米国が「スターウォーズ計画」をでっち上げたら米国が妄想したものを本当に打ち上げてしまった共産主義国家 その1
1983年。
突如としてレーガン大統領が掲げた戦略防衛構想は東側に衝撃を走らせた。
宇宙空間にレーザーやら何やらを射出できる人工衛星を打ち上げて防衛するという新たなミサイル防衛戦略構想である。
ソ連の技術者は「アメリカが突然そんな事をできるわけがないが、またいつものようにこのまま強引にゴリ押しされても困る」
ということでサリュートやサリュートとは名づけられなかったモジュールユニットなどによって得られたデータから彼らが妄想をぶっこいていたものを作り上げたのだった。
一方米国。
ソ連が人工衛星としてそんな危険な代物を作れそうだとは聞いていたが、彼らにはそれを打ち上げるロケットが存在しないと思っていた。(正確にはあるかもしれないが、東側に4年前に公開されたものはプロパガンダだと思っていた)
しかしソ連は1976年、N1ロケットが失敗した直後にN1並の性能を持たせた新たなロケットの開発を行う。
「エネルギア」である。
このエネルギア、実にソ連らしいロケットだ。
前回のN1の失敗を完全に生かしている。
N1ロケットが失敗した理由は多段式ではあるが1段目にグロ画像のように大量に配置されたロケットエンジンにあった。
見てわかる通りエンジンの数が尋常ではない。
このエンジン自体は汎用性のあるものを利用していて他のロケットでも利用用途のあるものを新たに開発していたが、30機もの大量にあるエンジンの出力制御はきわめて難しく、N1の場合は片方のエンジンが停止したら相対するもう片方のエンジンが自動停止するように出来ていたのだが、それは単純に停止したらどんどん出力が落ちるので100t級といっても本当に100t飛ばせるかは賭けみたいな部分があったのだった。
それでも1度は飛んだかもしれないといわれるから赤旗というのもまた怖いものである。
コロリョフをして20世紀最大にして最高のロケットたるサターンVの場合は13号以外じゃエンジンが停止したということも殆どなく、そしてサターンVの場合は1機停止しても残り4機で長時間エンジンを稼動させれば同じ軌道に乗れるという設計であるため、冗長性は確保されており、「フォン・ブラウン」もまた天才であったことがよく理解できる。
ではエネルギアではどうしたか。
エネルギアではエンジン本数を減らした。
エンジン本数を減らせるだけの高性能エンジンたるRD-120の開発とRD-170の開発に成功したからである。
実はこのRD-120とRD-170。
サターンVの基礎設計に着想を得て作られたのは全く知られてない。
特にRD-120に関してはなぜか「スペースシャトルのメインエンジンのパクリ」などといわれるが、公開された技術を見ると全く違う。
むしろこのエンジンは「フォン・ブラウンが密かにサターンVのエンジンの秘密を伝えたのではないか?」と思うほどに、構造自体はソ連らしいが制御系などはフォン・ブラウンが最後に関わったサターンVにそっくりである。
何がソックリかというと、前述した「エンジンが停止したら残りのエンジンでもって長時間稼動させて同じ高度まで飛ばす」という、N1ではあくまで姿勢制御のために相対する位置にあるエンジンを停止させるものがサターンVと同様に進化した。
エネルギアではRD-120が16機、RD-170が1機搭載されているが、RD-120については4機が1つの燃料タンクを共有して稼動する。
そしてこの四身一体とも言える部分は切り離し可能で燃料が切れたら途中で切り離すことが出来る。
これを見ると「なんだスペースシャトルのパクリか」と思うかもしれないが、普通に構造が少し似ているだけで両者は全く異なるものである。(打ち上げ方式が酷似しという原因に米国からの技術リークがあったのではないかとは言われている)
またこのRD-120についてはターボポンプが1つであり、米国や日本式の「複数の燃料を複数のターボポンプを用いて飛ばす」というようなものではない。
1つのエンジンに1つのターボポンプというのは軽量化に寄与し、エンジン出力を「熱力学上の限界点に極限まで達成させる」という凄まじい性能を誇った。
だがこの熱力学的に限界まで迫るエンジンの基礎技術自体はN1ロケットの頃にすでに開発に成功はしていた。
だがN1ロケット用のNK-33の頃は「1つのシャフト軸と1つのノズルに対し2つのターボポンプを稼動する」というちょっとがんばったけどまだまだといった存在である。
それをまるで血液の中に紅茶でも入れなければ思いつかないような「1つのターボポンプで複数の燃料を送り込む」という今現在西側諸国では全く実用化できていないものを実用化することでエンジンの信頼性を大幅に上昇させると共に、ノズル1つに対しての出力はNK-33より強力で大型なエンジンとしているから凄いのだ。
それまで小型エンジンしか作れなかったソ連がこれらの技術開発によってスペースシャトルのメインエンジン並のものを作れたというのは非常に重要なことである。
RD-120はターボポンプが1つである関係上、制御関係も非常に簡易的に出来るので複雑なコンピューターを搭載する必要性が無い。
よってこの時代、出遅れていたコンピューター関係の能力を補うことが出来た。
そして前述した「長時間使用する」という前提によって作られ、連続使用時間は今までのソ連式ロケットの3倍以上と、凄まじい頑強さを誇る。
実の所「再利用可能」なレベルに頑強である。
RD-170は現在のロシアのロケットのデファクトスタンダードとなった凄まじいエンジンでノズルは4つあるが、何と1つのターボポンプでこの巨大なノズル4つに燃料を送り込む。
これもこの当時ソ連の技術者が「もはやこれ以上の出力アップは物理法則を捻じ曲げるしかない」と主張していたように、熱力学的にそちらの方が出力を稼げるからそんな構造にしているが、こちらもまた非常に頑強で強力なエンジンである。(後にRD-171やRD-180という形で出力アップした)
N1ロケットの頃、エンジンの数は30機も存在していたが、これを大幅に減らしただけではなく極めて信頼性の高いものを作ることが出来た。
特にエネルギアが凄まじいのは「RD-120」の四機一体の部分は実質的にはスペースシャトルの左右に付属するアレと同様のものであり、この数を増やすともっと出力アップできる点にある。
基本は4つ付けて100tを飛ばすのだが、実は装着できるラック部分は作られており、後4つ、つまりRD-120エンジンを16増やしてN1みたいなことにもできる。
その場合の積載重量は150tとサターンVを超える存在である。
そんなエネルギアの完成によってソ連は何を飛ばしたかというと、2000年代に入るまではブランだけを飛ばしたといわれていたが、実際には1980年代からのリーク情報などでムック本では「秘密兵器を飛ばした」と書かれていた。
現在では比較的名の知れた「ポリウス」である。
これこそ「ブランとかいうスペースシャトルよりもソ連が飛ばしたかった存在」であったりするのだ。
当時打ち上げの際、日本人が現地で実況中継したにも関わらず、ロケットの裏側しか見せてもらえなかったアレである。
ムック本や赤旗印の宇宙技術書では「模型」と書かれていたが、実物はアメリカすら震え上がる存在であった。
そちらについては次回説明する。