奥にスケルトンがいます」
「私に任せて」
そう言うとエリカは矢を放った。
『カーーーーンッ』
だが、矢は金属音をたてて弾かれた。
スケルトンはそのままこちらに向かって走って来た。
そして、僕はあることに気づいた。
「あのスケルトン防具を着てる」
エリカはもう一度矢を放った。
『カーーーーンッ』
だが、またしてしても弾かれた。
「エリカここは僕に任せて」
「ちょっとあなたに何ができるっていうの?」
「まあ見てて」
僕は剣を構えて、魔法を唱えた。
[高速斬り]
僕は一気にスケルトンとの間合いを詰め、そして6連撃を繰り出した。
スケルトンはバラバラに崩れ落ちた。
「ほんとに技を決めた方が魔法が使いやすいな」
僕は一人で呟いた。
「ちょっとカイト、あなた魔法が使えないんじゃなかったの?」
「実はあの後特訓して、少しずつ使えるようになってきたんだ」
「カイト、見事だったぞ」
「ありがとうマルク」
「みんなもこれからどんなモンスターが現れるかわからないから、出し惜しみなんかしないで思いっきりぶっぱなすんだ」
マルクは楽しそうにしていた。
「そうだフラン、骨はあまり崩れないようにしたけど、これをどうするの?」
「ちょうどいい機会だから、みんなに私の魔法を見せるよ」
そういうとフランはぬいぐるみを手のひらより小さな大きさに変え、服の中にしまった。
そして、スケルトンの骨を2つ持った。
その途端、骨は少しずつ形を変え始めた。
ものの5秒で骨はダガーに変わった。
「フラン、今何をしたんだ!?」
マルクは咄嗟にフランに聞いた。
「これが私の無属性魔法だよ。物を自在に変化させられる魔法なんだ」
「無属性!?」
今度はエリカも驚きながら、聞いた。
「ミラン、無属性魔法ってそんなに凄いの?」
「はい、無属性魔法を使える人は非常に少なくて珍しいのですが、さらに物を自在に変化させる魔法なんて聞いたこともありません」
「フランってそんなに凄いのか」
僕は心から凄いと感じていた。
「みんな、そろそろ行こ」
フランは笑顔で言った。
僕たちはその後も探索を続け、一つの部屋を見つけた。
「広い部屋だな」
その部屋は僕たちが前に集められたギルドのホールと同じくらい、あるいはそれ以上の広さだった。
「多分ここで王様が生活していたんだろ」
「マルクさんの言う通りだと思います
これを見てください」
ミランが持っていたのは、錆びた小さな壺のようなものだった。
しかも、その壺は錆びていながらも黄金色に輝いていた。
「確かに千年前にこんなに沢山の黄金を持ってるのなんて王様くらいよね」
エリカは納得したように言った。
「他にも部屋がないか探してみよう」
僕たちはその部屋を後にした。
しばらく探索を続けていると、僕はあることを疑問に思った。
「急にスケルトンが出て来なくなったね」
「私たちが全部倒したんじゃない?」
「いや、まだ気配は沢山ある」
バステトはそう答えた。
「まだこの上に何かあるのか?」
「わかりませんが先に進みましょう」
少し歩いていると、今までよりも大きな階段が目の前に現れた。
「まだ上があるのか」
「なんだカイトもう疲れたのか?」
マルクは笑いながら言った。
階段を登った先には、城の入り口にあった扉よりも大きくて白い扉が待ち構えていた。
「お兄さんもう少し近づいてみよ」
僕はフランに腕を引かれ、扉の目の前まで来た。
フランは扉に耳を当てながら喜んでいた。
「お兄さん凄いよ!少し耳を当ててみて」
僕はフランに言われた通りに耳を当ててみた。
『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ』
中からしたのは数十体を超えるスケルトンの足音だった。
僕は慌てて扉から耳を離した。
「どうしたんですか? カイトさん」
ミランは少し不安そうに僕を見ていた。
「みんな、中から数十体のスケルトンの足音がした」
みんなの顔が強ばった。
「それはかなり厄介だな。しっかり作戦を立てないといけないな」
マルクは一呼吸おいてから言葉を続けた。
「これから行うことは命を掛けた作戦だ。今のうちに引き返したいやつはいるか?」
僕たちの中にそんな人はいなかった。
「マルク、あなたはこの中にそんな人がいると思ってその質問をしてるの?」
「いや、俺はみんなのことを信じてるからな」
マルクは笑顔で言った。
「じゃあ、早速作戦を立てよう」
「まず、俺が扉をぶっ壊す」
「そしたら私とお兄さんで攻撃を仕掛けるよ」
「私とミランは後方支援をすればいいわけね」
「よし、そうと決まれば早速実行しよう」
僕たちは武器を構えた。
[炎を纏いし刀]
マルクの一撃で完全に扉は壊れた。
僕とフランはそこに飛び込むかのように駆けた。
[高速斬り]
[刃の十字架]
僕は六連続でスケルトンをなぎ倒した。
フランも負けじとスケルトンを切り裂いていった。
[水爆弾]
エリカは爆発する水の矢を放ち、スケルトンは次々と破裂していった。
[天の鎖]
ミランがそう唱えると、空中から沢山の鎖が現れ、スケルトンを拘束した。
そこにバステトが一撃で仕留めた。
その後も僕たちは猛攻を続け、いつの間にかに最後の一体まで倒した。
「これで全部ね」
「ああ、動いてるスケルトンはもういないな」
「少し休憩してから探索を再開しましょう」
「それよりみんな、あそこに綺麗な魔石があるよ」
フランが指を指したところには、魔法陣の上に乗った赤い石のようなものがあった。
「ほんとだ、綺麗な魔石ね」
エリカは少しずつ近づいていった。
そして、もう少しで手が届くという所で魔石が光った。
「え、なに?」
「エリカ、危ない!」
僕は一気にエリカのもとまで行き、「それ」の攻撃を防いだ。
「なんだこいつ」
それは今までの倍程の大きさのあるスケルトンだった。
「厄介なのが現れたな」
マルクは睨むようにして言った。
僕はエリカを連れて一度距離をとった。
[水爆弾]
エリカの放った矢はスケルトンの腕にあたり、腕を破裂させた。
「う、嘘...」
だが、スケルトンの腕はすぐにあつまり元に戻った。
「エリカ、そいつには自己再生能力があるんだ!」
マルクは叫ぶように言った。
「そんなのどうしろって言うのよ!」
「カイト、俺たちで畳み掛けるぞ」
[炎を纏いし刀]
[高速斬り]
マルクが砕いたところに僕はさらに連撃を与え、スケルトンは粉々に砕け散り魔石の上に崩れ落ちた。
完全にスケルトンは動かなくなっていた。
たが、何かがおかしかった。
「マルク、嫌な予感がする。一旦距離をとろう」
僕とマルクが離れた次の瞬間だった。
魔石が赤く光り、元のスケルトンの形に戻していった。
「みんな、それだけじゃないぞ」
マルクは後ろを見て言った。
「そんな…」
先程倒したスケルトンの骨まで魔石に引き寄せられていった。
スケルトンは元の形から程遠い、ドラゴンのような姿になっていった。
「まさか、あれはスカルロード?」
ミランは呟くように言った。
バステトは一気に攻撃を仕掛けたが、それでもすぐに再生してしまった。
[水爆弾]
エリカはスカルロードの右翼を破裂させたが、一瞬で再生してしまった。
スカルロードは床を叩いた。
その衝撃波で僕たちは軽々と後ろに飛ばされた。
「せめて、あの魔石が見えていれば…」
ミランは呟くように言った。
「魔石が見えていればか…
そうだフラン、この矢でレイピアって作れる?」
エリカは何かを思いついたように言った。
「作れるよ少し貸して」
そう言ってフランが矢を受け取るとたちまち矢はレイピアに形を変えた。
「みんなに作戦を説明するわよ。まず、ミランにはあれの動きを封じて欲しいの。カイトとマルクはあの魔石が見えたらすぐに壊して」
「それはいいけど、エリカ何をする気なんだ?」
「私の魔法を最大限活用するのよ。じゃあミランお願い!」
「分かりました」
ミランは深呼吸をした。
[天の鎖]
ミランがそう唱えると、スカルロードの腕や脚を鎖が拘束した。
スカルロードは暴れながら宙に飛ぼうとしていた。
[刃の十字架]
フランは両方の翼を切り落とした。
スカルロードは羽の再生をさせていた。
その時、僅かな隙が出来た。
[水爆弾]
エリカはそう唱えると連続でレイピアを突き続けた。
すると、スカルロードの骨と骨の隙間に大量の水の球が出来た。
「これで終わり」
そう言うとエリカはレイピアを振り下ろした。
その途端、一斉に水の球が爆発した。
スカルロードは跡形もなく弾け、魔石が剥き出しになった。
「今だ!!」
[炎を纏いし刀]
[高速斬り]
僕とマルクは同時に魔石に向かって斬撃を繰り出した。
魔石は砕けた。
その後、スケルトンやスカルロードが再生することはなかった。
僕たちの勝利だった。
「これで本当に終わりだ」
僕たちは歓声をあげた。
「そうだ、この魔石の破片は回収していきましょう」
「そうだね、帰ったら詳しく調査してもらおう」
ミランはバステトに赤い魔石を渡した。
「でもなんで急に魔石が反応したんだろうね」
フランは楽しそうに言った。
「あくまで僕の予想だけど、あの魔法陣は人が近づくと反応する罠だったんじゃないかな?」
魔石のことが全く分からない僕にはそれくらいしか思いつかなかった。
僕たちはその後も城の探索をしたが、他にこれと言ったものを見つけることは出来ず、そのまま帰ることにした。城を降りる時は一度もスケルトンと遭遇せず、どうやらあの魔石が砕けた時に一緒に消滅したようだった。
その後僕たちはギルドに帰り、一連のことを副団長に報告した。
「調査クエストの予定でしたが、スケルトンの群れ、及びスカルロードの討伐はこちらの不手際でした
すみません」
エルザさんは僕たちに頭を下げた。
「頭を上げてください!結局、研究者の手掛かりは見つけられなかったんですから」
「その事で一つ気になる点があるのですが、建物の一階以外も最近誰かが入った形跡はありませんでしたか?」
「言われてみれば、一階以外はホコリとかなかったわよね」
エリカに言われて、僕たちは初めて1つ大きな見落としをしていた事に気がついた。
「つまり、つい最近まで誰かがあの城の中にいた?」
「カイトさん、それだけではありません
さっき魔法陣が発動したということは…」
「まさか、僕たちが城の中を探索していた時に誰かがいて、意図的にあの状況を作った可能性があるってことか」
それを聞いた途端エルザさんは立ち上がった。
「少しここで待っていてください。今すぐにあの城を一流の冒険者に調査させるので」
しばらくして、戻ってきたエルザさんは僕たちにある提案をした。
「お詫びというわけではないのですが、普通はこの後初心者グループとしてクエストを行うため、できるクエストにかなり制限があるのですが、今回は特別にあなた方を一般の冒険者グループとしてギルドで扱おうと思うのですが、いかがでしょうか?」
それは突然の提案だった。
「いえ、僕たちはただ自分たちの身を守るためにやっただけなので、そこまでして頂かなくても…」
「そうですよ、それに私たちはまだそこまでの実力は無いですし」
僕とエリカは遠慮するように言った。
「その事なのですが、スケルトンの群れとスカルロードの討伐及び魔石の発見...
これらは、一般の冒険者グループになるためには十分過ぎるほどの成果です。ギルド側としては出来れば今すぐにでも一般の冒険者グループになって頂きたいと考えております。この通りなので是非なっては頂けないでしょうか」
エルザさんは頭を下げながら言った。
「断る理由もないし、俺はいいと思うぞ」
「私もなっていいと思います」
「私も私も」
「まあいいんじゃない?」
「僕もいいと思うよ」
僕たちの意見は一致した。
「みなさんありがとうございます。最後に1つ間違えを訂正しておきますね。今回のクエストは足音などの調査をしていただくだけで、それ以外のこと特にしなくてもよろしかったのですよ」
エルザさんは少し笑顔で言った。
「では、早速私は手続きをしてくるので皆さんは先におかえりになって結構ですよ」
僕たちはそのままギルドを後にした。
「カイト、さっきは助けてくれてありがと…
でも、助けてほしいなんて言ってないんだから!お礼を言って貰えるなんて思わないでよね!」
「うん、僕もお礼を言ってほしいから助けたんじゃないよ
仲間が危険だったら助けるのが当たり前でしょ?」
「え、えっと、その…
あーもうカイトのバカ!」
「え、なんで!?」
「なんでもよ!」
エリカは顔を赤くしながら言った。
僕たちはみんな笑っていた。
これから先も一緒に戦ってくれる仲間がいると考えると僕は少し嬉しくなった。
どうもK&Kです。
今回は魔法について説明します!
魔法には
炎
水
土
雷
風
光
闇
毒
無
の9種類の属性があります。
無属性には無属性以外のどこにも分類出来ない魔法が入ります。
例えば空間魔法や転移魔法、フランの変化魔法のようなものが対象です。
ただ、召喚魔法は特殊で召喚するモンスターによって属性が分かれます。
次回は、赤い魔石について色々なことがわかっていきます。
是非期待して待っていてください!




