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  妖精ピィピティストーク

作者: 建水

 ある処に農夫のおっさんがおりました。

 暖かな春の日、妖精ピィピティストークは退屈していました。彼女は農夫をからかってやろうと、おっさんに近づきました。

「こんにちわ」

「こんにちわ」

 おっさんは答えます。

「良い物を見せてあげよう」

 ピィピティストークは手にした野菜をおっさんに見せました。それは細長い棒のような形をしていました。

「これは…」

「これは扇菜せんさいという野菜だ」

「ほうほう」

 彼女は農夫の前で、扇菜を親指と人差し指で捻ります。なんの抵抗もなく扇菜は扇状に開きました。おっさんは目を丸くしています。

「こうしてあおぐ」

 ピィピティストークは表の濃い緑地を上にして扇ぎます。

「おおー、涼しい」

 扇菜から、涼しげな風が流れてきたのです。

「寒くなれば、こうする」

 ピィピティストークは裏の白地部分を上にして扇ぎます。

「おおー、今度は暖けえ」

 今度は扇菜から、暖かな風が送られてきたのです。

「気に入ったらあげよう」

 妖精ピィピティストークはおっさんに扇菜を渡して去りました。


 二日後、妖精ピィピティストークは再び農夫のおっさんに会いました。

「ピィピティストーク様、風が出なくなりました」

 おっさんは言います。

「どれどれ」

 ピィピティストークは扇状の扇菜を手にすると、要の部分を見ました。

「要を見ろ、赤くなっているだろう」

「おおー、そうですね」

「熟れ頃と言う事だ」

 二人が立っているすぐ側に湧き水があって、水は小さな石甕に流れていました。ピィピティストークは、石甕で扇菜を洗いました。

「食べてみろ」

「おおー、甘え」

「一週間で育ち、二日で熟れ頃になる」

 扇いでかぜが流れるのは、熟れ頃になるまでの二日間だけなのです。

 農夫のおっさんが是非育ててみたいと言うので、彼女は小さな袋に入った種をおっさんにわたしました。


 二ヶ月経って、ピィピティストークはみたび農夫に会いに行きました。農夫のおっさんは雇い人を1人使っていました。

 あれから扇菜を作って市場に出したところ、とても好評でおっさんは自分の畑の3分の1を扇菜畑にしていました。

「暑い日でも扇げば涼しい風が吹くのです、注文が多くて捌ききれませんです。今までの畑は雇い人に任せて、おらは扇菜畑にかかりきりです」

 おっさんは言います。

 妖精ピィピティストークは眉をひそめました。彼女はこんなにバカ受けするとは思っていなかったからです。おそらく春なのに夏並みの気温になっているせいです。

「ピィピティストーク様、もっと種を下さい。たくさん作りたいです」

「いや、欲をかくと酷い目にあうぞ」

「一生に一度のチャンスが来たんですよ。もう夏が目の前です、作って作って作りまくるです」

 熱心な農夫のおっさんに頼まれ、ピィピティストークは今度は背負わなければならない程の大きな袋に入った種を渡しました。


 半年後、ピィピティストークはよたび農夫に会いに行きました。畑の風景は一変していました。あたり一面の扇菜畑です。おっさんは、回りの畑全てを買い取り、自分の畑にし

たのです。

 農夫のおっさんは、もう農夫ではありません。ダブルのスーツを来て、左手の中指にはカマボコの形をした金の指輪をしています。腕には、スイス製の高級時計をはめていました。お腹も結構出てきていて、まるで大企業の役員みたいでした。回りにには何人もの雇い人がいて、おっさんの世話をしていました。広がる扇菜畑にも多くの人が働いている姿がみえます。おっさんは言いました。

「ピィピティストーク様、笑いが止まりません」

「いや、そろそろ冬が近くなるし、扇菜畑は縮小した方がよいぞ」

「なんの、冬になれば裏返しにして売れば良いのです。涼しい風が暖かい風に変わり、またバカ売れです」

 ぐわはぐわはと農夫のおっさんは笑いました。


 二日後、冬の前触れ冷雨があたりを襲いました。

 ピィピティストークが農夫のところへ行くと、おっさんはダブルのスーツの膝をついてわんわんと泣いていました。

「扇菜が、おらの扇菜が…」

 一瞬の冷雨で扇菜は全滅したのです。

扇菜せんさい繊細せんさいなだけに天災てんさいに弱い」

 そう言って妖精ピィピティストークは腹を抱えて笑いました。


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