9年ぶりの再会
「止めてくれって言われても…」
頭の中で何が起きたのかを考え、千里眼を使いながらアザレア・アルストロメリア・イベリスはそう言う。
「お願いします!創造主の力をお持ちになるあなたなら分かるはずです!どうか、争いを止めてください!」
そう言いながら私の婚約者、ヘデラ・アイビーはこの地方の伝統文化である『ドゲザ』をする。
「私からもお願いいたしますの。姉上。私がここに来た理由はそれですの。」
そう言いながら、同じく『ドゲザ』をするのは私の従妹、唐桃杏である。
「……まあ、王女として、そういうことは放っておけないしね。すぐ行く。」
そう。私はアルストロメリア王国第四王女なのだから争いを絶対に止める。
千里眼で先程まで見ていた国の風景でだいたい状況は分かった。あとは、転移をすればいいのだけれど……
「……あなたたちは転移使えないわよね?」
「「はいっ!」」
……2人揃って満面の笑みで元気一杯に言われてしまった。
もう、これは諦めるしかないな。別に魔力的な問題ではない。もっと個人的な問題で、この二人にはあまり転移を使いたくないのだ。
「……とりあえず、城に帰るわよ。」
私は転移の魔方陣を展開させながら、昔のことを思い出していた。
――――――――――――――――――
「ねぇねぇアザレア、僕たちのこと、転移して?」
そう言って来る、この少し背の低い男の子はヘデラだ。
「私もしたいですわ、姉上!」
と、今よりもさらに舌足らずな声で話すのは、杏だ。
「ふふっ、いーよー!」
今では考えられない程の天真爛漫な笑みを咲かせるのは3歳のアザレアだ。
「Moment move――――」
アザレアは言語魔術を使う。その時、ヘデラと杏が同時に動いた。
「「ひゃっほーい!」」
「!?二人ともっ!危ないっ!」
「「え?」」
アザレアが言ったときには遅かった。慌てて術式を解除しようとするが――間に合わない。座標から二人がずれたことで、本来転移するはずの物がなくなり、そこだけ真空空間になったのだ。そして、真空空間は広がっていき、ヘデラと杏をも包んでいった。
「っ!とりあえず、空気送り込まなきゃ!――来たれ、レノンティウーナ!気体を司りし全能の女神よ!」
3歳の子には、否、腕のいい大人の魔術師でもそう扱うことの出来ないペラヒーム魔術をいとも簡単に詠唱した瞬間、アザレアの隣に、一枚につき人を一人は包めそうなほど大きな翼を四枚生やし、その翼のうちの二枚を裸体に巻き付け、神聖な青白い光を放つ銀髪の美女が浮いていた。
『御呼びですか、我が主』
「あの真空の空間に、今すぐ空気を送って!」
『構いませんが…その必要は、ないかと。』
「なんで?あの二人を助けたいの!早く!」
『御言葉ですが、我が主、お二方をよくご覧になってください。』
「…?」
女神に言われ、アザレアは二人の方を見る。そこには、先程まで苦しんでいた二人の顔から、苦しみが消えていた。
「…え?どういうこと?」
『あくまで私の推測ですが…あの、ヘデラ、という方、【力】が発現したのではありませんか?』
「そ、そうなの?ヘデラ。」
「ん?あー、うん、なんか、発現したよ!うちの家系的に、気体操作かなあ。」
『よろしければ、私が稽古をつけて差し上げましょうか?』
「だってよ、ヘデラ。もう、心配して損したわ。杏も大丈夫ね?」
「ええ、ヘデラが発現してくれたお陰で、なんとか…」
「え、いいの!?こんな綺麗で凄い、気体を司るレノンティウーナ様に稽古をつけて貰えるなんて…!」
「ってなわけだからレノンティウーナ、暫くヘデラと仮契約してあげて。私との契約はどうする?」
『おそらく、我が主との契約を切ると、今のヘデラ様では契約したときに私から魔力が逆流し過ぎて大変なことになりかねます。ですから、契約は切らないで、仮契約をした方がよいかと。』
「そう、じゃあ、私との契約は切らないでおいて。」
『承りました、我が主――ヘデラ様、手を出してください』
「は、はい」
おずおずと出したヘデラの右手を、レノンティウーナは両手で優しく包み込む。
『――我、レノンティウーナの名において、ここに契約を結ぶ』
すると、二人の両手をレノンティウーナが放つ青白い光とは対称的な紅が包み、徐々に収束していった。
『これで、契約が結ばれました。パスを通じて私に呼び掛けて下されば、いつでもあなたの元に現れます。』
「あ、ありがとうございます…」
「レノンティウーナ、ありがとう。そろそろいい?」
『ええ、十分です。感謝します、我が主』
そう言うと、女神は青白い光を強めていき、やがて消えた。
――――――――――――――――――――
(あの時、二人を危ない目に遭わせたのが切っ掛けで、暫く転移封印してたのよね)
「Moment move―――――――――――――――」
(今度こそは…ね…)