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第十一回

 サワネはもう一度大きく首を振った。

「かまいません。おら、平気です」

「あなたが思う以上に、大変なことなのですよ。姉に代わって謝らせてください。……お詫びに何かを差し上げようと思うのですが、望みのものはありますか。ただ、今の私には、必ずしもすべて沿えないかもしれない。それが悲しいところですが」

「いいえ、何もいらないです。その代りにどうぞ、おらをうちへお帰しください」

 口元を袖で隠し、鈴の音が響くようにオオサクラは笑った。

「もちろん、お帰しします。でも、今の私でも与えられるものはいろいろとあるのですよ。本当に何もいらないのですか?」

 首を横に振る。

「なるほど……。あの天狗があなたの真の名を手に入れたいと感じるのも、わかります」

 オオサクラはサワネの手を取った。暖かい手に触れられると、額の中心がむずむずして緑の光と鼻の奥の方には緑の香を感じた。はっと視線を上げるとオオサクラと目が合う。

「安心なさい。それは私とあなたの繋がりの証です。あなたは必ずや無事にお帰ししましょう。今の私にもそれぐらいの力はあります」

 そういうとオオサクラは優しく微笑んだ。

「ありがとうございます」

 サワネは頭を下げた。すると、額から全身を大きなものが包み込んでいく感触が広がっていく。暖かな日の光、心地よい風に包まれたように、心と体の内側から何かの力が湧き出て、サワネの全身を巡り始める。

「立てますか?」

「はい、なんとか」

 さっきまで全く足に力が入らなかったのに、オオサクラが軽く手を引くとすっとサワネは立ち上がることができた。

「それではお帰ししましょうね」

 そう言ったオオサクラだが、少し何かを考えるように、じっとサワネを見つめている。

「オオサクラ様、どうなされましたか?」

 オオサクラはまぶたを閉じると、左右に首を振った。

「私も、実のところ、あの天狗と変わらないのかもしれません。すぐにお帰ししようと申し出ておきながら、どうしてもあなたを手放せない」

「どういうことですか?」

「……もしよければ、私の話を聞いていただけますか」

 サワネは無言でうなずいた。

 オオサクラはゆっくりと、輝くもやの中を歩き始める。一歩進むたびに清らかな鈴のような音があたりに響いた。足元へは桜の花びらがいくつも散っては雪が溶けるように消えてく。

「実は、いにしえの木々に宿るカミがみな、お隠れになったのです。まったくお姿が見えず、いくら太古の言葉で語りかけても、届かない。私の姉、オオカエデもお姿が見えず、語らなくなりました」

「もしかして、オオカエデって、滝の中に生えていた大きな楓のことですか?」

「そうです」

「だったら、おら、この目でちゃんと見ました。葉っぱから光がいくつも空へ上がってました。あまりにもきれいで、びっくりしました」

「あなたが目にした木の姿は、私たちのような古の木々がもつ姿の片方にすぎません。本当の姿はその裏にあるのです。ところが、その姿が見えない。何より、問いかけに応じません。……太古の言葉が返ってこない。本来ならばその意味を、私が探らなければいけないのでしょう。ところが、今の私にはそれができないのです」

 そう言ってからサワネに向き直り、深々と頭を下げた。御簾のように黒髪がかかる。

「お願いがあります。助けてください」

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