目論見
「姉様、失礼します」
「おか…え……り、ア…ザレア。」
「ただいま、エレクタム姉様。最近、王国が大変みたいね。」
「う…ん。わ、わた……しも、なに、か…し、たい……ん、でも、ム…リ……」
「姉様は、攻防どっちもできるんだから、最前線で戦えば良いのにー」
「た、戦い…たい、け……ど、…ん……アザ……レア…の…ほうが……強い…よ……?」
「姉様も十分強いし、いざ人の前にたてば、緊張なんてないでしょ?」
「ん……。じゃ…あ、必要……に…なった…ら、来…てね」
「わかった。じゃあ……」
「ま、待っ…て……これ……あ…げる」
「ん?わぁ、綺麗なイヤリング…いいの?」
「ん……アザ…レア……だか…ら……きっ…と…役、に立つ……」
「それイキシア姉様にも言われたー、ありがとう、エレクタム姉様。じゃあ、また後で。」
「う…ん。」
(次は…オレアのとこかしら)
「アザ……レア…絶……対戦う…でも……傲慢ノ民は助ける」
アルストロメリア王国第二王女、エレクタム・アルストロメリア・イベリスの部屋のドアを閉じる間際に呟かれた言葉がアザレアに届くことはなかった。
「オレア?入るよー」
「ほんっとあんたは馴れ馴れしいわよねぇ、私はあんたのお姉さまだぞー」
「え、ちょっと聞こえない」
「むきー!」
「オレア、王国が大変みたいね。」
「他人事の用に話すけど、お前もめちゃくちゃ関係あるからな!?……王家に反乱ねえ……」
「全く、オレアの名が泣くわね。平和も知恵もありゃしない」
「ちっとぐらいあるわぁ!」
「んで?自称、平和も知恵もある頭で何がわかってるの?」
「ア・ザ・レ・ア!……まあ、わかってることと言えば、イキシア姉様が何か企んでることぐらいね」
「やっぱり?エレクタム姉様も、イキシア姉様も何やってんだか」
「あー、エレクタム姉様もかー。あっちは傲慢ノ民とだろうなー。イキシア姉様は強欲ノ民だろ?」
「ええ、多分ね。オレアは?」
「ん?アタシ?まあ、嘘付いてもアザレアにはバレるから最初っから言うけど、大罪ノ民と協力中。アザレアは?」
「特に何もないけど、アマリリスを見てからハイドランジアに行こうと思ってる。」
「そ。行ってきたら?」
「じゃあ、行ってくる」
「あ、アザレア、これ持っていきな。」
「指輪……今日は貰い物が多いわね」
「嫌なら返せよ」
「まあ、ありがたくもらっておくわ。」
こうして、アルストロメリア王国第三王女、オレア・アルストロメリア・イベリスとの談話が幕を閉じた。
「アマリリス?入るよ?」
返事がないので、ドアを開けて中に入る。中程まで進むと、ちょうど物陰で見えていなかった位置に、人が倒れていた。――血を流して。
「アマリリス、そんなのでびびんないわよ。本気で私を騙したければ、血ぐらい本物を使いなさい」
すると、むくっとその少女が起き上がって―――
「第七術式!」
少女が高らかに叫び、刹那、アザレアの周りの空気が奪われた。そこに無数の氷槍が降り注ぐ。
「――錬度が足りないわ」
アザレアの前には、女神が立っていた。
「せめて、レノンティウーナを凌げるほどの空気を操れるようにならないと、私には勝てないわよ。――でも、上達したわね。久しぶり、アマリリス。」
「うう…久しぶりぃ、アザレア姉様ぁ」
「アマリリス、ちょっと聞きたいことあるんだけど」
「なぁに?王国のことかしらぁ?」
「それもあるけど……『神の真意』使って、姉様達のこと読める?」
「いいけどぉ……対価はぁ?」
「欲しいもの何でも作るわ」
「そぉ?じゃあ……くまのぬいぐるみ!」
「そんなのでいいの?」
「そんなのがいいのぉ」
「そ。―――catellinetta」
アザレアの詠唱に応じて、手の中にくまのぬいぐるみが生成される。
「はい、できたわよ」
「やったぁ!―――大天使ガブリエルよ我にその力を注ぎたまえ」
『また?呼び出す頻度が高いわねー。で?今回は何をすればいいの?』
「三人の姉様の真意が知りたいわぁ」
『わかったわ。今、覗いてくるわ』
そう言うと、大天使ガブリエルはスッと消えた。
「相変わらずすごいわよね。その年で魔術もまだ不十分なのに大天使と契約できる型代は。」
「アザレア姉様と比べたら、大したことないわぁ。寧ろ、比べられて困るほうよぉ」
「私でも一歳で神に見初められる程じゃないわ」
『ただいまー。んで、イキシアからだけど……ってか、あの三人組んでるね。アマリリスが組まないのが不思議なくらい。多分……王座、いや、王だけが持つことのできる魔具、ドーピング剤よね。魔力をあげるなんて。それを手にして、アザレアに勝ちたいんじゃない?姉としての威厳もあるし。それと、そのネックレスとイヤリングと指輪だけど……外に出たらそれに常に監視されるから置いていった方がいいよ』
「ありがとうねぇ、ガブリエル。そういうわけだからぁ、アザレア姉様、お気をつけてぇ」
「ええ、気を付けるわ。ありがとう、アマリリス。」
「ごきげんよう~」
そうして、王家跡取りの末席に名を刻む、アルストロメリア王国第五王女、アマリリス・アルストロメリア・イベリスとの再会を終えた。