表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

第二十回

「分からない。どういうこと?」

「ふむ。悪いがちょっと水を汲んできてくれんか」

 立ち上がり、土間に降りる。瓶の蓋をどけて、椀に水を汲むと囲炉裏端に戻った。

「一口飲んでみ」

 冷えた水がすっと喉を通り胃に染み渡った。

「澄んでおるじゃろ?」

「飲み水だもの」

「そうじゃ。うまいだろ。だがの、こうするとどうかの?」

 おばばは囲炉裏の灰を一掴み、椀に入れた。

「これを飲むの?」

「同じ水であることに変わりはないだろう?」

「そりゃそうだけど……」

「カミとのつながりも同じようなものじゃで。少しでも濁りがあると、清い水も口がつけらんものになってしまう。それはお前さんの心、ひとつ。……のぉ、サワネ。お前さんはオオサクラ様が好きか?」

 サワネは首を大きく縦に振った。

「好き。おら、オオサクラさまは大好きだ」

「なら、オオサクラさまとの繋がりをそのまま受け入れるんじゃ。ただ、ありのままを見留め、余計なことは考えるな。濁りに、惑わされるだけだからの」

 しばらく思案してからつぶやいた。

「……分かった」

「心を清く、そして強くもて」

「うん」

「……さ、そしたらこれ以上は語らせんでくれ。あまりにも畏れ多いことだでな」

「もっと教えてくれないの?」

「まだカミガミを語るに、おばばは若すぎる。もっと年寄りになったら、教えてやれるかも知れん」

「それじゃいつになるか分からないよ」

 声を立てないおばばの笑いが指先から伝わってくる。じっと握り締めてくれているその手をサワネは見つめた。

「ありがとう、おばば」

 顔を上げると、穏やかなほほ笑みがあった。

「……それにしても今朝は冷えるの。サワネ、悪いが火を大きくしてくれ。歳をとると鼻水が出て困る」

 おばばはそういうと、わざわざぶるっと全身を震わせてみせた。

 囲炉裏の灰から火種を拾い出して、サワネは火口を近づけた。ひと吹き、ふた吹きで煙が上がり、小さな炎が揺らぎ始める。

 おばばが鼻をすする音がかすかに聞こえた。

「奥から木綿の上っ張り。……取ってこようか?」

「いや、いらんよ、いらん。ちょいと暖まったらすぐに用意を始めるさ」

 その時、物音がした。おばばは上の方を見上げる。

「おや、どうやらあの青二才め、目を覚ましおったな。朝餉に合わせて起き出すなど、相当の食わせもんかもしれんぞ」

 そう言っておばばは笑う。

「サワネ、様子を見に行くぞ」

「うん!」

 サワネは撥ねるように丸木階段を駆け上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ