召使イ
ハイドランジア帝国と契約を交わした翌日、アザレアは次なる地へ足を運ぶべく、自室で準備をしていた。
「次は....迷いの森に少し挨拶に行くか。」
迷いの森ーーー亜人と人間が混合するこの世界において、亜人しか立ち入ることを許されていない秘境の森である。しかし人間の中でも王家や直属の人間など、位が高い物の立ち入りは許可されている。
ーー彼らの住処を管理しているのが王家だからである。
当然、住人は全て亜人であり、亜人のなかでも特に獣人族が多いのが迷いの森の特徴だ。実は大罪ノ民にも獣人族の家系のものがいるのだがーー
「...っ」
誰か来たようだ。
アザレアは、自室の豪奢な扉を見つめる。刹那、コンコン、という軽快な音とともに、アザレア様、失礼してもよろしいでしょうか。という可愛らしい声が聞こえた。
来る途中の気配で分かっていた。アザレアお付きの召使い、ランだ。
アザレアの部屋は特殊で、生まれながらに力を持つアザレアを狙うものが多かったために王家の魔力を注がないと外からは開けられない仕組みになっている。最も、中から開けることは誰でも出来るのだが。
ーーただ、例外もある。王家の魔力を注げば開くので、特殊な技術で王家の魔力を瓶に閉じ込めておけば開くのである。しかし、これにはデメリットもある。
王家の魔力を持つことができる人間は限られているのである。適正のない人間なら弾け飛ぶ。
ーーその適正を持つ一族が、ランの一族、胡蝶一族なのである。
ランがその魔力が入った瓶を扉にセットし
、注ぎ込む。
カチャリ、と鍵の開く音がした。
華奢な扉の向こうから、比較的若年の女性が姿を現す。ランは、14歳でアザレアのお付きに選ばれた。胡蝶一族の中でも特に優秀な才を持って生まれたためである。
「アザレア様、失礼しますね」
「ええ、久しぶりね、ラン。リリィのお世話、ありがとうね」
「アマリリス様ですね。正直アザレア様より手を焼きましたよ.....ふふっ」
ランは愉快そうに口元を綻ばせる。
「ところでラン、またリリィを頼むことになりそうだわ........次は迷いの森まで行こうと思ってね」
「ええ、構いませんよ。アザレア様はご自分のことをなさってくださいまし。」
そう言ってランはメイド服の裾を上品に摘み上げ、深々と恭しくお辞儀をした。
「うん、ありがとう、ラン。」
その言葉を最後に、ランは部屋を後にした。
お久しぶりです、夜月瀬奈です。これからぼちぼち投稿頻度高めていこうと思っています。
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